JP2004360361A - 無耐火被覆鉄骨構造物 - Google Patents
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Abstract
【課題】火災を受ける鉄骨構造において、鉄骨構造を構成する柱が600〜800℃の高温強度(および高温時剛性)を有し、火災時の梁の伸び出し量を低減して柱に対する強制変形を抑制し、柱部材角を最終的に1/50以下に抑制できる無耐火被覆鉄骨構造を提供する。
【解決手段】鉄骨構造物を構成する柱を、常温時の降伏強度により高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温降伏強度)が、鋼材温度T(℃)が600℃以上800℃以下の範囲で、p≧−0.0029×T+2.48を満足する高温強度に優れた新規な鋼材で形成し、この柱と接合する梁(合成梁を含む)を、柱形成用の鋼材より常に高温強度が劣る鋼材で形成してなる無耐火被覆鉄骨構造物。
【選択図】 図8
【解決手段】鉄骨構造物を構成する柱を、常温時の降伏強度により高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温降伏強度)が、鋼材温度T(℃)が600℃以上800℃以下の範囲で、p≧−0.0029×T+2.48を満足する高温強度に優れた新規な鋼材で形成し、この柱と接合する梁(合成梁を含む)を、柱形成用の鋼材より常に高温強度が劣る鋼材で形成してなる無耐火被覆鉄骨構造物。
【選択図】 図8
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、火災時の梁の伸び出し量を低減可能な無耐火被覆鉄骨構造物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄骨構造物が火災を受けた場合には、火災階の梁が熱膨張して、柱を押し出すことにより、柱に大きな部材角が生じ層崩壊に至る可能性がある。このため、平成12年建設省告示第1433号として告示された「耐火性能検証法」において、柱の部材角δ/h(ここで、δは梁の伸び出し量の総和、hは階の高さ)を1/50以下にするために、火災区画の床面積Sの規模(火災区画の加熱梁の総延長L≒√S)に応じた温度制限を設けている。
また、欧州鋼構造協会(ECCS)が1980年に公表した「標準火災加熱に対する鋼構造耐力部材の耐火設計ヨーロッパ基準」や、特許文献1の例では、柱の部材角δ/hを1/30以下とすることが開示されている。
【0003】
梁の伸び出し量を低減できる構造としては、例えば、特許文献2には、梁継手に形状記憶合金を用いて梁の伸び出しをキャンセルする熱変形吸収構造が提案されているが、この構造では数十mm以上に達する梁の伸び出し量を吸収させることは困難であり、かつ、高価ということに加えて、梁上部の床スラブに拘束される場合では、熱変形吸収効果が十分に発揮されないなどの問題がある。
また、特許文献3には、ブレース構面骨組の梁を長期曲げモーメントが小さくなる位置で分割し、この分割梁の分割側の端部を水平方向に摺動自在に接続するスライド継手を設けて梁の伸び出し量を低減させる構造が提案されているが、この構造においても、対象がブレース構面骨組および分割梁構造に限定され、かつ特殊なスライド継手の採用によるコスト高に加えて、梁上部の床スラブに拘束される場合には、スライド継手の効果が十分に発揮されないなどの問題がある。このため、火災時の梁の伸び出し量を効果的に低減でき、高温強度および高温剛性にも優れた無耐火被覆構造の鉄骨構造物の実現が課題となっていた。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−326148号公報(p4の記載)
【特許文献2】
特開平7−18758号公報(請求項1、図1の記載)
【特許文献3】
特開平10−245889号公報(請求項1、図1の記載)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、火災を受ける鉄骨構造物において、高温強度および高温剛性に優れ、特殊な梁継手や骨組構造を用いることなく、火災時の梁の伸び出し量を低減して、柱部材角(δ/h)を最終的に1/50以下に抑制可能にして層崩壊を防止できる無耐火被覆鉄骨構造物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の(1)〜(4)を要旨とするものである。
(1) 火災を受ける鉄骨構造物であって、この鉄骨構造物を構成する柱を、常温時の降伏強度により高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温降伏強度)が、鋼材温度T(℃)が600℃以上800℃以下の範囲で、p≧−0.0029×T+2.48を満足する高温強度に優れた鋼材(以下「600〜800℃での高温強度に優れた鋼材」と呼称する。)で形成し、この柱と接合する梁を、柱形成用の鋼材より常に高温強度が劣る鋼材で形成したことを特徴とする無耐火被覆鉄骨構造物。
(2) (1)において、梁を合成梁としたことを特徴とする無耐火被覆鉄骨構造物。
(3) (2)において、合成梁を形成する床スラブに耐火補強筋を配したことを特徴とする無耐火被覆鉄骨構造物。
(4) (1)〜(3)のいずれかにおいて、高温強度に優れた柱形成用の鋼材が、質量%で、C:0.005%以上0.08%未満、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.6%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Mo:0.1〜1.5%、Nb:0.03〜0.3%、Ti:0.025%以下、B:0.0005〜0.003%、Al:0.06%以下、N:0.006%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる高温強度に優れた鋼材であることを特徴とする無耐火被覆鉄骨構造物。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明は、概念的には、火災を受ける可能性のある鉄骨構造物において、柱を600〜800℃での高温強度(および高温剛性)に優れた鋼材で形成して無耐火被覆構造を可能にするとともに、この柱と接合する梁を、柱形成用の鋼材より常に高温強度(および高温剛性)が劣る鋼材で形成して、火災時に伸びる梁の端部を高温剛性の大きい柱によって拘束して梁をたわませることにより、梁の伸び出しによる柱の強制変形を抑制し、柱部材角(δ/h)を最終的に1/50以下に抑制して層崩壊を防止するものである。
本発明者らは、火災による高温時に無耐火被覆構造で十分に耐えられる鉄骨構造物を実現するためには、600〜800℃での高温強度(および高温剛性)に優れた鋼材が必要であるが、柱と梁に同じ鋼材を使用した場合には、火災時の梁の伸び出しによって、柱に大きな押出力が作用し柱が強制変形して柱部材角(δ/h)が1/50以上、さらには1/30以上になって、火災時に層崩壊が生じやすくなるという知見を得た。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、より具体的には、以下の(1)〜(3)を要旨とするものである。
(1).鉄骨構造物を構成する柱を、常温時の降伏強度により高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温降伏強度)が、鋼材温度T(℃)が600℃以上800℃以下の範囲で、p≧−0.0029×T+2.48を満足する高温強度に優れた鋼材で形成し、この柱と接合する梁を、柱形成用の鋼材より常に高温強度が劣る鋼材、例えばSM490A(JIS G 3106)、SN490B(JIS G 3136)などの従来鋼材で形成することにより、火災時に伸びる梁の端部を柱によって拘束して梁をたわませることにより、梁の伸び出し量を低減して、梁の伸び出しによる柱の強制変形を抑制し、柱部材角(δ/h)を最終的に1/50以下に抑制する。
ここで、p≧−0.0029×T+2.48の条件は、火災による600〜800℃の高温時にも十分な降伏強度および高温剛性を確保して無耐火被覆構造を実現する重要な条件となるものである。
【0009】
この柱に接合する梁の条件としては、柱を上記の条件を満足する鋼材で形成した場合において、火災時の梁の伸び出しが、柱部材角(δ/h)が最終的に1/50以下になるように端部が柱で拘束される(伸びても撓むことにより伸び出し量が低減する)必要があることから、梁は柱形成用の鋼材より常に高温強度が劣る鋼材で形成することが重要な条件になる。(請求項1に相当)
なお、本発明で対象となる柱は、角形または円形の鋼管(溶接管を含む)やH形鋼などで構成され、また梁はH形鋼で構成される。この柱と梁の接合は、通常の場合、接合金物やダイアフラムを使用したボルト接合や、溶接接合またはボルト接合と溶接接合の併用により行われるが、いずれを組み合わせた場合にも本発明の適用は可能である。
【0010】
(2).梁は、合成梁{(鉄骨梁と、コンクリートからなる床スラブを頭付きスタッド(JIS B1198)などの剪断ずれ止めで接合することにより、梁と床スラブが一体となって曲げに抵抗する構造(日本建築学会:各種合成構造設計指針・同解説、1985)を有する梁を意味し、以下これを「合成梁」という。}とすることにより、床スラブのコンクリートの熱容量により、梁の伸び出し量をさらに低減できる構造とすることができる。(請求項2に相当)
この場合に、床スラブに耐火補強筋を配して上階床に対する耐荷力を増すことにより、高温時に梁が強度喪失しても水平防火区画としての床の機能を損なわないようにして、伸び出し量をさらに低減できる構造とすることができる。(請求項3に相当)
【0011】
(3).柱を形成する鋼材として、600〜800℃での高温強度および高温剛性に優れた鋼材を用いる。この鋼材は、1時間程度の比較的短時間における高温強度が優れたな低合金炭素添加の新規の鋼材である。
この鋼材としては、例えば、質量%で、C:0.005%以上0.08%未満、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.6%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Mo:0.1〜1.5%、Nb:0.03〜0.3%、Ti:0.025%以下、B:0.0005〜0.003%、Al:0.06%以下、N:0.006%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼材が適性が高いものである。(請求項4に相当)
【0012】
従来、600℃以上での高温強度を有する鋼材は、一般に耐火鋼と呼称しており、例えば、特開平2−77523号公報に記載の発明では、600℃で常温降伏強度の2/3以上(約70%)の高温強度を有する耐火鋼が提案されている。その他の耐火鋼に関する発明の例でも、600℃での降伏強度を常温降伏強度の2/3以上とすることが一般的となっている。
しかしながら、700℃の耐火鋼、800℃の耐火鋼は、現時点では高温強度の設定(常温降伏強度との比率)に一般則が見られない。例えば、特開平2−77523号公報に記載の発明では、相当量のMoとNbを添加した鋼材で、600℃での降伏強度が常温降伏強度の70%以上を確保するものであるが、火災時の梁の伸び出し量を低減し無耐火被覆構造を可能とすることを前提とするものではないし、700℃、800℃での耐力も示されていない。
【0013】
また、600℃での降伏強度が常温降伏強度の70%程度では火災時の温度上昇を考慮すると、耐火被覆量の低減は可能であるものの省略が可能となる鉄骨構造物は立体駐車場やアトリウムなどの解放的空間に限定されるため、無耐火被覆での使用は著しく限定される。
また、特開平10−68044号公報に記載の発明では、相当量のMoとNbを添加した鋼材でミクロ組織をベイナイトとすることにより、700℃の降伏強度を、常温降伏強度の56%以上にするものであるが、800℃の降伏強度は示されていない。
すなわち、これらの例のように600℃程度の高温強度を確保した鋼材は、既に市場でも使用されており、700℃程度の高温強度を確保する鋼材の発明もなされているが、火災時の梁の伸び出し量を低減し無耐火被覆構造を可能とすることを前提として、700℃、800℃での高温強度を安定確保できる実用鋼材の安定的な供給は困難であった。
【0014】
本発明では、柱に600〜800℃での高温強度に優れた鋼材を用いるが、梁に前記鋼材より常に高温強度が劣る鋼材、例えばSM490A(JIS G 3106)、SN490B(JIS G 3136)などの従来鋼を用いることを主眼とする。例えば、柱、梁ともに600〜800℃での高温強度に優れた鋼材を用いた場合、梁が相対的に強く高温時の剛性も高くなるため、却って梁の伸び出し量が大きくなってしまい、柱の部材角制限(例えば1/50)を早期に超過して層崩壊に至る懸念が大となる。また、柱に600〜800℃での高温強度に優れた鋼材を用い、梁に従来鋼を耐火被覆して用いた場合でも、上記の例以上に梁が強くなってしまうため、梁の伸び出し問題が回避できないことから、通常、梁の耐火被覆厚さを吹き増して梁の伸び出しを抑制するなどの対策を施さざるを得ない。
そこで、本発明では、柱を600〜800℃での高温強度に優れた(同時に高温時の剛性にも優れた)新規な鋼材で形成し、梁を柱形成鋼材より高温強度に劣る(同時に高温時の剛性にも劣る)、例えばSM490A、SN490Bなどの従来鋼材で形成し、特殊な梁継手や骨組構造を用いることなく、火災時の梁の伸び出し量を低減できる構造を、無耐火被覆構造として新たに提供するものである。
なお、本発明では、例えば柱を800℃での高温強度に優れた鋼材で形成する場合は、梁を従来鋼のほか、例えば600℃耐火鋼、700℃耐火鋼などで形成することも可能である。
また本発明では、仕上げボード材の熱遮蔽効果により、柱の適用火災温度範囲の拡大も考慮に入れる。すなわち、柱に600〜800℃での高温強度に優れた鋼材を用いる場合、鋼材の裸使用であれば、火災温度の上限は950℃程度となるが、仕上げボード材の熱遮蔽を期待できれば、火災温度の上限は1150℃程度とすることができる。
【0015】
以下に、本発明について詳述する。
1.梁の伸び出し量低減の考え方
(a)梁の伸び出しと高温時剛性
火災時に建築物が層崩壊することは許容できないから、少なくとも柱の熱応力による損傷は極力回避する必要がある。したがって、柱に許容できない強制変形が起こる以前に、梁に局部破壊を生じさせて柱の熱応力を緩和すればよいという耐火設計の考え方が採り得る。
すなわち、火災時には、梁に対して柱が拘束を与えると考えられるので、柱の剛性を高めて梁の材端拘束度を大にして、梁を意図的に早期に局部破壊させて熱応力の緩和を図り、柱が外側に大きく押し出されるような強制変形を防止するのが有効である。ただし、梁の局部破壊後も、床スラブに耐火補強筋などを配して上階床に対する耐荷力を増し、水平防火区画としての床の機能を損なわないことが必要である。このようにすれば、梁が高温時に強度喪失しても、床の荷重は柱に直接伝達されるため、床崩壊を回避することが可能となる。
【0016】
図1(a)、(b)に梁の材端拘束度と熱変形の関係を示す。図1(a)は、柱に600〜800℃での高温強度に優れた(同時に高温時の剛性にも優れた)鋼材を用い、梁に前記鋼材より常に高温強度が劣る(同時に高温時の剛性にも劣る)従来鋼材を用いた場合を示し、柱による梁の材端拘束度を大きくして梁の伸び出しを小さくすることによって、柱の強制変形を小さくし柱部材角δ/hを1/50以下に小さくして層崩壊を防止できることが分かる。
なお、図1(b)は、柱と梁に同レベルの高温強度に優れた(同時に高温時の剛性にも優れた)鋼材を用いた場合を示し、柱による梁の材端拘束度が小さく梁の伸び出しが大きくなり、柱の強制変形が大きくなることによって柱部材角δ/hが1/50より大幅に大きくなり、層崩壊が生じやすくなる。したがって、このような現象の発生を回避する必要がある。
【0017】
なお、常温時の降伏強度により高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温降伏強度)と常温時のヤング係数により高温時のヤング係数を無次元化したヤング係数低下率r(高温ヤング率/常温ヤング率)を比較すると、同一温度ではp<rの関係があることが知られている。
図2(a)(b)に、建築物の総合防火設計法 第4巻 耐火設計法:建設省大臣官房技術調査室監修、(財)国土開発技術研究センター編集((財)日本建築センター平成元年4月発行)より転載した、従来鋼での鋼材温度T(℃)と降伏応力度比(降伏強度低下率pに相当)の関係、鋼材温度T(℃)と弾性係数比(ヤング係数低下率rに相当)の関係を示す。
また、図3(a)(b)に、建築構造用耐火鋼[NSFR]Cat.No.AC104:1996.2版(2000.1、新日本製鐵株式会社発行)より転載した600℃耐火鋼での鋼材温度T(℃)と応力の関係、鋼材温度T(℃)とヤング係数の関係を示す。
同じ温度で見た場合、図2と図3は、単位が同一のものではないが、同一の単位に置き換えた場合には、降伏強度低下率pよりヤング係数低下率rの方が低下の割合が緩やかであることを示しており、このことから、ヤング係数低下率rを、降伏強度低下率pで代用すれば安全側の評価ができることが分かる。また同時に、高温強度に優れた鋼材を用いることは、すなわち、高温剛性に優れた鋼材を用いることが分かる。よって、以下では、高温時の降伏強度低下率pをヤング係数低下率rに読み替えて用いることとする。
【0018】
(b)梁の伸び出し量の算定方法
火災時の加熱により梁温度が均等にT℃上昇して、熱応力σtを生じたとすると、この時の梁の歪度はεtとなり、熱膨張による梁の見掛け上の伸び率aは下式で表される。
σt=Etb×εt (1)
a=b×T−εt (2)
ここに、σt:高温時の梁の熱応力度(N/mm2)
εt:高温時の梁の歪度
Etb:高温時の梁のヤング係数(=rb×Eb)(N/mm2)
Eb:常温時のヤング係数(N/mm2)
rb:高温時の梁のヤング係数低下率
a:梁の見掛け上の伸び率
b:線膨張係数(=1.2×10−5)
T:高温時の鋼材温度(℃)
【0019】
一方、高温時の梁の材端弾性固定係数(バネ定数)をkとすると、梁の熱応力度σtは、次式で表される。
σt=k×l/Ab×a (3)
ここに、k:高温時の梁の材端弾性固定係数(バネ定数)(N/mm)
Ab:梁の断面積(mm2)
l:梁の長さ(mm)
ただし、kは、図4に示す火災時変形のモデルを基に式(4)で求める。なお、柱は高温時においても長期荷重に対して十分な軸耐力を有するものとする。
ここに、ku:火災階の上階柱(常温)による梁の材端拘束度(N/mm)
1/ku=(h−db)3 /(24×Ec×Ic)
+(h−db)/(Gc×Ac)
=(h−db)×{(h−db)2 +10.4×dc2 }
/(24×Ec×Ic)
h:階の高さ(mm)
db:梁のせい(梁の上下フランジの中心間距離)(mm)
Ec:常温時の柱のヤング係数(N/mm2)
Ic:柱の断面二次モーメント(=Ac×dc2 /6)(mm4)
Gc:常温時の柱の剪断弾性係数(=Ec/2.6)(mm3)
Ac:柱の断面積(mm2)
dc:柱のせい(柱の左右フランジの中心間距離)(mm)
kd:火災階の柱(高温)による梁の材端拘束度(N/mm)
1/kd=(h−db)
×{(h−db)2 +10.4×dc2 }
/(24×Etc×Ic)
Etc:高温時のヤング係数(=rc×Ec)(N/mm2)
rc:高温時の柱のヤング係数低下率
【0020】
式(1)に式(2)〜(4)を代入して、火災時の梁の見掛け上の伸び率aが求まる。
ここに、Ec/Ed=1.0LAB=l/Ab
RCB=rc/{(1+rc)×rb}
HDC=(h−db)×{(h−db)2 }+10.4×dc2 }
よって、火災時の梁の伸び出し量の総和δが、次のように求められる。
ここに、L:火災区画の梁の総延長(=n×l)(mm)
n:火災区画の梁のスパン数(ここでは各梁の長さはすべて同一と
する。)
【0021】
例えば、柱、梁ともに従来鋼を用いた場合、柱:□−400×19、梁:H−600×200×11×17、階の高さ(h):4m、各梁の長さ(l)6m、火災区画の加熱梁の総延長(L):24mとすれば、d=38.1cm、db:58.3cm、Ab=131.7cm2 、Ic=66,600cm4 、LAB=4.56/cm、HDC=45,100,000cm3 であり、550℃でrc=rb=0.4(表4参照)であるから、RCB=0.714となる。
よって、温度(T)が550℃の時点で梁の伸び出し量の総和δは、δ=14.2cmとなり柱部材角1/30(δ=13.3cm)を超えてしまう。
【0022】
2.合成梁による梁の伸び出し量の考え方
梁を合成梁とした場合、床スラブのコンクリートの熱容量により、コンクリートの上昇温度は鉄骨梁より小さくなり、梁の伸び出し量は前述した場合より低減される。文献「FR鋼の耐熱性能とこれを用いた合成梁の耐火性能」(窪田伸ほか):日本建築学会大会学術講演梗概集、1999.9、pp.43−46)より転載した、合成梁試験体の梁温度と床スラブ上面(スラブ裏面)温度の例を図5(a)に示す。図5(b)は、ここで用いた合成梁試験体と加熱実験装置例を示すものである。図5(a)に示すように、梁(ここではH−400×200×8×13)の下フランジおよびウエブの温度が約600℃の場合でも床スラブ上面は約50℃に留まっている。
【0023】
また、一般に梁は全断面一様の温度上昇を仮定するが、合成梁の場合、床スラブの熱容量のため、梁の下フランジから上フランジにかけて、梁断面の高さ方向に温度勾配が生じる。このため、梁に全断面一様の鋼材温度を仮定した場合に比べて、実際の梁の鋼材温度(平均値)は小さくなり、梁の伸び出し量は前述した場合よりさらに低減される。
図5(a)から、載荷開始時の梁の最高温度は、ウエブおよび下フランジの約600℃であるが、上フランジが約450℃のため、その平均値は約550℃となっており、最高温度から約10%低くなっていることが分かる。
梁断面の高さ方向での温度勾配を考慮した場合、梁には熱たわみが生じるため、梁端部には、この熱たわみを拘束する曲げモーメントが生じ、これより梁端部は温度勾配を配慮しない場合に比べ早期に塑性化(局部座屈発生)する。このため、梁のたわみは大きくなり、同時に柱が受ける梁からの押し出し量は小さくなる。
図6に、梁端部の座屈発生時の変形を示す。この図から局部座屈発生の結果、梁の伸び出し量は減少することが分かる。さらに梁温度が上昇すると、梁は大きく柱にぶら下がるような状態になり、一度外側に大きく押し出された柱は逆に内側に引き戻される。その後、温度を上昇させると、最終的に荷重を支えきれなくなり崩壊(3ヒンジ状態)に至る。図7に3ヒンジ形成時の変形を示す。この図から梁の伸び出し量がさらに減少することが分かる。
【0024】
3.高温強度確保および鋼材成分等の限定の考え方
(a)高温強度確保の考え方
耐火設計においては、火災継続時間内で高い強度を維持すればよく、従来の耐熱鋼のように、長時間の高温強度を維持する必要はなく、比較的短時間の高温強度を維持すればよい。例えば、800℃での保持時間が30分程度の短時間、降伏強度が確保できれば、本発明でいう800℃耐火鋼として十分利用できる。
従来の600℃耐火鋼では、高温降伏強度が常温時の2/3以上となるように性能を定めていたが、鉄骨構造物の実設計範囲が、常温降伏強度下限の0.2〜0.4倍程度であることを勘案すれば、常温時の降伏強度から高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温時降伏強度)が、鋼材温度T℃が600℃以上800℃以下の範囲でp≧−0.0029×T+2.48を満足することが必要となる。言い換えると、実績の降伏強度低下率(p)が、600℃でp≧0.74、700℃でp≧0.45、800℃でp≧0.16を満足すればよい。
【0025】
高温強度増加に対してはMo、Nbの複合添加により、高温において安定な炭窒化物の析出を促進するとともに、ミクロ組織のベイナイト化が有効である。常温強度を高め、高張力鋼としての特性を強調するためにはベイナイト単組織としてもよい。しかし、硬質ベイナイトの分率が多いほど常温の強度が高くなることから、降伏比の上限が要求される場合には、所要の常温強度および諸特性に応じて、ミクロ組織をベイナイト単組織または適切なベイナイト分率を有するフェライトとベイナイトの混合組織とすることが望ましい。
適切なミクロ組織を作り込み所要の常温強度範囲を達成するには低C化が有効である。低C化は、ベイナイトあるいはベイナイトとフェライトの混合組織の高温における熱力学的安定性を高め、オーステナイトへの逆変態温度(Ac1)を上昇させる効果を持つ。しかし、この場合、ミクロ組織および材質が圧延条件とその後の冷却条件により影響を受けやすく、安定的な製造が困難であることが判明した。
【0026】
そこで、本発明者らは、ミクロ組織制御と高温強度の増加に取り組んだ結果、適量のB添加が製造安定化に有効であることを知見し、本発明の柱形成鋼材として適性の高い鋼材であると判断するに至った。一般的な溶接構造用鋼として、溶接性は従来と同様に具備する必要があるため、700〜800℃の高温強度は、Mo、Nb、V、Tiなどの合金元素の複合添加による析出強化とミクロ組織のベイナイト化による転位密度の増大、さらには固溶Mo、Nb、Vによる転位回復遅延が有効であり、Tiも若干の効果があることを突き止めた。
700〜800℃の強度と常温の強度の全てを同時に確保するためには、ミクロ組織を適切なフェライトとベイナイトの混合組織あるいはベイナイト単組織とするとともに、添加合金元素量を最適範囲として、高温における母相組織の熱的安定性と整合析出強化効果および転位回復遅延効果を得ることが重要であることを見い出した。さらに、低降伏比を確保するためには、ミクロ組織を適切なフェライトとベイナイトの混合組織とすることが必要である。
鋼材の降伏強度は、一般に450℃近傍から急激に低下するが、これは温度上昇に伴い熱活性化エネルギーが低下し、転位のすべり運動に対して低温では有効であった抵抗が無効となるためである。通常、700℃未満程度の温度域での強化に利用されるCr炭化物やMo炭化物などは、転位のすべり運動に対して600℃程度の高温までは有効な抵抗として作用するものの、800℃という高温では再固溶してしまうため、ほとんど強化効果を維持できない。
【0027】
本発明者らは、高温における安定性のより高い単独あるいは複合の析出物を種々検討した。その結果、MoとNb、Ti、Vの複合析出物は高温における安定性が高く、700〜800℃においても高い強化効果を有することを見出した。すなわち、Mo、Nb、Ti、Vを適量添加して圧延時の加熱温度を高くとることで、これらを十分に固溶させ、かつ、転位密度の高い適切な圧延組織の導入により、析出物が析出可能な析出サイトを確保することで、再昇温時、例えば火災による昇温中にMoとNb、Ti、Vの複合析出物が微細に析出する。
こうした複合析出物も、700〜800℃保持中に成長粗大化して、やがて強化効果は小さくなるが、非常に微細かつ高密度に分散して存在する場合、30分程度の保持時間内においては、800℃降伏強度目標値を十分得ることができる。しかし、析出物自体は安定であっても、温度上昇によって素地が変態すれば析出物と素地との整合性が失われて非整合になるために、析出物による強化作用が急激に低下する。すなわち、高温でも安定な複合析出物による強化効果を利用するためには、設計温度である800℃においても素地組織を変態させないことが材料にとって必須となる。したがって、具体的には、オーステナイトフォーマーであるMnの添加量を低くするなどの合金元素の調整によって、鋼のAc1変態温度を800℃以上とすることが必要である。
【0028】
(b)鋼材成分等の限定の考え方
以下に本発明による各成分の限定理由を説明する。なお、%は質量%を意味する。
Cは、鋼材の特性に最も顕著な効果を及ぼす元素であり、Mo、Nb、Ti、Vとの複合析出物(炭化物)を形成するために必須であるため、少なくとも0.005%が必要である。これ未満のC量では強度が不足する。0.08%を超えて添加するとAc1変態温度が下降するために800℃における強度が得にくく、また靭性も低下するので、0.005%以上0.08%未満に限定する。さらに火災相当の高温加熱時にフェライトとベイナイトの混合母相組織を熱力学的に安定に保ち、Mo、Nb、Ti、Vの複合炭窒化析出物との整合性を維持して、強化効果を確保する上で、0.04%未満とすることがより望ましい。
Siは、脱酸目的のため鋼に含まれる元素であり、置換型の固溶強化作用を持つことから常温での母材強度向上に有効であるが、特に、600℃超の高温強度を改善する効果はない。また、多く添加すると溶接性、HAZ靭性が劣化するため、上限を0.5%に限定する。なお、鋼の脱酸はTi、Alのみでも可能であり、HAZ靭性、焼入性などの観点から低いほど好ましく必ずしも添加する必要はない。
【0029】
Mnは、強度、靭性を確保する上で不可欠な元素ではあるが、置換型の固溶強化元素であるMnは常温での強度上昇には有効であるが、特に600℃超の高温強度にはあまり大きな改善効果はない。したがって、本発明のように比較的多量のMoを含有する鋼において溶接性向上すなわち、PCM低減の観点から、1.6%以下に限定する。Mnの上限を低く抑えることにより、連続鋳造スラブの中心偏析の点からも有利となる。さらにAc1変態温度を800℃以上とするためには、添加を抑制する必要があり、上限を0.9%とすることが望ましい。なお、下限については、特に限定しないが、母材の強度、靭性調整上、0.1%以上添加することが望ましい。
Pは、本発明鋼においては不純物であり、P量の低減はHAZにおける粒界破壊を減少させる傾向があるため、少ないほど好ましい。含有量が多いと母材、溶接部の低温靭性を劣化させるため、上限を0.02%とする。
Sは、Pと同様、本発明鋼においては不純物であり、母材の低温靭性の観点からは少ないほど好ましい。含有量が多いと、母材、溶接部の低温靭性を劣化させるため、上限を0.01%とする。
【0030】
Moは、高温強度を高める複合析出物を構成する基本元素であり、本発明鋼においては必須元素である。MoとNb、Tiとの複合析出物、あるいは、MoとNb、Ti、Vとの複合析出物を高密度に得て高温強度を高めるには、0.1%以上添加することが必要である。1.5%を超えて添加すると母材材質の一様性の制御が困難になるとともに、、溶接熱影響部の靭性の劣化を招き、さらには経済性を失するため、Moの添加量は0.1%以上1.5%以下、より好ましくは0.2%以上1.1%以下とする。
Nbは、Moを比較的多量に添加する本発明においては700℃〜800℃の高温強度を確保するために重要な役割を演ずる元素である。まず、一般的な効果として、オーステナイトの再結晶温度を上昇させ、熱間圧延時の制御圧延の効果を最大限に発揮する上で有用な元素である。また、圧延に先立つ再加熱や焼ならしや焼入れ時の加熱オーステナイトの細粒化にも寄与する。さらに、析出硬化として強度向上効果を有し、Moとの複合添加により高温強度向上にも寄与する。0.03%未満では700〜800℃における析出硬化の効果は少なく、0.1%以上の添加が好ましい。一方、0.3%を超えると母材の靭性を低下させる恐れがあるため、上限を0.3%とする。よって、0.03%〜0.3%を限定範囲とする。
【0031】
TiもNbと同様に、高温強度上昇に有効である。特に母材および溶接熱影響部靭性に対する要求が厳しい場合には、添加することが好ましい。なぜならばTiNは、Al量が少ないとき(例えば0.003%以下)、Oと結合してTi2O3 を主成分とする析出物を形成、粒内変態フェライト生成の核となり溶接部靭性を向上させる。また、TiはNと結合してTiNとしてスラブ中に微細析出し、加熱時のγ粒粗大化を抑え圧延組織の細粒化に有効であり、また鋼板中に存在する微細TiNは、溶接時に溶接熱影響部の組織を細粒化するためである。
これらの効果を得るためには、Tiは最低0.005%以上必要である。しかし、多過ぎるとTiCを形成し、低温靭性や溶接性を劣化させるので、好ましくは0.02%以下、上限は0.025%とする。
【0032】
Bは、ベイナイトの生成分率を介して強度を制御する上で極めて重要である。すなわち、Bはオーステナイト粒界に偏析してフェライトの生成を抑制することを介して焼入性を向上させ、空冷のような冷却速度が比較的小さい場合においてもベイナイトを安定的に生成させるのに有効である。この効果を享受するため、最低0.0005%以上必要である。しかし、多過ぎる添加は焼入性向上効果が飽和するだけでなく、旧オーステナイト粒界の脆化や靭性上有害になるB析出物を形成する可能性があるため、上限を0.003%とする。
Alは、一般に脱酸目的のため鋼に含まれる元素であるが、脱酸はSiまたはTiだけでも十分であり、本発明鋼においては、その下限は限定しない(0%を含む)。しかし、Al量が多くなると、鋼の清浄度が悪くなるだけではなく、溶接金属の靭性が劣化するので上限を0.06%とする。
Nは、不可避不純物として鋼中に含まれるものであり、その下限は特に定めないが、N量の増加はHAZ靭性、溶接性に極めて有害であり、本発明鋼においてはその上限は0.006%とする。
【0033】
【実施例】
[実施例1]
本発明で柱形成に使用する600〜800℃での高温強度に優れた鋼材の実施例を以下に説明する。表1に示す化学成分組成を有する本発明による供試鋼と、表2に示す化学成分組成を有する比較鋼について、種々の鋼成分の鋼板(厚さ15〜50mm)を製造し、常温強度、靭性、700℃、800℃における降伏強度等を調査した。表3に比較鋼とともに本発明鋼の諸特性の調査結果を示す。
表3より、本発明鋼(600〜800℃での高温強度に優れた鋼材)No.1〜16の例は、いずれも所要の化学成分範囲であり、かつ、常温と高温の降伏強度比(p)が、鋼材温度T(℃)が600℃以上800℃以下の範囲で、p≧−0.0029×T+2.48を満足している。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
これに対して、比較鋼No.17〜31の例は、それぞれ以下の点が未達である。比較鋼No.17はCが過剰でありオーステナイトへの逆変態開始温度(Ac1)が800℃以下となるため、700℃、800℃でのpが低い。比較鋼No.18はCが不足であり490N/mm2級として常温の降伏強度が不足であるとともにpが低い。
比較鋼No.19は、Mnが1.6%を超えているため、Ac1が800℃未満となりpが低い。比較鋼No.20は、Mnが0.1%未満のため、常温の降伏強度、引張強さが低い。比較鋼No.21は、Pが0.02%を超えているため、母材のvTrs、再現HAZのvEoが低い。比較鋼No.22は、Sが0.01%を超えているため、比較鋼No.21と同様に母材のvTrs、再現HAZのvEoが低い。
【0038】
比較鋼No.23は、Moの添加量不足により炭窒化析出相、BCC相中固溶Moがともに不足したため、800℃でのpが低い。比較鋼No.24は、Moが過剰のため、母材材質の不均一性が増大し、再現HAZのvEoが低い。比較鋼No.25は、Nbが不足し、十分な析出硬化効果を得ることができなかったため、pが低い。比較鋼No.26は、Nbが過剰のため、再現HAZのvEoが低い。
比較鋼No.27は、Tiが過剰のため母材のvTrs、再現HAZのvEoが低い。比較鋼No.28は、Bが不足し、十分な焼入れ性を得ることができないため常温の降伏強度が低い。比較鋼No.29はBが過剰のため母材のvTrsが0℃近傍にあり、再現HAZのvEoが低い。比較鋼No.30は、Alが0.06%を超えているため、比較鋼No.29と同様に母材のvTrsが0℃近傍にあり、再現HAZのvEoが低い。比較鋼No.31は、Nが0.006%を超えているため、再現HAZのvEoが低い。
【0039】
[実施例2]
実施例1で示したような600〜800℃での高温強度に優れた本発明鋼と従来鋼を、柱、梁に用いた場合について、式(6)に基づく梁の伸び出し量δと鋼材温度(T℃)との関係を図8、図9に示す。なお、ここでは、高温時の柱のヤング係数低下率rc(すなわち、ここでは降伏強度低下率)が0.2に達した時点で軸耐力の保持能力を喪失したとして計算をストップしている。
表4に、本発明例および比較例▲1▼、▲2▼で、柱と梁に使用した鋼材のヤング係数低下率rを示す。高温時のヤング係数低下率rは、高温時の降伏強度低下率pを読み替えたものであり、従来鋼では、文献:平成12年建設省告示1433号(耐火性能検証法に関する算出方法を定める件)を参照して設定している。
【0040】
【表4】
【0041】
図8は、柱:□−400×19、梁:H−600×200×11×17、階の高さ(h):4m、各梁の長さ(l):6m、火災区画の加熱梁の総延長(L):30mの場合の鋼材温度と梁の伸び出し量δの関係を示すものである。図8より、柱、梁ともに従来鋼で形成した比較例▲1▼、柱、梁ともに発明鋼で形成した比較例▲2▼の場合いずれも、鋼材温度(T℃)が上昇するにつれて梁の伸び出し量δが増大して、温度が約250℃で柱部材角が1/50を、約400℃で柱部材角が1/30を超えることが分かる。
一方、柱を本発明鋼で形成し梁を従来鋼で形成した本発明例は、鋼材温度の上昇につれて梁の伸び出し量δが増大して、一旦、柱部材角が1/30を超えるものの、600℃でピークを迎えた後、梁の剛性低下が顕著になって梁の伸び出し量δが急激に減少して、700℃でほぼゼロになって、最終的に柱部材角がほぼゼロとなることが分かる。
【0042】
図9は、柱:□−400×19、梁:H−600×200×11×17、階の高さ(h):4m、各梁の長さ(l):6m、火災区画の加熱梁の総延長(L):18mの場合の鋼材温度と梁の伸び出し量δの関係を示すものである。図9より、加熱梁の総延長が図8の場合と比較して、3/5のため、梁の伸び出し量は小さくなるが、比較例は、鋼材温度が上昇するにつれて梁の伸び出し量δが増大して、約400℃で柱部材角が1/50を超え、約700℃で柱部材角が1/30を超える。一方、本発明例は、鋼材温度上昇につれてδが増大して、柱部材角が1/50を超えるものの、約600℃でピークを迎えた時点でも、柱部材角が1/30以下であり、最終的に柱部材角がほぼゼロとなっている。
図8、図9のいずれの場合も、本発明例では、柱を600〜800℃の高温強度に優れた鋼材で形成し、火災時による高温に対して無耐火被覆構造を可能にするとともに、梁を柱形成鋼材より高温強度の劣る鋼材で形成し、火災時の梁の伸び出しによる柱の強制変形を抑制することによって、柱部材角を最終的に1/50以下に抑制することができ、火災時の層崩壊を防止できることを示している。
【0043】
【発明の効果】
本発明は、火災を受ける可能性のある鉄骨構造物において、柱を600℃〜800℃で十分な高温強度と高温剛性を有する鋼材で形成して、梁を柱より高温強度(高温剛性)より劣る鋼材、例えば従来鋼で形成することにより、特殊な梁継手や骨組構造を用いることなく火災時の梁の伸び出し量を低減して、柱部材角を最終的に1/50以下に抑えることができ、火災による600℃〜800℃高温時においても層崩壊を生じない、無耐火被覆構造の鉄骨構造物を安定的に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】梁の材端拘束度と熱変形の関係を示す説明図で、(a)図は、梁の材端拘束度が大きい場合を示し、(b)図は、梁の材端拘束度が小さい場合を示す。
【図2】(a)図は、従来鋼(SM50)における鋼材温度Tと降伏強度低下率pとの関係を示す説明図、(b)図は、従来鋼(SM50)における鋼材温度Tとヤング係数低下率rとの関係を示す説明図。
【図3】(a)図は、600℃耐火鋼(NSFR490A)における鋼材温度Tと降伏強度低下率pとの関係を示す説明図、(b)図は、600℃耐火鋼(NSFR490A)における鋼材温度Tとヤング係数低下率rとの関係を示す説明図。
【図4】火災時の梁の伸び出しによる柱−梁の変形モデルを示す側面説明図。
【図5】(a)図は、合成梁の各部位の温度例を示す説明図、(b)図は、(a)図の温度を測定するために用いた加熱実験装置例と合成梁試験体例を示す断面説明図。
【図6】梁の伸び出し量を減少させる、梁端部の座屈発生時の変形例を示す説明図。
【図7】梁の伸び出し量をさらに減少させる、3ヒンジ形成時の変形例を示す説明図。
【図8】実施例2における本発明例と比較例での鋼材の温度とL=30mの梁の伸び出し量との関係を示す説明図。
【図9】実施例2における本発明例と比較例での鋼材の温度とL=18mの梁の伸び出し量との関係を示す説明図。
【発明の属する技術分野】
本発明は、火災時の梁の伸び出し量を低減可能な無耐火被覆鉄骨構造物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄骨構造物が火災を受けた場合には、火災階の梁が熱膨張して、柱を押し出すことにより、柱に大きな部材角が生じ層崩壊に至る可能性がある。このため、平成12年建設省告示第1433号として告示された「耐火性能検証法」において、柱の部材角δ/h(ここで、δは梁の伸び出し量の総和、hは階の高さ)を1/50以下にするために、火災区画の床面積Sの規模(火災区画の加熱梁の総延長L≒√S)に応じた温度制限を設けている。
また、欧州鋼構造協会(ECCS)が1980年に公表した「標準火災加熱に対する鋼構造耐力部材の耐火設計ヨーロッパ基準」や、特許文献1の例では、柱の部材角δ/hを1/30以下とすることが開示されている。
【0003】
梁の伸び出し量を低減できる構造としては、例えば、特許文献2には、梁継手に形状記憶合金を用いて梁の伸び出しをキャンセルする熱変形吸収構造が提案されているが、この構造では数十mm以上に達する梁の伸び出し量を吸収させることは困難であり、かつ、高価ということに加えて、梁上部の床スラブに拘束される場合では、熱変形吸収効果が十分に発揮されないなどの問題がある。
また、特許文献3には、ブレース構面骨組の梁を長期曲げモーメントが小さくなる位置で分割し、この分割梁の分割側の端部を水平方向に摺動自在に接続するスライド継手を設けて梁の伸び出し量を低減させる構造が提案されているが、この構造においても、対象がブレース構面骨組および分割梁構造に限定され、かつ特殊なスライド継手の採用によるコスト高に加えて、梁上部の床スラブに拘束される場合には、スライド継手の効果が十分に発揮されないなどの問題がある。このため、火災時の梁の伸び出し量を効果的に低減でき、高温強度および高温剛性にも優れた無耐火被覆構造の鉄骨構造物の実現が課題となっていた。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−326148号公報(p4の記載)
【特許文献2】
特開平7−18758号公報(請求項1、図1の記載)
【特許文献3】
特開平10−245889号公報(請求項1、図1の記載)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、火災を受ける鉄骨構造物において、高温強度および高温剛性に優れ、特殊な梁継手や骨組構造を用いることなく、火災時の梁の伸び出し量を低減して、柱部材角(δ/h)を最終的に1/50以下に抑制可能にして層崩壊を防止できる無耐火被覆鉄骨構造物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の(1)〜(4)を要旨とするものである。
(1) 火災を受ける鉄骨構造物であって、この鉄骨構造物を構成する柱を、常温時の降伏強度により高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温降伏強度)が、鋼材温度T(℃)が600℃以上800℃以下の範囲で、p≧−0.0029×T+2.48を満足する高温強度に優れた鋼材(以下「600〜800℃での高温強度に優れた鋼材」と呼称する。)で形成し、この柱と接合する梁を、柱形成用の鋼材より常に高温強度が劣る鋼材で形成したことを特徴とする無耐火被覆鉄骨構造物。
(2) (1)において、梁を合成梁としたことを特徴とする無耐火被覆鉄骨構造物。
(3) (2)において、合成梁を形成する床スラブに耐火補強筋を配したことを特徴とする無耐火被覆鉄骨構造物。
(4) (1)〜(3)のいずれかにおいて、高温強度に優れた柱形成用の鋼材が、質量%で、C:0.005%以上0.08%未満、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.6%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Mo:0.1〜1.5%、Nb:0.03〜0.3%、Ti:0.025%以下、B:0.0005〜0.003%、Al:0.06%以下、N:0.006%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる高温強度に優れた鋼材であることを特徴とする無耐火被覆鉄骨構造物。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明は、概念的には、火災を受ける可能性のある鉄骨構造物において、柱を600〜800℃での高温強度(および高温剛性)に優れた鋼材で形成して無耐火被覆構造を可能にするとともに、この柱と接合する梁を、柱形成用の鋼材より常に高温強度(および高温剛性)が劣る鋼材で形成して、火災時に伸びる梁の端部を高温剛性の大きい柱によって拘束して梁をたわませることにより、梁の伸び出しによる柱の強制変形を抑制し、柱部材角(δ/h)を最終的に1/50以下に抑制して層崩壊を防止するものである。
本発明者らは、火災による高温時に無耐火被覆構造で十分に耐えられる鉄骨構造物を実現するためには、600〜800℃での高温強度(および高温剛性)に優れた鋼材が必要であるが、柱と梁に同じ鋼材を使用した場合には、火災時の梁の伸び出しによって、柱に大きな押出力が作用し柱が強制変形して柱部材角(δ/h)が1/50以上、さらには1/30以上になって、火災時に層崩壊が生じやすくなるという知見を得た。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、より具体的には、以下の(1)〜(3)を要旨とするものである。
(1).鉄骨構造物を構成する柱を、常温時の降伏強度により高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温降伏強度)が、鋼材温度T(℃)が600℃以上800℃以下の範囲で、p≧−0.0029×T+2.48を満足する高温強度に優れた鋼材で形成し、この柱と接合する梁を、柱形成用の鋼材より常に高温強度が劣る鋼材、例えばSM490A(JIS G 3106)、SN490B(JIS G 3136)などの従来鋼材で形成することにより、火災時に伸びる梁の端部を柱によって拘束して梁をたわませることにより、梁の伸び出し量を低減して、梁の伸び出しによる柱の強制変形を抑制し、柱部材角(δ/h)を最終的に1/50以下に抑制する。
ここで、p≧−0.0029×T+2.48の条件は、火災による600〜800℃の高温時にも十分な降伏強度および高温剛性を確保して無耐火被覆構造を実現する重要な条件となるものである。
【0009】
この柱に接合する梁の条件としては、柱を上記の条件を満足する鋼材で形成した場合において、火災時の梁の伸び出しが、柱部材角(δ/h)が最終的に1/50以下になるように端部が柱で拘束される(伸びても撓むことにより伸び出し量が低減する)必要があることから、梁は柱形成用の鋼材より常に高温強度が劣る鋼材で形成することが重要な条件になる。(請求項1に相当)
なお、本発明で対象となる柱は、角形または円形の鋼管(溶接管を含む)やH形鋼などで構成され、また梁はH形鋼で構成される。この柱と梁の接合は、通常の場合、接合金物やダイアフラムを使用したボルト接合や、溶接接合またはボルト接合と溶接接合の併用により行われるが、いずれを組み合わせた場合にも本発明の適用は可能である。
【0010】
(2).梁は、合成梁{(鉄骨梁と、コンクリートからなる床スラブを頭付きスタッド(JIS B1198)などの剪断ずれ止めで接合することにより、梁と床スラブが一体となって曲げに抵抗する構造(日本建築学会:各種合成構造設計指針・同解説、1985)を有する梁を意味し、以下これを「合成梁」という。}とすることにより、床スラブのコンクリートの熱容量により、梁の伸び出し量をさらに低減できる構造とすることができる。(請求項2に相当)
この場合に、床スラブに耐火補強筋を配して上階床に対する耐荷力を増すことにより、高温時に梁が強度喪失しても水平防火区画としての床の機能を損なわないようにして、伸び出し量をさらに低減できる構造とすることができる。(請求項3に相当)
【0011】
(3).柱を形成する鋼材として、600〜800℃での高温強度および高温剛性に優れた鋼材を用いる。この鋼材は、1時間程度の比較的短時間における高温強度が優れたな低合金炭素添加の新規の鋼材である。
この鋼材としては、例えば、質量%で、C:0.005%以上0.08%未満、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.6%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Mo:0.1〜1.5%、Nb:0.03〜0.3%、Ti:0.025%以下、B:0.0005〜0.003%、Al:0.06%以下、N:0.006%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼材が適性が高いものである。(請求項4に相当)
【0012】
従来、600℃以上での高温強度を有する鋼材は、一般に耐火鋼と呼称しており、例えば、特開平2−77523号公報に記載の発明では、600℃で常温降伏強度の2/3以上(約70%)の高温強度を有する耐火鋼が提案されている。その他の耐火鋼に関する発明の例でも、600℃での降伏強度を常温降伏強度の2/3以上とすることが一般的となっている。
しかしながら、700℃の耐火鋼、800℃の耐火鋼は、現時点では高温強度の設定(常温降伏強度との比率)に一般則が見られない。例えば、特開平2−77523号公報に記載の発明では、相当量のMoとNbを添加した鋼材で、600℃での降伏強度が常温降伏強度の70%以上を確保するものであるが、火災時の梁の伸び出し量を低減し無耐火被覆構造を可能とすることを前提とするものではないし、700℃、800℃での耐力も示されていない。
【0013】
また、600℃での降伏強度が常温降伏強度の70%程度では火災時の温度上昇を考慮すると、耐火被覆量の低減は可能であるものの省略が可能となる鉄骨構造物は立体駐車場やアトリウムなどの解放的空間に限定されるため、無耐火被覆での使用は著しく限定される。
また、特開平10−68044号公報に記載の発明では、相当量のMoとNbを添加した鋼材でミクロ組織をベイナイトとすることにより、700℃の降伏強度を、常温降伏強度の56%以上にするものであるが、800℃の降伏強度は示されていない。
すなわち、これらの例のように600℃程度の高温強度を確保した鋼材は、既に市場でも使用されており、700℃程度の高温強度を確保する鋼材の発明もなされているが、火災時の梁の伸び出し量を低減し無耐火被覆構造を可能とすることを前提として、700℃、800℃での高温強度を安定確保できる実用鋼材の安定的な供給は困難であった。
【0014】
本発明では、柱に600〜800℃での高温強度に優れた鋼材を用いるが、梁に前記鋼材より常に高温強度が劣る鋼材、例えばSM490A(JIS G 3106)、SN490B(JIS G 3136)などの従来鋼を用いることを主眼とする。例えば、柱、梁ともに600〜800℃での高温強度に優れた鋼材を用いた場合、梁が相対的に強く高温時の剛性も高くなるため、却って梁の伸び出し量が大きくなってしまい、柱の部材角制限(例えば1/50)を早期に超過して層崩壊に至る懸念が大となる。また、柱に600〜800℃での高温強度に優れた鋼材を用い、梁に従来鋼を耐火被覆して用いた場合でも、上記の例以上に梁が強くなってしまうため、梁の伸び出し問題が回避できないことから、通常、梁の耐火被覆厚さを吹き増して梁の伸び出しを抑制するなどの対策を施さざるを得ない。
そこで、本発明では、柱を600〜800℃での高温強度に優れた(同時に高温時の剛性にも優れた)新規な鋼材で形成し、梁を柱形成鋼材より高温強度に劣る(同時に高温時の剛性にも劣る)、例えばSM490A、SN490Bなどの従来鋼材で形成し、特殊な梁継手や骨組構造を用いることなく、火災時の梁の伸び出し量を低減できる構造を、無耐火被覆構造として新たに提供するものである。
なお、本発明では、例えば柱を800℃での高温強度に優れた鋼材で形成する場合は、梁を従来鋼のほか、例えば600℃耐火鋼、700℃耐火鋼などで形成することも可能である。
また本発明では、仕上げボード材の熱遮蔽効果により、柱の適用火災温度範囲の拡大も考慮に入れる。すなわち、柱に600〜800℃での高温強度に優れた鋼材を用いる場合、鋼材の裸使用であれば、火災温度の上限は950℃程度となるが、仕上げボード材の熱遮蔽を期待できれば、火災温度の上限は1150℃程度とすることができる。
【0015】
以下に、本発明について詳述する。
1.梁の伸び出し量低減の考え方
(a)梁の伸び出しと高温時剛性
火災時に建築物が層崩壊することは許容できないから、少なくとも柱の熱応力による損傷は極力回避する必要がある。したがって、柱に許容できない強制変形が起こる以前に、梁に局部破壊を生じさせて柱の熱応力を緩和すればよいという耐火設計の考え方が採り得る。
すなわち、火災時には、梁に対して柱が拘束を与えると考えられるので、柱の剛性を高めて梁の材端拘束度を大にして、梁を意図的に早期に局部破壊させて熱応力の緩和を図り、柱が外側に大きく押し出されるような強制変形を防止するのが有効である。ただし、梁の局部破壊後も、床スラブに耐火補強筋などを配して上階床に対する耐荷力を増し、水平防火区画としての床の機能を損なわないことが必要である。このようにすれば、梁が高温時に強度喪失しても、床の荷重は柱に直接伝達されるため、床崩壊を回避することが可能となる。
【0016】
図1(a)、(b)に梁の材端拘束度と熱変形の関係を示す。図1(a)は、柱に600〜800℃での高温強度に優れた(同時に高温時の剛性にも優れた)鋼材を用い、梁に前記鋼材より常に高温強度が劣る(同時に高温時の剛性にも劣る)従来鋼材を用いた場合を示し、柱による梁の材端拘束度を大きくして梁の伸び出しを小さくすることによって、柱の強制変形を小さくし柱部材角δ/hを1/50以下に小さくして層崩壊を防止できることが分かる。
なお、図1(b)は、柱と梁に同レベルの高温強度に優れた(同時に高温時の剛性にも優れた)鋼材を用いた場合を示し、柱による梁の材端拘束度が小さく梁の伸び出しが大きくなり、柱の強制変形が大きくなることによって柱部材角δ/hが1/50より大幅に大きくなり、層崩壊が生じやすくなる。したがって、このような現象の発生を回避する必要がある。
【0017】
なお、常温時の降伏強度により高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温降伏強度)と常温時のヤング係数により高温時のヤング係数を無次元化したヤング係数低下率r(高温ヤング率/常温ヤング率)を比較すると、同一温度ではp<rの関係があることが知られている。
図2(a)(b)に、建築物の総合防火設計法 第4巻 耐火設計法:建設省大臣官房技術調査室監修、(財)国土開発技術研究センター編集((財)日本建築センター平成元年4月発行)より転載した、従来鋼での鋼材温度T(℃)と降伏応力度比(降伏強度低下率pに相当)の関係、鋼材温度T(℃)と弾性係数比(ヤング係数低下率rに相当)の関係を示す。
また、図3(a)(b)に、建築構造用耐火鋼[NSFR]Cat.No.AC104:1996.2版(2000.1、新日本製鐵株式会社発行)より転載した600℃耐火鋼での鋼材温度T(℃)と応力の関係、鋼材温度T(℃)とヤング係数の関係を示す。
同じ温度で見た場合、図2と図3は、単位が同一のものではないが、同一の単位に置き換えた場合には、降伏強度低下率pよりヤング係数低下率rの方が低下の割合が緩やかであることを示しており、このことから、ヤング係数低下率rを、降伏強度低下率pで代用すれば安全側の評価ができることが分かる。また同時に、高温強度に優れた鋼材を用いることは、すなわち、高温剛性に優れた鋼材を用いることが分かる。よって、以下では、高温時の降伏強度低下率pをヤング係数低下率rに読み替えて用いることとする。
【0018】
(b)梁の伸び出し量の算定方法
火災時の加熱により梁温度が均等にT℃上昇して、熱応力σtを生じたとすると、この時の梁の歪度はεtとなり、熱膨張による梁の見掛け上の伸び率aは下式で表される。
σt=Etb×εt (1)
a=b×T−εt (2)
ここに、σt:高温時の梁の熱応力度(N/mm2)
εt:高温時の梁の歪度
Etb:高温時の梁のヤング係数(=rb×Eb)(N/mm2)
Eb:常温時のヤング係数(N/mm2)
rb:高温時の梁のヤング係数低下率
a:梁の見掛け上の伸び率
b:線膨張係数(=1.2×10−5)
T:高温時の鋼材温度(℃)
【0019】
一方、高温時の梁の材端弾性固定係数(バネ定数)をkとすると、梁の熱応力度σtは、次式で表される。
σt=k×l/Ab×a (3)
ここに、k:高温時の梁の材端弾性固定係数(バネ定数)(N/mm)
Ab:梁の断面積(mm2)
l:梁の長さ(mm)
ただし、kは、図4に示す火災時変形のモデルを基に式(4)で求める。なお、柱は高温時においても長期荷重に対して十分な軸耐力を有するものとする。
ここに、ku:火災階の上階柱(常温)による梁の材端拘束度(N/mm)
1/ku=(h−db)3 /(24×Ec×Ic)
+(h−db)/(Gc×Ac)
=(h−db)×{(h−db)2 +10.4×dc2 }
/(24×Ec×Ic)
h:階の高さ(mm)
db:梁のせい(梁の上下フランジの中心間距離)(mm)
Ec:常温時の柱のヤング係数(N/mm2)
Ic:柱の断面二次モーメント(=Ac×dc2 /6)(mm4)
Gc:常温時の柱の剪断弾性係数(=Ec/2.6)(mm3)
Ac:柱の断面積(mm2)
dc:柱のせい(柱の左右フランジの中心間距離)(mm)
kd:火災階の柱(高温)による梁の材端拘束度(N/mm)
1/kd=(h−db)
×{(h−db)2 +10.4×dc2 }
/(24×Etc×Ic)
Etc:高温時のヤング係数(=rc×Ec)(N/mm2)
rc:高温時の柱のヤング係数低下率
【0020】
式(1)に式(2)〜(4)を代入して、火災時の梁の見掛け上の伸び率aが求まる。
ここに、Ec/Ed=1.0LAB=l/Ab
RCB=rc/{(1+rc)×rb}
HDC=(h−db)×{(h−db)2 }+10.4×dc2 }
よって、火災時の梁の伸び出し量の総和δが、次のように求められる。
ここに、L:火災区画の梁の総延長(=n×l)(mm)
n:火災区画の梁のスパン数(ここでは各梁の長さはすべて同一と
する。)
【0021】
例えば、柱、梁ともに従来鋼を用いた場合、柱:□−400×19、梁:H−600×200×11×17、階の高さ(h):4m、各梁の長さ(l)6m、火災区画の加熱梁の総延長(L):24mとすれば、d=38.1cm、db:58.3cm、Ab=131.7cm2 、Ic=66,600cm4 、LAB=4.56/cm、HDC=45,100,000cm3 であり、550℃でrc=rb=0.4(表4参照)であるから、RCB=0.714となる。
よって、温度(T)が550℃の時点で梁の伸び出し量の総和δは、δ=14.2cmとなり柱部材角1/30(δ=13.3cm)を超えてしまう。
【0022】
2.合成梁による梁の伸び出し量の考え方
梁を合成梁とした場合、床スラブのコンクリートの熱容量により、コンクリートの上昇温度は鉄骨梁より小さくなり、梁の伸び出し量は前述した場合より低減される。文献「FR鋼の耐熱性能とこれを用いた合成梁の耐火性能」(窪田伸ほか):日本建築学会大会学術講演梗概集、1999.9、pp.43−46)より転載した、合成梁試験体の梁温度と床スラブ上面(スラブ裏面)温度の例を図5(a)に示す。図5(b)は、ここで用いた合成梁試験体と加熱実験装置例を示すものである。図5(a)に示すように、梁(ここではH−400×200×8×13)の下フランジおよびウエブの温度が約600℃の場合でも床スラブ上面は約50℃に留まっている。
【0023】
また、一般に梁は全断面一様の温度上昇を仮定するが、合成梁の場合、床スラブの熱容量のため、梁の下フランジから上フランジにかけて、梁断面の高さ方向に温度勾配が生じる。このため、梁に全断面一様の鋼材温度を仮定した場合に比べて、実際の梁の鋼材温度(平均値)は小さくなり、梁の伸び出し量は前述した場合よりさらに低減される。
図5(a)から、載荷開始時の梁の最高温度は、ウエブおよび下フランジの約600℃であるが、上フランジが約450℃のため、その平均値は約550℃となっており、最高温度から約10%低くなっていることが分かる。
梁断面の高さ方向での温度勾配を考慮した場合、梁には熱たわみが生じるため、梁端部には、この熱たわみを拘束する曲げモーメントが生じ、これより梁端部は温度勾配を配慮しない場合に比べ早期に塑性化(局部座屈発生)する。このため、梁のたわみは大きくなり、同時に柱が受ける梁からの押し出し量は小さくなる。
図6に、梁端部の座屈発生時の変形を示す。この図から局部座屈発生の結果、梁の伸び出し量は減少することが分かる。さらに梁温度が上昇すると、梁は大きく柱にぶら下がるような状態になり、一度外側に大きく押し出された柱は逆に内側に引き戻される。その後、温度を上昇させると、最終的に荷重を支えきれなくなり崩壊(3ヒンジ状態)に至る。図7に3ヒンジ形成時の変形を示す。この図から梁の伸び出し量がさらに減少することが分かる。
【0024】
3.高温強度確保および鋼材成分等の限定の考え方
(a)高温強度確保の考え方
耐火設計においては、火災継続時間内で高い強度を維持すればよく、従来の耐熱鋼のように、長時間の高温強度を維持する必要はなく、比較的短時間の高温強度を維持すればよい。例えば、800℃での保持時間が30分程度の短時間、降伏強度が確保できれば、本発明でいう800℃耐火鋼として十分利用できる。
従来の600℃耐火鋼では、高温降伏強度が常温時の2/3以上となるように性能を定めていたが、鉄骨構造物の実設計範囲が、常温降伏強度下限の0.2〜0.4倍程度であることを勘案すれば、常温時の降伏強度から高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温時降伏強度)が、鋼材温度T℃が600℃以上800℃以下の範囲でp≧−0.0029×T+2.48を満足することが必要となる。言い換えると、実績の降伏強度低下率(p)が、600℃でp≧0.74、700℃でp≧0.45、800℃でp≧0.16を満足すればよい。
【0025】
高温強度増加に対してはMo、Nbの複合添加により、高温において安定な炭窒化物の析出を促進するとともに、ミクロ組織のベイナイト化が有効である。常温強度を高め、高張力鋼としての特性を強調するためにはベイナイト単組織としてもよい。しかし、硬質ベイナイトの分率が多いほど常温の強度が高くなることから、降伏比の上限が要求される場合には、所要の常温強度および諸特性に応じて、ミクロ組織をベイナイト単組織または適切なベイナイト分率を有するフェライトとベイナイトの混合組織とすることが望ましい。
適切なミクロ組織を作り込み所要の常温強度範囲を達成するには低C化が有効である。低C化は、ベイナイトあるいはベイナイトとフェライトの混合組織の高温における熱力学的安定性を高め、オーステナイトへの逆変態温度(Ac1)を上昇させる効果を持つ。しかし、この場合、ミクロ組織および材質が圧延条件とその後の冷却条件により影響を受けやすく、安定的な製造が困難であることが判明した。
【0026】
そこで、本発明者らは、ミクロ組織制御と高温強度の増加に取り組んだ結果、適量のB添加が製造安定化に有効であることを知見し、本発明の柱形成鋼材として適性の高い鋼材であると判断するに至った。一般的な溶接構造用鋼として、溶接性は従来と同様に具備する必要があるため、700〜800℃の高温強度は、Mo、Nb、V、Tiなどの合金元素の複合添加による析出強化とミクロ組織のベイナイト化による転位密度の増大、さらには固溶Mo、Nb、Vによる転位回復遅延が有効であり、Tiも若干の効果があることを突き止めた。
700〜800℃の強度と常温の強度の全てを同時に確保するためには、ミクロ組織を適切なフェライトとベイナイトの混合組織あるいはベイナイト単組織とするとともに、添加合金元素量を最適範囲として、高温における母相組織の熱的安定性と整合析出強化効果および転位回復遅延効果を得ることが重要であることを見い出した。さらに、低降伏比を確保するためには、ミクロ組織を適切なフェライトとベイナイトの混合組織とすることが必要である。
鋼材の降伏強度は、一般に450℃近傍から急激に低下するが、これは温度上昇に伴い熱活性化エネルギーが低下し、転位のすべり運動に対して低温では有効であった抵抗が無効となるためである。通常、700℃未満程度の温度域での強化に利用されるCr炭化物やMo炭化物などは、転位のすべり運動に対して600℃程度の高温までは有効な抵抗として作用するものの、800℃という高温では再固溶してしまうため、ほとんど強化効果を維持できない。
【0027】
本発明者らは、高温における安定性のより高い単独あるいは複合の析出物を種々検討した。その結果、MoとNb、Ti、Vの複合析出物は高温における安定性が高く、700〜800℃においても高い強化効果を有することを見出した。すなわち、Mo、Nb、Ti、Vを適量添加して圧延時の加熱温度を高くとることで、これらを十分に固溶させ、かつ、転位密度の高い適切な圧延組織の導入により、析出物が析出可能な析出サイトを確保することで、再昇温時、例えば火災による昇温中にMoとNb、Ti、Vの複合析出物が微細に析出する。
こうした複合析出物も、700〜800℃保持中に成長粗大化して、やがて強化効果は小さくなるが、非常に微細かつ高密度に分散して存在する場合、30分程度の保持時間内においては、800℃降伏強度目標値を十分得ることができる。しかし、析出物自体は安定であっても、温度上昇によって素地が変態すれば析出物と素地との整合性が失われて非整合になるために、析出物による強化作用が急激に低下する。すなわち、高温でも安定な複合析出物による強化効果を利用するためには、設計温度である800℃においても素地組織を変態させないことが材料にとって必須となる。したがって、具体的には、オーステナイトフォーマーであるMnの添加量を低くするなどの合金元素の調整によって、鋼のAc1変態温度を800℃以上とすることが必要である。
【0028】
(b)鋼材成分等の限定の考え方
以下に本発明による各成分の限定理由を説明する。なお、%は質量%を意味する。
Cは、鋼材の特性に最も顕著な効果を及ぼす元素であり、Mo、Nb、Ti、Vとの複合析出物(炭化物)を形成するために必須であるため、少なくとも0.005%が必要である。これ未満のC量では強度が不足する。0.08%を超えて添加するとAc1変態温度が下降するために800℃における強度が得にくく、また靭性も低下するので、0.005%以上0.08%未満に限定する。さらに火災相当の高温加熱時にフェライトとベイナイトの混合母相組織を熱力学的に安定に保ち、Mo、Nb、Ti、Vの複合炭窒化析出物との整合性を維持して、強化効果を確保する上で、0.04%未満とすることがより望ましい。
Siは、脱酸目的のため鋼に含まれる元素であり、置換型の固溶強化作用を持つことから常温での母材強度向上に有効であるが、特に、600℃超の高温強度を改善する効果はない。また、多く添加すると溶接性、HAZ靭性が劣化するため、上限を0.5%に限定する。なお、鋼の脱酸はTi、Alのみでも可能であり、HAZ靭性、焼入性などの観点から低いほど好ましく必ずしも添加する必要はない。
【0029】
Mnは、強度、靭性を確保する上で不可欠な元素ではあるが、置換型の固溶強化元素であるMnは常温での強度上昇には有効であるが、特に600℃超の高温強度にはあまり大きな改善効果はない。したがって、本発明のように比較的多量のMoを含有する鋼において溶接性向上すなわち、PCM低減の観点から、1.6%以下に限定する。Mnの上限を低く抑えることにより、連続鋳造スラブの中心偏析の点からも有利となる。さらにAc1変態温度を800℃以上とするためには、添加を抑制する必要があり、上限を0.9%とすることが望ましい。なお、下限については、特に限定しないが、母材の強度、靭性調整上、0.1%以上添加することが望ましい。
Pは、本発明鋼においては不純物であり、P量の低減はHAZにおける粒界破壊を減少させる傾向があるため、少ないほど好ましい。含有量が多いと母材、溶接部の低温靭性を劣化させるため、上限を0.02%とする。
Sは、Pと同様、本発明鋼においては不純物であり、母材の低温靭性の観点からは少ないほど好ましい。含有量が多いと、母材、溶接部の低温靭性を劣化させるため、上限を0.01%とする。
【0030】
Moは、高温強度を高める複合析出物を構成する基本元素であり、本発明鋼においては必須元素である。MoとNb、Tiとの複合析出物、あるいは、MoとNb、Ti、Vとの複合析出物を高密度に得て高温強度を高めるには、0.1%以上添加することが必要である。1.5%を超えて添加すると母材材質の一様性の制御が困難になるとともに、、溶接熱影響部の靭性の劣化を招き、さらには経済性を失するため、Moの添加量は0.1%以上1.5%以下、より好ましくは0.2%以上1.1%以下とする。
Nbは、Moを比較的多量に添加する本発明においては700℃〜800℃の高温強度を確保するために重要な役割を演ずる元素である。まず、一般的な効果として、オーステナイトの再結晶温度を上昇させ、熱間圧延時の制御圧延の効果を最大限に発揮する上で有用な元素である。また、圧延に先立つ再加熱や焼ならしや焼入れ時の加熱オーステナイトの細粒化にも寄与する。さらに、析出硬化として強度向上効果を有し、Moとの複合添加により高温強度向上にも寄与する。0.03%未満では700〜800℃における析出硬化の効果は少なく、0.1%以上の添加が好ましい。一方、0.3%を超えると母材の靭性を低下させる恐れがあるため、上限を0.3%とする。よって、0.03%〜0.3%を限定範囲とする。
【0031】
TiもNbと同様に、高温強度上昇に有効である。特に母材および溶接熱影響部靭性に対する要求が厳しい場合には、添加することが好ましい。なぜならばTiNは、Al量が少ないとき(例えば0.003%以下)、Oと結合してTi2O3 を主成分とする析出物を形成、粒内変態フェライト生成の核となり溶接部靭性を向上させる。また、TiはNと結合してTiNとしてスラブ中に微細析出し、加熱時のγ粒粗大化を抑え圧延組織の細粒化に有効であり、また鋼板中に存在する微細TiNは、溶接時に溶接熱影響部の組織を細粒化するためである。
これらの効果を得るためには、Tiは最低0.005%以上必要である。しかし、多過ぎるとTiCを形成し、低温靭性や溶接性を劣化させるので、好ましくは0.02%以下、上限は0.025%とする。
【0032】
Bは、ベイナイトの生成分率を介して強度を制御する上で極めて重要である。すなわち、Bはオーステナイト粒界に偏析してフェライトの生成を抑制することを介して焼入性を向上させ、空冷のような冷却速度が比較的小さい場合においてもベイナイトを安定的に生成させるのに有効である。この効果を享受するため、最低0.0005%以上必要である。しかし、多過ぎる添加は焼入性向上効果が飽和するだけでなく、旧オーステナイト粒界の脆化や靭性上有害になるB析出物を形成する可能性があるため、上限を0.003%とする。
Alは、一般に脱酸目的のため鋼に含まれる元素であるが、脱酸はSiまたはTiだけでも十分であり、本発明鋼においては、その下限は限定しない(0%を含む)。しかし、Al量が多くなると、鋼の清浄度が悪くなるだけではなく、溶接金属の靭性が劣化するので上限を0.06%とする。
Nは、不可避不純物として鋼中に含まれるものであり、その下限は特に定めないが、N量の増加はHAZ靭性、溶接性に極めて有害であり、本発明鋼においてはその上限は0.006%とする。
【0033】
【実施例】
[実施例1]
本発明で柱形成に使用する600〜800℃での高温強度に優れた鋼材の実施例を以下に説明する。表1に示す化学成分組成を有する本発明による供試鋼と、表2に示す化学成分組成を有する比較鋼について、種々の鋼成分の鋼板(厚さ15〜50mm)を製造し、常温強度、靭性、700℃、800℃における降伏強度等を調査した。表3に比較鋼とともに本発明鋼の諸特性の調査結果を示す。
表3より、本発明鋼(600〜800℃での高温強度に優れた鋼材)No.1〜16の例は、いずれも所要の化学成分範囲であり、かつ、常温と高温の降伏強度比(p)が、鋼材温度T(℃)が600℃以上800℃以下の範囲で、p≧−0.0029×T+2.48を満足している。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
これに対して、比較鋼No.17〜31の例は、それぞれ以下の点が未達である。比較鋼No.17はCが過剰でありオーステナイトへの逆変態開始温度(Ac1)が800℃以下となるため、700℃、800℃でのpが低い。比較鋼No.18はCが不足であり490N/mm2級として常温の降伏強度が不足であるとともにpが低い。
比較鋼No.19は、Mnが1.6%を超えているため、Ac1が800℃未満となりpが低い。比較鋼No.20は、Mnが0.1%未満のため、常温の降伏強度、引張強さが低い。比較鋼No.21は、Pが0.02%を超えているため、母材のvTrs、再現HAZのvEoが低い。比較鋼No.22は、Sが0.01%を超えているため、比較鋼No.21と同様に母材のvTrs、再現HAZのvEoが低い。
【0038】
比較鋼No.23は、Moの添加量不足により炭窒化析出相、BCC相中固溶Moがともに不足したため、800℃でのpが低い。比較鋼No.24は、Moが過剰のため、母材材質の不均一性が増大し、再現HAZのvEoが低い。比較鋼No.25は、Nbが不足し、十分な析出硬化効果を得ることができなかったため、pが低い。比較鋼No.26は、Nbが過剰のため、再現HAZのvEoが低い。
比較鋼No.27は、Tiが過剰のため母材のvTrs、再現HAZのvEoが低い。比較鋼No.28は、Bが不足し、十分な焼入れ性を得ることができないため常温の降伏強度が低い。比較鋼No.29はBが過剰のため母材のvTrsが0℃近傍にあり、再現HAZのvEoが低い。比較鋼No.30は、Alが0.06%を超えているため、比較鋼No.29と同様に母材のvTrsが0℃近傍にあり、再現HAZのvEoが低い。比較鋼No.31は、Nが0.006%を超えているため、再現HAZのvEoが低い。
【0039】
[実施例2]
実施例1で示したような600〜800℃での高温強度に優れた本発明鋼と従来鋼を、柱、梁に用いた場合について、式(6)に基づく梁の伸び出し量δと鋼材温度(T℃)との関係を図8、図9に示す。なお、ここでは、高温時の柱のヤング係数低下率rc(すなわち、ここでは降伏強度低下率)が0.2に達した時点で軸耐力の保持能力を喪失したとして計算をストップしている。
表4に、本発明例および比較例▲1▼、▲2▼で、柱と梁に使用した鋼材のヤング係数低下率rを示す。高温時のヤング係数低下率rは、高温時の降伏強度低下率pを読み替えたものであり、従来鋼では、文献:平成12年建設省告示1433号(耐火性能検証法に関する算出方法を定める件)を参照して設定している。
【0040】
【表4】
【0041】
図8は、柱:□−400×19、梁:H−600×200×11×17、階の高さ(h):4m、各梁の長さ(l):6m、火災区画の加熱梁の総延長(L):30mの場合の鋼材温度と梁の伸び出し量δの関係を示すものである。図8より、柱、梁ともに従来鋼で形成した比較例▲1▼、柱、梁ともに発明鋼で形成した比較例▲2▼の場合いずれも、鋼材温度(T℃)が上昇するにつれて梁の伸び出し量δが増大して、温度が約250℃で柱部材角が1/50を、約400℃で柱部材角が1/30を超えることが分かる。
一方、柱を本発明鋼で形成し梁を従来鋼で形成した本発明例は、鋼材温度の上昇につれて梁の伸び出し量δが増大して、一旦、柱部材角が1/30を超えるものの、600℃でピークを迎えた後、梁の剛性低下が顕著になって梁の伸び出し量δが急激に減少して、700℃でほぼゼロになって、最終的に柱部材角がほぼゼロとなることが分かる。
【0042】
図9は、柱:□−400×19、梁:H−600×200×11×17、階の高さ(h):4m、各梁の長さ(l):6m、火災区画の加熱梁の総延長(L):18mの場合の鋼材温度と梁の伸び出し量δの関係を示すものである。図9より、加熱梁の総延長が図8の場合と比較して、3/5のため、梁の伸び出し量は小さくなるが、比較例は、鋼材温度が上昇するにつれて梁の伸び出し量δが増大して、約400℃で柱部材角が1/50を超え、約700℃で柱部材角が1/30を超える。一方、本発明例は、鋼材温度上昇につれてδが増大して、柱部材角が1/50を超えるものの、約600℃でピークを迎えた時点でも、柱部材角が1/30以下であり、最終的に柱部材角がほぼゼロとなっている。
図8、図9のいずれの場合も、本発明例では、柱を600〜800℃の高温強度に優れた鋼材で形成し、火災時による高温に対して無耐火被覆構造を可能にするとともに、梁を柱形成鋼材より高温強度の劣る鋼材で形成し、火災時の梁の伸び出しによる柱の強制変形を抑制することによって、柱部材角を最終的に1/50以下に抑制することができ、火災時の層崩壊を防止できることを示している。
【0043】
【発明の効果】
本発明は、火災を受ける可能性のある鉄骨構造物において、柱を600℃〜800℃で十分な高温強度と高温剛性を有する鋼材で形成して、梁を柱より高温強度(高温剛性)より劣る鋼材、例えば従来鋼で形成することにより、特殊な梁継手や骨組構造を用いることなく火災時の梁の伸び出し量を低減して、柱部材角を最終的に1/50以下に抑えることができ、火災による600℃〜800℃高温時においても層崩壊を生じない、無耐火被覆構造の鉄骨構造物を安定的に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】梁の材端拘束度と熱変形の関係を示す説明図で、(a)図は、梁の材端拘束度が大きい場合を示し、(b)図は、梁の材端拘束度が小さい場合を示す。
【図2】(a)図は、従来鋼(SM50)における鋼材温度Tと降伏強度低下率pとの関係を示す説明図、(b)図は、従来鋼(SM50)における鋼材温度Tとヤング係数低下率rとの関係を示す説明図。
【図3】(a)図は、600℃耐火鋼(NSFR490A)における鋼材温度Tと降伏強度低下率pとの関係を示す説明図、(b)図は、600℃耐火鋼(NSFR490A)における鋼材温度Tとヤング係数低下率rとの関係を示す説明図。
【図4】火災時の梁の伸び出しによる柱−梁の変形モデルを示す側面説明図。
【図5】(a)図は、合成梁の各部位の温度例を示す説明図、(b)図は、(a)図の温度を測定するために用いた加熱実験装置例と合成梁試験体例を示す断面説明図。
【図6】梁の伸び出し量を減少させる、梁端部の座屈発生時の変形例を示す説明図。
【図7】梁の伸び出し量をさらに減少させる、3ヒンジ形成時の変形例を示す説明図。
【図8】実施例2における本発明例と比較例での鋼材の温度とL=30mの梁の伸び出し量との関係を示す説明図。
【図9】実施例2における本発明例と比較例での鋼材の温度とL=18mの梁の伸び出し量との関係を示す説明図。
Claims (4)
- 火災を受ける鉄骨構造物であって、この鉄骨構造物を構成する柱を、常温時の降伏強度により高温時の降伏強度を無次元化した降伏強度低下率p(高温降伏強度/常温降伏強度)が、鋼材温度T(℃)が600℃以上800℃以下の範囲で、p≧−0.0029×T+2.48を満足する高温強度に優れた鋼材で形成し、この柱と接合する梁を、柱形成用の鋼材より常に高温強度が劣る鋼材で形成したことを特徴とする無耐火被覆鉄骨構造物。
- 梁を合成梁としたことを特徴とする請求項1記載の無耐火被覆鉄骨構造物。
- 合成梁を形成する床スラブに耐火補強筋を配したことを特徴とする請求項2記載の無耐火被覆鉄骨構造物。
- 高温強度に優れた柱形成用の鋼材が、質量%で、C:0.005%以上0.08%未満、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.6%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Mo:0.1〜1.5%、Nb:0.03〜0.3%、Ti:0.025%以下、B:0.0005〜0.003%、Al:0.06%以下、N:0.006%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる高温強度に優れた鋼材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無耐火被覆鉄骨構造物。
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