JP2004286115A - 無給油チェーン - Google Patents
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Abstract
【課題】無給油にて保持されるブッシュ及びピン間のオイルが高温度環境においても早期に劣化することを防止してチェーンの耐久性を向上する。
【解決手段】ブッシュ7は、直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルを含浸した焼結部材により構成されている。これにより、150℃を越えるような高温環境下で使用された場合であっても、スラッジの発生を大幅に減少させ、シールチェーンで問題となりやすい硬直や局部的な伸びの発生を大幅に抑えることができる。これにより、チェーン使用寿命を長く設定することができ、プレート間にシールでオイルを封入するような複雑な構造を持たないものでありながら、耐熱シールでオイルを封入した構造のシールチェーンと同等の優れた耐摩耗性を得ることができる。
【選択図】 図3
【解決手段】ブッシュ7は、直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルを含浸した焼結部材により構成されている。これにより、150℃を越えるような高温環境下で使用された場合であっても、スラッジの発生を大幅に減少させ、シールチェーンで問題となりやすい硬直や局部的な伸びの発生を大幅に抑えることができる。これにより、チェーン使用寿命を長く設定することができ、プレート間にシールでオイルを封入するような複雑な構造を持たないものでありながら、耐熱シールでオイルを封入した構造のシールチェーンと同等の優れた耐摩耗性を得ることができる。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無給油環境においてオイルにより互に摺接するピン及びブッシュを有する無給油チェーンに係り、詳しくは高温環境にあっても、ピン及びブッシュ間のオイルの劣化を抑制し得るようにした無給油チェーンに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、焼結ブッシュチェーンは、焼結ブッシュと浸炭焼入ピンよりなる軸受装置を有しており、無給油状態でチェーンの滑らかな屈曲性を保持していた。しかし、該焼結ブッシュチェーンは、オートバイ用チェーンのように、その使用条件が苛酷な場合、ブッシュ及びピンの間に凝着現象が発生したり、また浸炭焼入ピンの表面が酸化・摩耗したりして、これにより焼結ブッシュの空孔が目詰りし、上述した焼結ブッシュチェーン特有の効果を充分発揮することができなかった。
【0003】
本出願人は、焼結ブッシュチェーンのピンにニッケルメッキを施し、該ピン表面にニッケル層を形成し、もってニッケル層の触媒作用に基づき焼結含油ブッシュから滲出したオイルを酸化して、該酸化により高粘度化したグリース状の油膜をピン及び焼結含油ブッシュとの間に介在することにより、高耐摩耗性及び長寿化を図った焼結ブッシュチェーンを案出した(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特公昭63−43610号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記ピンにニッケルメッキを施した焼結ブッシュチェーンは、特に、使用温度が常温付近であるような環境において格段に優れた耐摩耗性(=耐摩性)を示し、広い用途で使用されている。このようなチェーンの焼結ブッシュに含浸したオイルには耐熱性はあまり必要なく、比較的安価な鉱物油が適用される場合が多い。仮に、耐熱性に優れるが比較的高価なエステル系のような合成油を含浸せしめたとしても、常温付近における耐摩耗性がそれほど優れることはなく、しかるに上記焼結ブッシュチェーンの使用温度が80〜100[℃]を超えると、オイルの蒸発損量が大きくなったり、屈曲不良や異常伸びなどが増えたりする問題が生じる場合が多い。
【0006】
一般に、高温環境における耐摩耗性を改善する場合、耐熱性に優れたオイルを適用する方法が簡便であり、広く適用される。しかし、耐熱性に優れるオイルでは、常温における粘度が高く、常温付近では焼結ブッシュの孔からのオイルの滲出し効果が継続的に得られ難く、オイルの消耗に先行して摩耗粉等による焼結ブッシュの日詰まりが生じ易く、さほど優れた摩耗寿命を得ることができない。すなわち、単に耐熱性に優れているオイルを適用すれば、耐熱環境での摩耗寿命を延命することはできるが、そのようなチェーンを常温付近で使用すると、比較的高価なオイルを適用した場合であっても、従来の焼結ブッシュチェーンよりも摩耗寿命が劣ることになる等の問題を招来する虞がある。
【0007】
ところで、ピンにニッケルメッキを施した上述の焼結ブッシュチェーンが優れた耐摩耗性を示す理由は、上述したオイルの高粘度化でグリース状となる現象がニッケルの触媒反応によって引き起こされ、これによりピン/ブッシュ間に潤滑剤を長期に亘って保持できるためと理解されている。触媒反応の進行速度を大きく支配する因子は温度であり、チェーン状態のままでは高粘度化、即ち触媒反応が進行しないことより、駆動中の僅かな摩擦熱、或いは繰り返し摺動(摩擦)による金属活性面の出現が、触媒反応進行の駆動力となる。
【0008】
ここで、触媒機能について考え直すと、一つの機能は「反応性を高めること(促進効果、或いは活性効果)」であり、更にもう一つの機能は「特定の反応だけを起こさせること(選択性効果)」である。上記ニッケルメッキ触媒による機能は、前者の「反応性を高めること」であり、故にオイルの変質、或いはスラッジ(炭化物)生成反応が促進されることを意味している。すなわち、オイル単体として考えると、これらの事象はマイナスの要因であり、100℃を越えるような高温で使用する焼結ブッシュチェーンピンにニッケルメッキを適用すると、触媒反応の進行が早く、多量のスラッジが早期に生成されてピン/ブッシュ間に詰まり、屈曲トルクを増大させると共に、硬直や磨耗伸びに対して悪影響を及ぼすこと等が鋭意研究の結果、明らかとなった。
【0009】
一般的には、ニッケルの触媒機能はマイナス要因と理解され、常温付近で優れた摩耗寿命を示すのは、触媒反応の駆動力となる熱入力が極めて小さいために、触媒反応の進行が極めて遅く、オイルの劣化が殆ど生じずにオイルがグリース状になるためであることが実験的に明らかとなった。スラッジ(炭化物)は、オイル中の極圧添加剤と金属触媒との熱的反応による副生成物であり、比較的安価な鉱物油であれ、比較的高価で耐熱性に優れるような合成油であれ、ニッケルのような触媒能力の高い金属が存在する環境では、スラッジの生成を回避することは容易ではない。
【0010】
そこで、本出願人は、チェーンピン表面に所定の処理を施すことによりスラッジ発生の抑制と共に耐摩耗性を改善した無給油チェーンも提案しているが、その場合でも、例えば150℃を超えるとスラッジの発生が急増して、充分な耐摩耗性が得られ難い。このことからも、150℃以上の環境で焼結ブッシュチェーンの寿命を上げることは極めて困難であることが分かる。
【0011】
また、このような特殊環境では、定期的なメンテナンスも容易ではなく、メンテナンス回数をできる限り減らすために、従来技術手法ではプレート間に弾性体であるシールを装着したシールチェーンを適用することがある。しかしこのシールチェーンでは、給油が不充分になると、比較的早期にブッシュ外径摩耗或いはローラ摩耗が進行して、チェーン伸びが大きくなる前にチェーン寿命となり、優れた耐摩耗性を有効に発揮し難いという問題が生じる場合もある。更に、シールチェーンでは、耐熱性に優れるフッ素系シールを適用した場合であっても、150[℃]を越えて使用したり、シールの劣化を招き易いオイルを給油したりすると、良好なシール効果を損なう等の問題を生じる場合もある。従って、150[℃]を越える環境でのシールチェーンの使用には比較的大きな制限が生じる等の問題もあり、より単純なローラチェーン構造のままでシールチェーンと同等の優れた耐摩耗性を示す耐熱無給油型焼結ブッシュチェーンの開発が切望される。
【0012】
そこで、本発明は、鋭意研究を重ねた結果特別に選定したオイルを焼結部材に含浸させてブッシュを構成することで、より単純なローラチェーン構造を有するものでありながら、150℃を越えるような高温環境で使用されてもスラッジの発生が大幅に減少できると共にチェーンの局部的な伸びを軽減し得るように構成し、もって上述した課題を解消した無給油チェーンを提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る本発明は(例えば図1ないし図5参照)、2個のリンクプレート(2,2)の両端部をピン(3)にて連結した第1のリンク(5)と、2個のリンクプレート(6,6)をブッシュ(7)にて連結した第2のリンク(10)とを、前記ピン(3)を前記ブッシュ(7)に遊嵌することにより交互に連結し、かつ前記ピン(3)と前記ブッシュ(7)とがオイルにより潤滑されてなる無給油チェーン(1)において、
前記ブッシュ(7)は、前記オイルとして直鎖構造及び側鎖構造の少なくとも一方を有するフッ素結合オイルを含浸した焼結部材からなる、
ことを特徴とする無給油チェーンにある。
【0014】
請求項2に係る本発明は(例えば図1ないし図3参照)、前記直鎖構造及び側鎖構造の両方を有する場合にその比が8/2ないし2/8の範囲内にある、
請求項1記載の無給油チェーンにある。
【0015】
請求項3に係る本発明は(例えば図1参照)、前記フッ素結合オイルにポリテトラフルオロエチレンが配合されてなる、
請求項1又は2記載の無給油チェーンにある。
【0016】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【0017】
【発明の効果】
請求項1に係る本発明によると、直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルを含浸した焼結部材によりブッシュを構成するので、より単純なローラチェーン構造を有するものでありながら、150℃を越えるような高温環境下にあっても、スラッジの発生を可及的に抑え、シールチェーンで問題となりやすい硬直や局部的な伸びの発生を大幅に抑えることができる。これにより、チェーン使用寿命を長く設定することができ、プレート間にシールでオイルを封入するような複雑な構造を持たないものでありながら、耐熱シールでオイルを封入した構造のシールチェーンと同等の優れた耐摩耗性を得ることができる。このため、リンクプレート同士を結合するピンに特殊な材質を用いたり表面処理を施したり、或いはブッシュに特殊な材質を用いたり熱処理を施したりするような煩雑な工程を不要にすることができる。また、シールを用いないオープンタイプのローラチェーン構造であることから、屈曲トルクが軽くなり、チェーン駆動用のモータの負荷を低減できるという効果も得られる。
【0018】
更に、焼結部材に含浸したオイルが直鎖構造又は側鎖構造を有することで、耐熱性をより向上させ得ると共に、該オイルのあらゆる薬品との反応性が極めて低いことにより、通常は使用不能となるような腐食性の環境下であってもオイル劣化を可及的に抑えることができ、従って無給油状態でのより優れた耐摩耗性が得られる。また、直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルは、分子構造によっては熱環境下での蒸発減量等に大きな差があり蒸気圧が低いので、クリーンルームや真空系で用いる装置に適用した場合であっても、環境を汚すことなく優れた耐摩耗性を得ることができる。従って、これまで焼結ブッシュチェーンの使用が困難とされていた環境での適応も期待することができる。
【0019】
請求項2に係る本発明によると、直鎖構造及び側鎖構造の両方を有する場合にその比が8/2ないし2/8の範囲内にあるので、この範囲内で直鎖構造と側鎖構造との比を変更することで、蒸発減量が小さい等の点で優位であるが高価な直鎖リッチ構造に比して廉価な側鎖リッチ構造のオイルとして用いることができ、150[℃]を越えるような高温環境下での優れた耐摩耗性を廉価に実現することができる。
【0020】
請求項3に係る本発明によると、焼結部材に含浸した直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルにポリテトラフルオロエチレンが配合されるので、フッ素結合オイルだけでは潤滑性が充分でない場合であっても、配合されたポリテトラフルオロエチレンにより、潤滑性がより充分な状態で使用することが可能となる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿って本発明の実施の形態を説明する。焼結ブッシュチェーン(無給油チェーン)1は、図1に示すように、2枚のピンリンクプレート2,2の両端部をピン3,3により結合したピンリンク5と、同様な2枚のローラリンクプレート6,6の両端部をブッシュ7,7で結合したローラリンク10と、を有し、ピン3をブッシュ7に嵌挿(遊嵌)することにより交互に無端状に連結して構成されている。なお、図1は、ローラチェーンからなる焼結ブッシュチェーン1を一部断面した状態で示す平面図であるが、同図においてローラは図示を省略している。また本発明は、ローラを有さないタイプの焼結ブッシュチェーンにも適用可能である。
【0022】
そして、図2に詳示するように、ピン3及びブッシュ7はチェーン1の自由なる屈曲のための軸受装置11を構成している。該ブッシュ7は、鉄を主成分とし、これに銅、ニッケル、モリブデン、クロム等を適宜配合して焼結処理した焼結部材(焼結金属部材)によって構成されている。そして、該ブッシュ7には、本発明者による鋭意研究の結果特別に選定されたオイルである、直鎖構造率が多い直鎖リッチ構造を備えたフッ素結合(F−結合)の多いオイル、又は、側鎖構造率が多い側鎖リッチ構造を備えたフッ素結合の多いオイルが含浸されている。直鎖構造率が多くフッ素結合が多い上記オイルを、以下「直鎖リッチF結合オイル」と称し、また、側鎖構造率が多くフッ素結合が多い上記オイルを、以下「側鎖リッチF結合オイル」と称する。焼結構造の上記ブッシュ7は、粉末状の上記金属材料を融点近くまで加熱しつつ加圧する焼結工程の後、直鎖リッチF結合オイル又は側鎖リッチF結合オイルを用いた含浸工程を施されて製造されている。該含浸工程では、例えば、真空引き→ブッシュ7を上記オイルに浸漬→外気導入→ブッシュ7へのオイルの浸透、などの一連の処理が行なわれる。
【0023】
本発明者は、上記ピン3の材質、該ピン3に対する熱処理、あらゆる表面処理の適用、そして表面仕上げ加工に工夫を凝らすなどの積極的な試作及び実験を進めると共に、焼結部材からなるブッシュ(以下、焼結ブッシュとも言う)7に適した上記金属のような材質、焼結部材を構成する素粒子の形態や寸法、熱処理、そして表面性状の制御等について検討し、最適な組合わせ仕様について検討した。更に、焼結ブッシュ7に含浸するオイルについて、鉱物油、各種合成油の適用を検討するだけでなく、オイルの分子構造にも着眼して新たな合成油の開発を進め、積極的に耐摩耗性の改良を推進した。
【0024】
本実施の形態において含浸に用いる上記オイルの詳細を以下に説明する。即ち、直鎖構造のみの直鎖リッチF結合オイルは高価ではあるが、側鎖リッチF結合オイルに比して高温環境においてより安定な分子構造を呈する。このため、本発明者は、この特性をできるだけ活用するために、直鎖リッチ構造と側鎖リッチ構造とをブレンドした側鎖構造のフッ素結合オイルを適用することをも考えた。適用を検討したオイルとしての主な性状を図3の表に示す。
【0025】
つまり、同図の表に示すように、直鎖リッチタイプ(図5における第1チェーンP1に用いたオイル)としては、直鎖構造と側鎖構造の比(直鎖/側鎖)が8/2、基油蒸発損量(NKL法(wt%)、条件:200℃×500Hrs)が10%、増稠剤率が3[%]、基油粘度(mm2/s)(測定方法:JIS K2283)が140(40℃)及び39(100℃)のものを適用することができる。
【0026】
また、側鎖リッチタイプ(図5における第2チェーンP2に用いたオイル)としては、直鎖構造と側鎖構造の比(直鎖/側鎖)が2/8、基油蒸発損量が4%、増稠剤率が3[%]、基油粘度(mm2/s)が155(40℃)及び23(100℃)のものを適用することができる。上記基油蒸発損量の値(4%)は、直鎖構造と側鎖構造の割合だけでは説明できない特異な優れた値である。表中の側鎖リッチタイプは、高温特性に重点をおいて開発したオイルである。直鎖構造と側鎖構造の比が同じ2/8であっても、ブレンドの仕方でオイルとしての諸特性が変わり、低温特性に重点をおいた側鎖リッチタイプでは蒸発損量は33%との値を示す。
【0027】
更に、完全側鎖タイプとしては、直鎖構造と側鎖構造との比(直鎖/側鎖)が0/10、基油蒸発損量が36%、増稠剤率が0[%]、基油粘度(mm2/s)が180(40℃)及び21(100℃)のものを適用することができる。
【0028】
以上のように、直鎖構造及び側鎖構造の両方を有する場合にその比を8/2ないし2/8の範囲内とすると、この範囲内で直鎖構造と側鎖構造との比を適宜変更することで、蒸発減量が小さい等の点で優位であるが高価な直鎖リッチ構造に比して廉価な側鎖リッチ構造のオイルとして用いることができ、所定の優れた耐摩耗性を廉価に実現できる。
【0029】
また、直鎖リッチF結合オイル又は側鎖リッチF結合オイルは種々の合成オイルに比して耐熱性に優れるが、該オイルだけでは(つまりフッ素結合オイルだけでは)潤滑性が充分でない場合、該オイルにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を配合して用いることにより、潤滑性をより充分にした状態で良好に使用することができる。
【0030】
[実施例1]
ついで、以上のことをより明確にするため、本発明を適用したローラチェーン構造の第1チェーン(ブッシュに直鎖リッチF結合オイルを含浸した仕様)P1と、本発明に係るローラチェーン構造の第2チェーン(ブッシュに側鎖リッチF結合オイルを含浸した仕様)P2と、従来のフッ素系のシールチェーンT1と、ブッシュに特殊合成油を含浸したローラチェーン構造のチェーンT2と、を比較した実験結果を図5に示す。
【0031】
つまり、同図は、直鎖リッチF結合オイル、側鎖リッチ結合オイル、特殊合成オイルを焼結ブッシュ7にそれぞれ含浸した3種類の焼結ブッシュチェーンP1,P2,T2と、耐熱性に優れるフッ素タイプシールチェーンT1との4種類を1本の環状にし、200[℃]の環境において、途中無給油で実駆動摩耗比較試験(200[℃]摩耗試験)を実施した結果である。同図に示す直鎖リッチF結合オイルP1は直鎖/側鎖が8/2となるようにブレンドしたもので、また側鎖リッチF結合オイルP2は直鎖/側鎖が2/8となるようにしたものであり、いずれも完全フッ素化オイル(パーフルオロポリエーテル)である。
【0032】
実験条件は以下の通りである。つまり、各チェーンP1,P2,T2には、JIS60番の同じ大きさの焼結ブッシュチェーンを用いてそのブッシュのみを、上述したように直鎖リッチF結合オイル含浸処理、側鎖リッチF結合オイル含浸処理、特殊合成油含浸処理をそれぞれ施したものを用いる。そして、各チェーンP1,P2,T1,T2は、速度60[m/min]、負荷馬力2.5[PS]で駆動される。
【0033】
以上、上記200[℃]の環境下での焼結ブッシュチェーンの実駆動摩耗試験結果は、図5に示すように、本発明を適用した焼結ブッシュチェーンP1,P2が、従来のフッ素タイプシールチェーンT1と略々同等の良好な結果を示した。ここで、フッ素タイプシールチェーンT1との比較を示した理由は、直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルをブッシュ7に含浸することにより、オープンチェーン構造のままで、部品を1種類追加して製造しているような高耐摩性チェーンと同等の優れた耐摩耗性が得られることを示すためであり、フッ素シールチェーンが優れた耐摩性を有すること自体を示すためではない。ここで、200℃の高温環境において、屈曲トルクが大きい、局部伸びし易い、部品が1種類多いことによる製造の困難さ、シールされることで給油による摩耗寿命の制御ができない等のシールチェーンの問題点を回避しつつ、優れた耐摩性を得ていることが分かる。
【0034】
本実施の形態で適用し得るフッ素オイルは、パーフルオロポリエーテルのオリゴマー(液体重合体)である。その構成元素は、炭素、酸素、及びフッ素だけからなり、水素や塩素を全く含まない。このオイルの最大の特徴である高度な熱安定性及び化学安定性は、以下の化学組成により発揮される。化学式(基本分子構造)の一例を以下に示す。
【0035】
【化1】
【0036】
上記適用したフッ素オイルは、熱によって解重合を起こす分解型である。分解物は気体であり、従って一部分解した場合でもオイルの性状にさほどの影響もなく、スラッジも発生しないので、ピン/ブッシュ間の焼き付き(凝着)が発生せず、高温においても安定した耐摩性が得られている。
【0037】
また、上記適用したフッ素オイルは、分子中に化学反応を受け入れやすい水素原子を全く含まないため、非常に優れた化学安定性を示す。即ち、酸やアルカリ溶液が付着するような環境にあってもオイルの性状が安定しているので、過酷な腐食環境下にあっても安定した耐摩性を奏することができる。上記適用したフッ素オイルの耐薬品性の例を図4の表に示す。
【0038】
即ち、同図の表に示すように、薬品種類が有機溶剤、薬品名が全ての有機溶剤、耐薬品温度が300℃の場合、観察結果は、溶剤が蒸発し、オイル変化は無しであった。また、薬品種類が有機酸、薬品名が全ての有機酸、耐薬品温度が300℃の場合、観察結果は、有機酸が昇華又は分解し、オイル変化は無しであった。更に、薬品種類が有機塩基、薬品名がトリブチルアミン、耐薬品温度が200℃の場合、観察結果は、アミンが変色し、オイル変化は無しであった。そして、薬品種類が無機酸、薬品名が塩酸及びフッ化水素酸、耐薬品温度が250℃の場合、観察結果は、酸が蒸発し、オイル変化は無しであった。また、薬品種類が無機酸、薬品名がオルトリン酸及び硫酸、耐薬品温度が200℃の場合、観察結果は、オイル変化無しであった。更に、薬品種類が無機塩基、薬品名が水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム、耐薬品温度が200℃の場合、観察結果は、オイル変化無しであった。そして、薬品種類が無機塩、薬品名が塩化カリウム、耐薬品温度が250℃の場合、観察結果は、オイル変化無しであった。
【0039】
なお、適用したフッ素オイルの耐荷重性においては、曽田式四球試験による焼き付き荷重が、9.80665×105Pa(=10kgf/cm2)以上と優れていた。この値は、EP剤を添加した鉱油に近く、エステル合成油の約2倍である。
【0040】
ここで、上述したフッ素オイルの化学構造式を示す。まず、直鎖フッ素油(直鎖リッチF結合オイル)の構造は、例えば次の化学式で示すことができる。
【0041】
【化2】
【0042】
また、側鎖フッ素油(側鎖リッチF結合オイル)の構造は、例えば次の化学式で示すことができる。
【0043】
【化3】
【0044】
分子構造に起因して、側鎖で構成されるオイルに対して直鎖構造オイルの方が熱的安定性が優れている。即ち、直鎖構造の方が高温での分子結合力が強くて、分子構造が壊れにくい。オイルを構成する分子構造において直鎖が多くある直鎖リッチなオイルは、高温での蒸発損量が少ない等、熱的安定性に優れ、高温環境における耐摩性に優位である。その反面、価格が高くつく問題もあり、実用レベルでは、直鎖の少ない分子構造の側鎖リッチオイルを使いたい要求が高い。そこで、F−結合を有するオイルでもその分子構造によって熱環境での蒸発減量等に大きな差があることに着眼し、直鎖と側鎖とのブレンドの比率を変更することで、蒸発減量が小さい等の点で優位であるが高価である直鎖リッチ構造のみのオイルではなく、側鎖の比率が高くて廉価な側鎖リッチ構造オイルを用いることで、所定の優れた耐摩耗性を安く実現することができた。
【0045】
以上のように、特殊合成油を適用しても200℃のような高温になると、F−結合を有する含油焼結ブッシュチェーンの優位性が明らかであり、またオープンチェーン構造でありながら、シールチェーン同等の優れた耐摩耗性を得ることができた。更に、より廉価な側鎖リッチ構造のF結合オイル仕様でも、シールチェーンに近い耐摩耗性を得ることができた。更に、試験後のブッシュ外径摩耗量に着眼すると、F結合オイル含浸焼結ブッシュチェーンの摩耗量は、シールチェーンのそれと比較した場合、最大で1/2軽減することができた。また、ローラ摩耗量でも、F結合オイル仕様チェーンの摩耗量は、シールチェーン比で2割程度軽減することができた。
【0046】
[実施例2]
側鎖リッチF結合オイルを含浸した本発明に係る焼結ブッシュチェーン1と、フッ素系シールチェーンとを、150℃の温度環境で摩耗比較試験を実施したところ、いずれのチェーンも0.1%程度の初期伸びて約600時間を推移した。そして、600時間経過後にフッ素系シールチェーンの数ヶ所に先行して硬直が発生して試験継続が困難となったため、本焼結ブッシュチェーン1の優位で試験を終了した。
【0047】
[実施例3]
F結合オイルを含浸した本発明に係る焼結ブッシュチェーン1と、フッ素系シールチェーンとを、240℃の温度環境で摩耗比較試験を実施したところ、フッ素系シールチェーンのシールが早期に折損・脱落し、本焼結ブッシュチェーン1の優位で試験を終了した。
【0048】
以上の実施例からも理解できるように、150℃以上の高温環境下で、従来優れた耐摩耗性で注目されていたシールチェーンと比較しても、F結合オイルを含浸した焼結ブッシュチェーンは充分に優れた性能が得られている。
【0049】
ところで、本出願人は、従来の問題点を解消するために、ピン3の表面にリン酸マンガン皮膜を適用することにより、スラッジの発生を抑制すると共に、耐摩耗性の改善に大きな効果を得るようにしたものも提案しているが、この手法で有効な効果を得ることができるのは150℃程度までであり、150℃を超えるとスラッジの発生が増え、充分な耐摩耗性を得ることが困難になるなど、150℃以上の環境で焼結ブッシュチェーンの寿命を上げることは困難である。また、このような特殊な環境では、定期的なメンテナンスが容易ではなく、メンテナンス回数をできる限り減らすために、従来技術手法ではプレート間に弾性体であるシールを装着したシールチェーンを適用することがあるが、給油が不充分になると、比較的早期にブッシュ外径摩耗或いはローラ摩耗が進行し、チェーン伸びが大きくなる前にチェーン寿命となり、優れた耐摩耗性を有効に発揮できない問題が生じる場合もある。更に、シールチェーンでは、耐熱性に優れるフッ素系のシールを適用しても、200℃を越えて使用したり、シールの劣化を招く油を給油に使ったりすると、シールが切れる問題が生じる場合があり、200℃を越える環境でのシールチェーンの使用には比較的大きな制限が生じる等の問題があった。上述した実施形態及び実施例においては、より単純なローラチェーン構造のままでシールチェーンと同等の優れた耐摩耗性を示す耐熱無給油型焼結ブッシュチェーンが得られている。
【0050】
すなわち、前述した実施形態及び実施例では、直鎖リッチF結合オイル又は側鎖リッチF結合オイル(つまり直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイル)を含浸した焼結部材によりブッシュ7を構成したので、150℃を越えるような高温環境下にあっても、スラッジの発生を可及的に抑え、シールチェーンで問題となりやすい硬直や局部的な伸びの発生を大幅に抑えることができる。これにより、チェーン使用寿命を長く設定することができ、プレート間にシールでオイルを封入するような複雑な構造を持たないものでありながら、耐熱シールでフッ素系オイルを封入した構造のシールチェーンと同等の優れた耐摩耗性を得ることができる。このため、リンクプレート同士を結合するピン3に特殊な材質を用いたり表面処理を施したり、或いはブッシュ7に特殊な材質を用いたり熱処理を施したりするような煩雑な工程を不要にすることができる。また、シールを用いないオープンタイプのローラチェーン構造であることから、屈曲トルクが軽くなり、チェーン駆動用のモータ(図示せず)の負荷を低減できる。
【0051】
更に、焼結部材に含浸したオイルが直鎖構造又は側鎖構造を有することで、耐熱性をより向上させることができると共に、該オイルのあらゆる薬品との反応性が極めて低いことにより、通常は使用不能となるような腐食性の環境下であってもオイル劣化を可及的に抑えることができ、従って無給油状態でのより優れた耐摩耗性が得られる。また、直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルは、分子構造によっては熱環境下での蒸発減量等に大きな差があり蒸気圧が低いので、クリーンルームや真空系で用いる装置に適用した場合であっても、環境を汚すことなく優れた耐摩耗性を得ることができる。従って、これまで焼結ブッシュチェーンの使用が困難とされていた環境での適応も期待することができる。
【0052】
なお、上述した本実施の形態例並びに各実施例における焼結ブッシュチェーンは、一般的なスチールを全ての構成部品に用いたチェーンに適用することができるが、これに限らず、構成部品の全ての材質にステンレス鋼を用いた所謂ステンレス焼結ブッシュチェーンにも同様に適用できることは勿論であり、その場合にも、上記スチール製の焼結ブッシュチェーンと同様の効果を奏することは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用される焼結ブッシュチェーンを示す一部断面した平面図。
【図2】そのピン及びブッシュ部分の横断面図。
【図3】本発明に係るオイルの主な性状を示す図。
【図4】本発明に係るオイルの耐薬品性を示す図。
【図5】本発明を適用した焼結ブッシュチェーンと従来型のチェーンとを、高温(200[℃])環境下で実駆動摩耗試験を行った結果を示す図。
【符号の説明】
1 無給油チェーン(焼結ブッシュチェーン)
2 リンクプレート
3 ピン
5 第1のリンク(ピンリンク)
6 リンクプレート(ローラリンクプレート)
7 ブッシュ
10 第2のリンク(ローラリンク)
【発明の属する技術分野】
本発明は、無給油環境においてオイルにより互に摺接するピン及びブッシュを有する無給油チェーンに係り、詳しくは高温環境にあっても、ピン及びブッシュ間のオイルの劣化を抑制し得るようにした無給油チェーンに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、焼結ブッシュチェーンは、焼結ブッシュと浸炭焼入ピンよりなる軸受装置を有しており、無給油状態でチェーンの滑らかな屈曲性を保持していた。しかし、該焼結ブッシュチェーンは、オートバイ用チェーンのように、その使用条件が苛酷な場合、ブッシュ及びピンの間に凝着現象が発生したり、また浸炭焼入ピンの表面が酸化・摩耗したりして、これにより焼結ブッシュの空孔が目詰りし、上述した焼結ブッシュチェーン特有の効果を充分発揮することができなかった。
【0003】
本出願人は、焼結ブッシュチェーンのピンにニッケルメッキを施し、該ピン表面にニッケル層を形成し、もってニッケル層の触媒作用に基づき焼結含油ブッシュから滲出したオイルを酸化して、該酸化により高粘度化したグリース状の油膜をピン及び焼結含油ブッシュとの間に介在することにより、高耐摩耗性及び長寿化を図った焼結ブッシュチェーンを案出した(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特公昭63−43610号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記ピンにニッケルメッキを施した焼結ブッシュチェーンは、特に、使用温度が常温付近であるような環境において格段に優れた耐摩耗性(=耐摩性)を示し、広い用途で使用されている。このようなチェーンの焼結ブッシュに含浸したオイルには耐熱性はあまり必要なく、比較的安価な鉱物油が適用される場合が多い。仮に、耐熱性に優れるが比較的高価なエステル系のような合成油を含浸せしめたとしても、常温付近における耐摩耗性がそれほど優れることはなく、しかるに上記焼結ブッシュチェーンの使用温度が80〜100[℃]を超えると、オイルの蒸発損量が大きくなったり、屈曲不良や異常伸びなどが増えたりする問題が生じる場合が多い。
【0006】
一般に、高温環境における耐摩耗性を改善する場合、耐熱性に優れたオイルを適用する方法が簡便であり、広く適用される。しかし、耐熱性に優れるオイルでは、常温における粘度が高く、常温付近では焼結ブッシュの孔からのオイルの滲出し効果が継続的に得られ難く、オイルの消耗に先行して摩耗粉等による焼結ブッシュの日詰まりが生じ易く、さほど優れた摩耗寿命を得ることができない。すなわち、単に耐熱性に優れているオイルを適用すれば、耐熱環境での摩耗寿命を延命することはできるが、そのようなチェーンを常温付近で使用すると、比較的高価なオイルを適用した場合であっても、従来の焼結ブッシュチェーンよりも摩耗寿命が劣ることになる等の問題を招来する虞がある。
【0007】
ところで、ピンにニッケルメッキを施した上述の焼結ブッシュチェーンが優れた耐摩耗性を示す理由は、上述したオイルの高粘度化でグリース状となる現象がニッケルの触媒反応によって引き起こされ、これによりピン/ブッシュ間に潤滑剤を長期に亘って保持できるためと理解されている。触媒反応の進行速度を大きく支配する因子は温度であり、チェーン状態のままでは高粘度化、即ち触媒反応が進行しないことより、駆動中の僅かな摩擦熱、或いは繰り返し摺動(摩擦)による金属活性面の出現が、触媒反応進行の駆動力となる。
【0008】
ここで、触媒機能について考え直すと、一つの機能は「反応性を高めること(促進効果、或いは活性効果)」であり、更にもう一つの機能は「特定の反応だけを起こさせること(選択性効果)」である。上記ニッケルメッキ触媒による機能は、前者の「反応性を高めること」であり、故にオイルの変質、或いはスラッジ(炭化物)生成反応が促進されることを意味している。すなわち、オイル単体として考えると、これらの事象はマイナスの要因であり、100℃を越えるような高温で使用する焼結ブッシュチェーンピンにニッケルメッキを適用すると、触媒反応の進行が早く、多量のスラッジが早期に生成されてピン/ブッシュ間に詰まり、屈曲トルクを増大させると共に、硬直や磨耗伸びに対して悪影響を及ぼすこと等が鋭意研究の結果、明らかとなった。
【0009】
一般的には、ニッケルの触媒機能はマイナス要因と理解され、常温付近で優れた摩耗寿命を示すのは、触媒反応の駆動力となる熱入力が極めて小さいために、触媒反応の進行が極めて遅く、オイルの劣化が殆ど生じずにオイルがグリース状になるためであることが実験的に明らかとなった。スラッジ(炭化物)は、オイル中の極圧添加剤と金属触媒との熱的反応による副生成物であり、比較的安価な鉱物油であれ、比較的高価で耐熱性に優れるような合成油であれ、ニッケルのような触媒能力の高い金属が存在する環境では、スラッジの生成を回避することは容易ではない。
【0010】
そこで、本出願人は、チェーンピン表面に所定の処理を施すことによりスラッジ発生の抑制と共に耐摩耗性を改善した無給油チェーンも提案しているが、その場合でも、例えば150℃を超えるとスラッジの発生が急増して、充分な耐摩耗性が得られ難い。このことからも、150℃以上の環境で焼結ブッシュチェーンの寿命を上げることは極めて困難であることが分かる。
【0011】
また、このような特殊環境では、定期的なメンテナンスも容易ではなく、メンテナンス回数をできる限り減らすために、従来技術手法ではプレート間に弾性体であるシールを装着したシールチェーンを適用することがある。しかしこのシールチェーンでは、給油が不充分になると、比較的早期にブッシュ外径摩耗或いはローラ摩耗が進行して、チェーン伸びが大きくなる前にチェーン寿命となり、優れた耐摩耗性を有効に発揮し難いという問題が生じる場合もある。更に、シールチェーンでは、耐熱性に優れるフッ素系シールを適用した場合であっても、150[℃]を越えて使用したり、シールの劣化を招き易いオイルを給油したりすると、良好なシール効果を損なう等の問題を生じる場合もある。従って、150[℃]を越える環境でのシールチェーンの使用には比較的大きな制限が生じる等の問題もあり、より単純なローラチェーン構造のままでシールチェーンと同等の優れた耐摩耗性を示す耐熱無給油型焼結ブッシュチェーンの開発が切望される。
【0012】
そこで、本発明は、鋭意研究を重ねた結果特別に選定したオイルを焼結部材に含浸させてブッシュを構成することで、より単純なローラチェーン構造を有するものでありながら、150℃を越えるような高温環境で使用されてもスラッジの発生が大幅に減少できると共にチェーンの局部的な伸びを軽減し得るように構成し、もって上述した課題を解消した無給油チェーンを提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る本発明は(例えば図1ないし図5参照)、2個のリンクプレート(2,2)の両端部をピン(3)にて連結した第1のリンク(5)と、2個のリンクプレート(6,6)をブッシュ(7)にて連結した第2のリンク(10)とを、前記ピン(3)を前記ブッシュ(7)に遊嵌することにより交互に連結し、かつ前記ピン(3)と前記ブッシュ(7)とがオイルにより潤滑されてなる無給油チェーン(1)において、
前記ブッシュ(7)は、前記オイルとして直鎖構造及び側鎖構造の少なくとも一方を有するフッ素結合オイルを含浸した焼結部材からなる、
ことを特徴とする無給油チェーンにある。
【0014】
請求項2に係る本発明は(例えば図1ないし図3参照)、前記直鎖構造及び側鎖構造の両方を有する場合にその比が8/2ないし2/8の範囲内にある、
請求項1記載の無給油チェーンにある。
【0015】
請求項3に係る本発明は(例えば図1参照)、前記フッ素結合オイルにポリテトラフルオロエチレンが配合されてなる、
請求項1又は2記載の無給油チェーンにある。
【0016】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【0017】
【発明の効果】
請求項1に係る本発明によると、直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルを含浸した焼結部材によりブッシュを構成するので、より単純なローラチェーン構造を有するものでありながら、150℃を越えるような高温環境下にあっても、スラッジの発生を可及的に抑え、シールチェーンで問題となりやすい硬直や局部的な伸びの発生を大幅に抑えることができる。これにより、チェーン使用寿命を長く設定することができ、プレート間にシールでオイルを封入するような複雑な構造を持たないものでありながら、耐熱シールでオイルを封入した構造のシールチェーンと同等の優れた耐摩耗性を得ることができる。このため、リンクプレート同士を結合するピンに特殊な材質を用いたり表面処理を施したり、或いはブッシュに特殊な材質を用いたり熱処理を施したりするような煩雑な工程を不要にすることができる。また、シールを用いないオープンタイプのローラチェーン構造であることから、屈曲トルクが軽くなり、チェーン駆動用のモータの負荷を低減できるという効果も得られる。
【0018】
更に、焼結部材に含浸したオイルが直鎖構造又は側鎖構造を有することで、耐熱性をより向上させ得ると共に、該オイルのあらゆる薬品との反応性が極めて低いことにより、通常は使用不能となるような腐食性の環境下であってもオイル劣化を可及的に抑えることができ、従って無給油状態でのより優れた耐摩耗性が得られる。また、直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルは、分子構造によっては熱環境下での蒸発減量等に大きな差があり蒸気圧が低いので、クリーンルームや真空系で用いる装置に適用した場合であっても、環境を汚すことなく優れた耐摩耗性を得ることができる。従って、これまで焼結ブッシュチェーンの使用が困難とされていた環境での適応も期待することができる。
【0019】
請求項2に係る本発明によると、直鎖構造及び側鎖構造の両方を有する場合にその比が8/2ないし2/8の範囲内にあるので、この範囲内で直鎖構造と側鎖構造との比を変更することで、蒸発減量が小さい等の点で優位であるが高価な直鎖リッチ構造に比して廉価な側鎖リッチ構造のオイルとして用いることができ、150[℃]を越えるような高温環境下での優れた耐摩耗性を廉価に実現することができる。
【0020】
請求項3に係る本発明によると、焼結部材に含浸した直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルにポリテトラフルオロエチレンが配合されるので、フッ素結合オイルだけでは潤滑性が充分でない場合であっても、配合されたポリテトラフルオロエチレンにより、潤滑性がより充分な状態で使用することが可能となる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿って本発明の実施の形態を説明する。焼結ブッシュチェーン(無給油チェーン)1は、図1に示すように、2枚のピンリンクプレート2,2の両端部をピン3,3により結合したピンリンク5と、同様な2枚のローラリンクプレート6,6の両端部をブッシュ7,7で結合したローラリンク10と、を有し、ピン3をブッシュ7に嵌挿(遊嵌)することにより交互に無端状に連結して構成されている。なお、図1は、ローラチェーンからなる焼結ブッシュチェーン1を一部断面した状態で示す平面図であるが、同図においてローラは図示を省略している。また本発明は、ローラを有さないタイプの焼結ブッシュチェーンにも適用可能である。
【0022】
そして、図2に詳示するように、ピン3及びブッシュ7はチェーン1の自由なる屈曲のための軸受装置11を構成している。該ブッシュ7は、鉄を主成分とし、これに銅、ニッケル、モリブデン、クロム等を適宜配合して焼結処理した焼結部材(焼結金属部材)によって構成されている。そして、該ブッシュ7には、本発明者による鋭意研究の結果特別に選定されたオイルである、直鎖構造率が多い直鎖リッチ構造を備えたフッ素結合(F−結合)の多いオイル、又は、側鎖構造率が多い側鎖リッチ構造を備えたフッ素結合の多いオイルが含浸されている。直鎖構造率が多くフッ素結合が多い上記オイルを、以下「直鎖リッチF結合オイル」と称し、また、側鎖構造率が多くフッ素結合が多い上記オイルを、以下「側鎖リッチF結合オイル」と称する。焼結構造の上記ブッシュ7は、粉末状の上記金属材料を融点近くまで加熱しつつ加圧する焼結工程の後、直鎖リッチF結合オイル又は側鎖リッチF結合オイルを用いた含浸工程を施されて製造されている。該含浸工程では、例えば、真空引き→ブッシュ7を上記オイルに浸漬→外気導入→ブッシュ7へのオイルの浸透、などの一連の処理が行なわれる。
【0023】
本発明者は、上記ピン3の材質、該ピン3に対する熱処理、あらゆる表面処理の適用、そして表面仕上げ加工に工夫を凝らすなどの積極的な試作及び実験を進めると共に、焼結部材からなるブッシュ(以下、焼結ブッシュとも言う)7に適した上記金属のような材質、焼結部材を構成する素粒子の形態や寸法、熱処理、そして表面性状の制御等について検討し、最適な組合わせ仕様について検討した。更に、焼結ブッシュ7に含浸するオイルについて、鉱物油、各種合成油の適用を検討するだけでなく、オイルの分子構造にも着眼して新たな合成油の開発を進め、積極的に耐摩耗性の改良を推進した。
【0024】
本実施の形態において含浸に用いる上記オイルの詳細を以下に説明する。即ち、直鎖構造のみの直鎖リッチF結合オイルは高価ではあるが、側鎖リッチF結合オイルに比して高温環境においてより安定な分子構造を呈する。このため、本発明者は、この特性をできるだけ活用するために、直鎖リッチ構造と側鎖リッチ構造とをブレンドした側鎖構造のフッ素結合オイルを適用することをも考えた。適用を検討したオイルとしての主な性状を図3の表に示す。
【0025】
つまり、同図の表に示すように、直鎖リッチタイプ(図5における第1チェーンP1に用いたオイル)としては、直鎖構造と側鎖構造の比(直鎖/側鎖)が8/2、基油蒸発損量(NKL法(wt%)、条件:200℃×500Hrs)が10%、増稠剤率が3[%]、基油粘度(mm2/s)(測定方法:JIS K2283)が140(40℃)及び39(100℃)のものを適用することができる。
【0026】
また、側鎖リッチタイプ(図5における第2チェーンP2に用いたオイル)としては、直鎖構造と側鎖構造の比(直鎖/側鎖)が2/8、基油蒸発損量が4%、増稠剤率が3[%]、基油粘度(mm2/s)が155(40℃)及び23(100℃)のものを適用することができる。上記基油蒸発損量の値(4%)は、直鎖構造と側鎖構造の割合だけでは説明できない特異な優れた値である。表中の側鎖リッチタイプは、高温特性に重点をおいて開発したオイルである。直鎖構造と側鎖構造の比が同じ2/8であっても、ブレンドの仕方でオイルとしての諸特性が変わり、低温特性に重点をおいた側鎖リッチタイプでは蒸発損量は33%との値を示す。
【0027】
更に、完全側鎖タイプとしては、直鎖構造と側鎖構造との比(直鎖/側鎖)が0/10、基油蒸発損量が36%、増稠剤率が0[%]、基油粘度(mm2/s)が180(40℃)及び21(100℃)のものを適用することができる。
【0028】
以上のように、直鎖構造及び側鎖構造の両方を有する場合にその比を8/2ないし2/8の範囲内とすると、この範囲内で直鎖構造と側鎖構造との比を適宜変更することで、蒸発減量が小さい等の点で優位であるが高価な直鎖リッチ構造に比して廉価な側鎖リッチ構造のオイルとして用いることができ、所定の優れた耐摩耗性を廉価に実現できる。
【0029】
また、直鎖リッチF結合オイル又は側鎖リッチF結合オイルは種々の合成オイルに比して耐熱性に優れるが、該オイルだけでは(つまりフッ素結合オイルだけでは)潤滑性が充分でない場合、該オイルにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を配合して用いることにより、潤滑性をより充分にした状態で良好に使用することができる。
【0030】
[実施例1]
ついで、以上のことをより明確にするため、本発明を適用したローラチェーン構造の第1チェーン(ブッシュに直鎖リッチF結合オイルを含浸した仕様)P1と、本発明に係るローラチェーン構造の第2チェーン(ブッシュに側鎖リッチF結合オイルを含浸した仕様)P2と、従来のフッ素系のシールチェーンT1と、ブッシュに特殊合成油を含浸したローラチェーン構造のチェーンT2と、を比較した実験結果を図5に示す。
【0031】
つまり、同図は、直鎖リッチF結合オイル、側鎖リッチ結合オイル、特殊合成オイルを焼結ブッシュ7にそれぞれ含浸した3種類の焼結ブッシュチェーンP1,P2,T2と、耐熱性に優れるフッ素タイプシールチェーンT1との4種類を1本の環状にし、200[℃]の環境において、途中無給油で実駆動摩耗比較試験(200[℃]摩耗試験)を実施した結果である。同図に示す直鎖リッチF結合オイルP1は直鎖/側鎖が8/2となるようにブレンドしたもので、また側鎖リッチF結合オイルP2は直鎖/側鎖が2/8となるようにしたものであり、いずれも完全フッ素化オイル(パーフルオロポリエーテル)である。
【0032】
実験条件は以下の通りである。つまり、各チェーンP1,P2,T2には、JIS60番の同じ大きさの焼結ブッシュチェーンを用いてそのブッシュのみを、上述したように直鎖リッチF結合オイル含浸処理、側鎖リッチF結合オイル含浸処理、特殊合成油含浸処理をそれぞれ施したものを用いる。そして、各チェーンP1,P2,T1,T2は、速度60[m/min]、負荷馬力2.5[PS]で駆動される。
【0033】
以上、上記200[℃]の環境下での焼結ブッシュチェーンの実駆動摩耗試験結果は、図5に示すように、本発明を適用した焼結ブッシュチェーンP1,P2が、従来のフッ素タイプシールチェーンT1と略々同等の良好な結果を示した。ここで、フッ素タイプシールチェーンT1との比較を示した理由は、直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルをブッシュ7に含浸することにより、オープンチェーン構造のままで、部品を1種類追加して製造しているような高耐摩性チェーンと同等の優れた耐摩耗性が得られることを示すためであり、フッ素シールチェーンが優れた耐摩性を有すること自体を示すためではない。ここで、200℃の高温環境において、屈曲トルクが大きい、局部伸びし易い、部品が1種類多いことによる製造の困難さ、シールされることで給油による摩耗寿命の制御ができない等のシールチェーンの問題点を回避しつつ、優れた耐摩性を得ていることが分かる。
【0034】
本実施の形態で適用し得るフッ素オイルは、パーフルオロポリエーテルのオリゴマー(液体重合体)である。その構成元素は、炭素、酸素、及びフッ素だけからなり、水素や塩素を全く含まない。このオイルの最大の特徴である高度な熱安定性及び化学安定性は、以下の化学組成により発揮される。化学式(基本分子構造)の一例を以下に示す。
【0035】
【化1】
【0036】
上記適用したフッ素オイルは、熱によって解重合を起こす分解型である。分解物は気体であり、従って一部分解した場合でもオイルの性状にさほどの影響もなく、スラッジも発生しないので、ピン/ブッシュ間の焼き付き(凝着)が発生せず、高温においても安定した耐摩性が得られている。
【0037】
また、上記適用したフッ素オイルは、分子中に化学反応を受け入れやすい水素原子を全く含まないため、非常に優れた化学安定性を示す。即ち、酸やアルカリ溶液が付着するような環境にあってもオイルの性状が安定しているので、過酷な腐食環境下にあっても安定した耐摩性を奏することができる。上記適用したフッ素オイルの耐薬品性の例を図4の表に示す。
【0038】
即ち、同図の表に示すように、薬品種類が有機溶剤、薬品名が全ての有機溶剤、耐薬品温度が300℃の場合、観察結果は、溶剤が蒸発し、オイル変化は無しであった。また、薬品種類が有機酸、薬品名が全ての有機酸、耐薬品温度が300℃の場合、観察結果は、有機酸が昇華又は分解し、オイル変化は無しであった。更に、薬品種類が有機塩基、薬品名がトリブチルアミン、耐薬品温度が200℃の場合、観察結果は、アミンが変色し、オイル変化は無しであった。そして、薬品種類が無機酸、薬品名が塩酸及びフッ化水素酸、耐薬品温度が250℃の場合、観察結果は、酸が蒸発し、オイル変化は無しであった。また、薬品種類が無機酸、薬品名がオルトリン酸及び硫酸、耐薬品温度が200℃の場合、観察結果は、オイル変化無しであった。更に、薬品種類が無機塩基、薬品名が水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム、耐薬品温度が200℃の場合、観察結果は、オイル変化無しであった。そして、薬品種類が無機塩、薬品名が塩化カリウム、耐薬品温度が250℃の場合、観察結果は、オイル変化無しであった。
【0039】
なお、適用したフッ素オイルの耐荷重性においては、曽田式四球試験による焼き付き荷重が、9.80665×105Pa(=10kgf/cm2)以上と優れていた。この値は、EP剤を添加した鉱油に近く、エステル合成油の約2倍である。
【0040】
ここで、上述したフッ素オイルの化学構造式を示す。まず、直鎖フッ素油(直鎖リッチF結合オイル)の構造は、例えば次の化学式で示すことができる。
【0041】
【化2】
【0042】
また、側鎖フッ素油(側鎖リッチF結合オイル)の構造は、例えば次の化学式で示すことができる。
【0043】
【化3】
【0044】
分子構造に起因して、側鎖で構成されるオイルに対して直鎖構造オイルの方が熱的安定性が優れている。即ち、直鎖構造の方が高温での分子結合力が強くて、分子構造が壊れにくい。オイルを構成する分子構造において直鎖が多くある直鎖リッチなオイルは、高温での蒸発損量が少ない等、熱的安定性に優れ、高温環境における耐摩性に優位である。その反面、価格が高くつく問題もあり、実用レベルでは、直鎖の少ない分子構造の側鎖リッチオイルを使いたい要求が高い。そこで、F−結合を有するオイルでもその分子構造によって熱環境での蒸発減量等に大きな差があることに着眼し、直鎖と側鎖とのブレンドの比率を変更することで、蒸発減量が小さい等の点で優位であるが高価である直鎖リッチ構造のみのオイルではなく、側鎖の比率が高くて廉価な側鎖リッチ構造オイルを用いることで、所定の優れた耐摩耗性を安く実現することができた。
【0045】
以上のように、特殊合成油を適用しても200℃のような高温になると、F−結合を有する含油焼結ブッシュチェーンの優位性が明らかであり、またオープンチェーン構造でありながら、シールチェーン同等の優れた耐摩耗性を得ることができた。更に、より廉価な側鎖リッチ構造のF結合オイル仕様でも、シールチェーンに近い耐摩耗性を得ることができた。更に、試験後のブッシュ外径摩耗量に着眼すると、F結合オイル含浸焼結ブッシュチェーンの摩耗量は、シールチェーンのそれと比較した場合、最大で1/2軽減することができた。また、ローラ摩耗量でも、F結合オイル仕様チェーンの摩耗量は、シールチェーン比で2割程度軽減することができた。
【0046】
[実施例2]
側鎖リッチF結合オイルを含浸した本発明に係る焼結ブッシュチェーン1と、フッ素系シールチェーンとを、150℃の温度環境で摩耗比較試験を実施したところ、いずれのチェーンも0.1%程度の初期伸びて約600時間を推移した。そして、600時間経過後にフッ素系シールチェーンの数ヶ所に先行して硬直が発生して試験継続が困難となったため、本焼結ブッシュチェーン1の優位で試験を終了した。
【0047】
[実施例3]
F結合オイルを含浸した本発明に係る焼結ブッシュチェーン1と、フッ素系シールチェーンとを、240℃の温度環境で摩耗比較試験を実施したところ、フッ素系シールチェーンのシールが早期に折損・脱落し、本焼結ブッシュチェーン1の優位で試験を終了した。
【0048】
以上の実施例からも理解できるように、150℃以上の高温環境下で、従来優れた耐摩耗性で注目されていたシールチェーンと比較しても、F結合オイルを含浸した焼結ブッシュチェーンは充分に優れた性能が得られている。
【0049】
ところで、本出願人は、従来の問題点を解消するために、ピン3の表面にリン酸マンガン皮膜を適用することにより、スラッジの発生を抑制すると共に、耐摩耗性の改善に大きな効果を得るようにしたものも提案しているが、この手法で有効な効果を得ることができるのは150℃程度までであり、150℃を超えるとスラッジの発生が増え、充分な耐摩耗性を得ることが困難になるなど、150℃以上の環境で焼結ブッシュチェーンの寿命を上げることは困難である。また、このような特殊な環境では、定期的なメンテナンスが容易ではなく、メンテナンス回数をできる限り減らすために、従来技術手法ではプレート間に弾性体であるシールを装着したシールチェーンを適用することがあるが、給油が不充分になると、比較的早期にブッシュ外径摩耗或いはローラ摩耗が進行し、チェーン伸びが大きくなる前にチェーン寿命となり、優れた耐摩耗性を有効に発揮できない問題が生じる場合もある。更に、シールチェーンでは、耐熱性に優れるフッ素系のシールを適用しても、200℃を越えて使用したり、シールの劣化を招く油を給油に使ったりすると、シールが切れる問題が生じる場合があり、200℃を越える環境でのシールチェーンの使用には比較的大きな制限が生じる等の問題があった。上述した実施形態及び実施例においては、より単純なローラチェーン構造のままでシールチェーンと同等の優れた耐摩耗性を示す耐熱無給油型焼結ブッシュチェーンが得られている。
【0050】
すなわち、前述した実施形態及び実施例では、直鎖リッチF結合オイル又は側鎖リッチF結合オイル(つまり直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイル)を含浸した焼結部材によりブッシュ7を構成したので、150℃を越えるような高温環境下にあっても、スラッジの発生を可及的に抑え、シールチェーンで問題となりやすい硬直や局部的な伸びの発生を大幅に抑えることができる。これにより、チェーン使用寿命を長く設定することができ、プレート間にシールでオイルを封入するような複雑な構造を持たないものでありながら、耐熱シールでフッ素系オイルを封入した構造のシールチェーンと同等の優れた耐摩耗性を得ることができる。このため、リンクプレート同士を結合するピン3に特殊な材質を用いたり表面処理を施したり、或いはブッシュ7に特殊な材質を用いたり熱処理を施したりするような煩雑な工程を不要にすることができる。また、シールを用いないオープンタイプのローラチェーン構造であることから、屈曲トルクが軽くなり、チェーン駆動用のモータ(図示せず)の負荷を低減できる。
【0051】
更に、焼結部材に含浸したオイルが直鎖構造又は側鎖構造を有することで、耐熱性をより向上させることができると共に、該オイルのあらゆる薬品との反応性が極めて低いことにより、通常は使用不能となるような腐食性の環境下であってもオイル劣化を可及的に抑えることができ、従って無給油状態でのより優れた耐摩耗性が得られる。また、直鎖構造又は側鎖構造を有するフッ素結合オイルは、分子構造によっては熱環境下での蒸発減量等に大きな差があり蒸気圧が低いので、クリーンルームや真空系で用いる装置に適用した場合であっても、環境を汚すことなく優れた耐摩耗性を得ることができる。従って、これまで焼結ブッシュチェーンの使用が困難とされていた環境での適応も期待することができる。
【0052】
なお、上述した本実施の形態例並びに各実施例における焼結ブッシュチェーンは、一般的なスチールを全ての構成部品に用いたチェーンに適用することができるが、これに限らず、構成部品の全ての材質にステンレス鋼を用いた所謂ステンレス焼結ブッシュチェーンにも同様に適用できることは勿論であり、その場合にも、上記スチール製の焼結ブッシュチェーンと同様の効果を奏することは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用される焼結ブッシュチェーンを示す一部断面した平面図。
【図2】そのピン及びブッシュ部分の横断面図。
【図3】本発明に係るオイルの主な性状を示す図。
【図4】本発明に係るオイルの耐薬品性を示す図。
【図5】本発明を適用した焼結ブッシュチェーンと従来型のチェーンとを、高温(200[℃])環境下で実駆動摩耗試験を行った結果を示す図。
【符号の説明】
1 無給油チェーン(焼結ブッシュチェーン)
2 リンクプレート
3 ピン
5 第1のリンク(ピンリンク)
6 リンクプレート(ローラリンクプレート)
7 ブッシュ
10 第2のリンク(ローラリンク)
Claims (3)
- 2個のリンクプレートの両端部をピンにて連結した第1のリンクと、2個のリンクプレートをブッシュにて連結した第2のリンクとを、前記ピンを前記ブッシュに遊嵌することにより交互に連結し、かつ前記ピンと前記ブッシュとがオイルにより潤滑されてなる無給油チェーンにおいて、
前記ブッシュは、前記オイルとして直鎖構造及び側鎖構造の少なくとも一方を有するフッ素結合オイルを含浸した焼結部材からなる、
ことを特徴とする無給油チェーン。 - 前記直鎖構造及び側鎖構造の両方を有する場合にその比が8/2ないし2/8の範囲内にある、
請求項1記載の無給油チェーン。 - 前記フッ素結合オイルにポリテトラフルオロエチレンが配合されてなる、
請求項1又は2記載の無給油チェーン。
Priority Applications (1)
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|---|---|---|---|
| JP2003078272A JP2004286115A (ja) | 2003-03-20 | 2003-03-20 | 無給油チェーン |
Applications Claiming Priority (1)
| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
|---|---|---|---|
| JP2003078272A JP2004286115A (ja) | 2003-03-20 | 2003-03-20 | 無給油チェーン |
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| JP2004286115A true JP2004286115A (ja) | 2004-10-14 |
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|---|---|---|---|
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-
2003
- 2003-03-20 JP JP2003078272A patent/JP2004286115A/ja active Pending
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