(第1実施形態)
本発明の第1実施形態の自動ブレーキ装置について、図面を参照して説明する。図1は、本第1実施形態の自動ブレーキ装置の全体構成図である。なお、車両VLの右前輪、左前輪、右後輪、左後輪をそれぞれ、FR、FL、RR、RLで表す。
本実施形態に示す自動ブレーキ装置の各構成要素は車両VLに搭載されている。自動ブレーキ装置には、ブレーキ制御手段としてのブレーキ制御ECU1と、第1のブレーキ手段としての油圧ブレーキ装置2と、第2のブレーキ手段としての電動パーキングブレーキ(以下、PKBという)3と、油圧ブレーキ装置2と第1配管系統11および第2配管系統21(図2参照)でそれぞれダイアゴナル接続されている各車輪4FR、4RL、4FL、4RR毎のホイールシリンダ(以下、W/Cという)41FR、41RL、41FL、41RRとが備えられている。また、PKB3と後輪4RL、4RRとの間にはブレーキワイヤ31R、31Lが備えられ、これによりPKB3と後輪4RL、4RRの各ブレーキキャリパー(図示せず)とが接続されている。
また、自動ブレーキ装置には、各車輪の回転速度や回転方向を検出する車輪速センサ5と、各種電子機器の入出力信号を伝送する車内LANバス6と、アクセル操作量を検出するアクセル操作量センサ7と、自動変速機(図示せず)のシフト位置を検出するシフト位置センサ8と、車両VLの前後方向の加速度を検出する前後加速度センサ9とを備えている。
自動ブレーキ装置の各構成要素の詳細は以下のようになっている。
ブレーキ制御ECU1は、コンピュータにより構成されている。このブレーキ制御ECU1は、車輪速センサ5からの車輪速度、車内LANバス6を介してアクセル操作量センサ7からのアクセル操作量信号、シフト位置センサ8からのシフト位置信号および前後加速度センサ9からの前後加速度信号を入力する。そして、ブレーキ制御ECU1は、これら各信号に基づき、後述する制御フローチャートの処理手順に応じて、制動力付与手段としての油圧ブレーキ装置2およびPKB3を制御するための駆動信号(第1作動信号または第2作動信号)を決定し、出力して、各車輪に制動力を発生させる。
なお、以下の説明において、「制動圧」とは「制動力」を発生させるW/C圧に相当するもので、「制動力」と対応している。例えば、目標制動力に対応する目標減速度が、減速度1G=10MPa(G:重力加速度、Pa:パスカル(圧力単位))の式に基づいて制動圧に換算される。なお、Paは圧力単位を示すパスカルであり、1MPaのW/C圧が0.1G(重力加速度)の減速度に相当するような条件下では、上記等式にて目標減速度が定義される。
油圧ブレーキ装置2は、図2のように構成されている。マスタシリンダ(以下、M/Cという)10は、運転者により図示しないブレーキペダルが踏み込まれるとその踏力に応じたM/C圧を発生する。このM/C圧は、それぞれ第1配管系統11および第2配管系統21を介して各車輪に備えられたW/C41FR、41RL及び41FL、41RRに伝達され、第1の制動力を発生させる。以下では、第1配管系統11、特に、右前輪4FRに関わる配管系統を中心に説明するが、他の車輪および第2配管系統についても同様である。
第1配管系統11には、右前輪4FRおよび左後輪4RLのそれぞれに対して、アンチスキッド制御(以下、ABS制御という)において各W/C41FR、41RLの増圧および保持を調整する増圧制御弁14a、14bが設けられている。また、増圧制御弁14a、14bにそれぞれ並列に逆止弁141a、141bが設けられ、増圧制御弁14a、14bの遮断時にW/C圧が過剰となった場合に液流をM/C10側へ逃がすようになっている。この増圧制御弁14a、14bとW/C41FR、41RLとの間から伸びる減圧管路12にはABS制御におけるW/C41FR、41RLの減圧、保持を調整する減圧制御弁15a、15bが設けられている。
この減圧管路12はリザーバ16と接続されている。このリザーバ16に貯溜されるブレーキ液はモータ20により駆動されるポンプ17によって汲み上げられ第1配管系統11に吐出される。この吐出先は、増圧制御弁14a、14bとマスタカット弁(以下、SM弁という)18との間となっている。モータ20は第2配管系統21におけるポンプ27も駆動している。なお、ポンプ17の吐出口には逆止弁171が設けられている。
SM弁18は、M/C10と増圧制御弁14a、14bとの間に配置されている。SM弁18は、非通電時は連通状態、通電時には図示方向の逆止弁による遮断状態となる2位置弁である。遮断状態では、W/C41FR、41RL側の圧が逆止弁のばねによるクラッキング圧分M/C10側の圧よりも高くなったときにリリースされ、圧を逃がす構造となっている。このSM弁18には並列に逆止弁181が設けられており、M/C10側からW/C41FR、41RL側への流動のみが許容される。
M/C10とSM弁18との間と、リザーバ16とは吸引管路13で接続されている。
第1配管系統11のM/C10とSM弁18との間には油圧センサ30が設けられ、M/C10の発生圧を検出する。これによる検出圧力はM/C10の図示しないセカンダリ室の発生圧力であるが、第2配管系統が接続されるプライマリ室にも同圧が発生しているので、この油圧センサ30は実質的にM/C圧を検出する。また、増圧制御弁14a、14bとW/C41FR、41RLとの間にも油圧センサ19a、19bが設けられ、それぞれW/C圧を検出する。これらの油圧センサの出力信号は、ブレーキ制御ECU1に入力される。
上記増圧制御弁14a、14b、減圧制御弁15a、15bは2位置弁であり、ブレーキペダルの非操作時および通常ブレーキ時などの非通電(OFF)時には図示の弁体位置、すなわち、増圧制御弁は連通状態、減圧制御弁は遮断(カット)状態にある。また、SM弁18も通常の非通電時には図示の弁体位置、すなわち連通状態にある。これら各制御弁は、ブレーキ制御ECU1からの作動信号により動作する。また、ポンプ17、27を駆動するモータ20もブレーキ制御ECU1からのブレーキ作動信号により動作する。
なお、これらの油圧ブレーキ装置2に対するブレーキ制御ECU1からの各作動信号は、総じて第1作動信号に相当する。また、油圧ブレーキ装置2を制御停止(または、制御禁止)にするとは、第1作動信号を解除状態、すなわち0(非作動状態)にすることを意味し、具体的には、増圧制御弁14a、14b、24a、24b、減圧制御弁15a、15b、25a、25bおよびSM弁18、28を全て非通電とし、かつ、モータ20の駆動電流を0とすることである。したがって、第1作動信号が解除されると、各輪のW/C圧が0に減圧され、第1の制動力が0になる。
ブレーキ制御ECU1からの第1作動信号としての増圧、保持、減圧の各指令値に基づいて実行されるブレーキ動作について説明する。このブレーキ動作は、上記油圧ブレーキ装置2の自動ブレーキ動作、すなわちブレーキペダル操作に関わらず実行される。なお、通常動作であるドライバのブレーキペダル操作に基づく動作や、アンチスキッド制御中における動作については周知であるため、説明を省略する。
自動ブレーキ制御の増圧過程では、SM弁18がON(カット状態)に、かつ、減圧制御弁15aがOFF(カット状態)にされる。そして、ポンプ17を駆動してリザーバ16を通じてブレーキ液を吸引、吐出する。このポンプ17による吐出圧を発生させた状態で、油圧センサ19aの検出値との比較を行いながら、増圧制御弁14aをOFF/ONのデューティー比制御する。これにより所定の変化勾配で、あるいは設定された目標の圧力までW/C圧を増圧する。このとき、必要に応じてM/C10から吸引管路13、リザーバ16を介してブレーキ液がポンプ17の吸引口に補充される。
自動ブレーキ制御の減圧過程では、SM弁18がON(カット状態)に、かつ、増圧制御弁14aがON(カット状態)にされる。そして、ポンプ17を駆動してリザーバ16を通じてブレーキ液を吸引、吐出する。このポンプ17による吐出圧を発生させた状態で、油圧センサ19aの検出値との比較を行いながら、減圧制御弁15aをON/OFFのデューティー比制御する。これにより所定の勾配で、あるいは設定された目標の圧力までW/C41FRよりブレーキ液を吸引してW/C圧を減圧する。
なおこのとき、増圧制御弁14aおよびSM弁18がともにカット状態であるため、ポンプ17の吐出圧は増大するが、その圧がSM弁18の逆止弁のばねのクラッキング力より大きくなるとリリースされて圧力が低下する。
自動ブレーキの保持過程では、SM弁18がON(カット状態)に、増圧制御弁14aおよび減圧制御弁15bが共にカット状態にされる。これにより、W/C圧が保持される。
次に、第2ブレーキ手段である電動PKB3について説明する。
電動PKB3は、車両停止時に、その停止状態を保持するものである。具体的には、PKB3は、ブレーキ制御ECU1からの第2作動信号により動作し、図示しないモータおよびギア機構からなるアクチュエータがブレーキワイヤ31R、31Lを駆動することで左右の後輪4RR、4RLのブレーキキャリパおよび摩擦材を各ブレーキディスク(ともに図示せず)に押し付け、制動力を発生させる。
電動PKB3のモータは第2作動信号に基づきデューティー駆動されて正転(制動力増加)または逆転(制動力減少)し、これにより第2の制動力の大きさが制御される。
このとき、デューティー比に応じた制動力が発生し、目標制動力となったら電動PKB3のモータがロックし、モータロックが検出されるとモータの駆動電流が遮断、すなわち、第2作動信号が解除されて、電動PKB3は制御停止(制御禁止)の状態となる。電動PKB3が制御停止状態の際にはギア機構は動かないので、制動力は維持され、ロック状態となる。
このような電動PKB3の動作は、自動ブレーキ制御中にブレーキ制御ECU1からの第2作動信号によって行われる以外に、運転者により図示しないパーキングブレーキスイッチをON/OFF操作した場合にも、その操作信号に基づきブレーキ制御ECU1が電動PKB3の第2作動信号を出力することにより動作可能である。
車輪速度センサ5は図2に示すように、各車輪の回転速度を検出する車輪速度センサ5FR、5FL、5RR、5RLからなり、それぞれの出力信号は直接ブレーキ制御ECU1に入力される。
なお車輪速度センサ5FR、5FL、5RR、5RLにホール素子による半導体式速度センサを用いることにより、低速度でも確実な車輪回転および回転方向を示すパルス信号が得られるので、停止状態からの移動状態でも正確な車速を検出することができる。
アクセル操作量センサ7は、図示しないアクセルペダルの踏込み量を検出する。この踏込み量は、アクセル操作量として車内LANバス6を介してブレーキ制御ECU1へ入力される。
ブレーキ制御ECU1では、アクセルペダルの踏込み量から換算されるアクセル開度、あるいは、踏込み量の微分演算により算出したアクセルペダルの操作速度をアクセル操作量として用いる。
ドライバは、停止状態から車両を発進させようとする場合には、アクセルペダルを踏み込む操作を行う。したがって、アクセル操作量センサ7(およびブレーキ制御ECU1)は、本発明の発進意志検出手段に相当する。
シフト位置センサ8は、シフト位置状態を検出し車内LANバス6を介してブレーキ制御ECU1へ入力する。このシフト位置状態とは、図示しない自動変速機の変速位置である、D(ドライブ)、2(セカンド)、L(ロー)、R(後退)、N(ニュートラル)、P(駐車)などを意味し、ドライバのシフトレバー操作により選択される。
シフト位置センサ8により、Dレンジ(または、2レンジ、Lレンジ)が検出されればドライバの移動意志方向は前進方向と判定でき、Rレンジが検出されればドライバの移動意志方向は後退方向と判定できる。このため、このシフト位置センサ8は本発明の意志方向検出手段として機能する。
前後加速度センサ9は、車両VLの進行方向すなわち前後方向の加速度を検出し、車内LANバス6を介してブレーキ制御ECU1に入力される。なお、本実施形態では、前後加速度センサ9で検出された加速度が用いているが、ブレーキ制御ECU1において車輪速度センサ5からの車輪回転速度を微分演算したものを代用してもよい。
次に、以上のようなハードウェア構成を備える第1実施形態の自動ブレーキ装置において、ブレーキ制御手段としてのブレーキ制御ECU1が実行する制御フローについて説明する。
図3は、本実施形態のメインフローチャートを示している。本フローチャートは、ブレーキ制御ECU1により、イグニッションオンとともに処理が始められ、所定の制御周期(例えば、5〜10ms)で繰り返し実行される。
ステップ10では、イニシャルチェックおよび各種入力処理が行われる。このイニシャルチェックでは、油圧ブレーキ装置2および電動PKB3の各アクチュエータの動作チェックを行う。すなわち、油圧ブレーキ装置2では、各電磁弁14a、14b、15a、15b、24a、24b、25a、25b、18、28に実際に通電し、ブレーキ制御ECU1側でそれぞれの端子電圧のチェックを行うことで各電磁弁の断線チェックを行ったり、油圧センサ30、19a、19b、29a、29bの検出値から油圧異常を判断して、故障個所の特定を行ったりする。
また、電動PKB3では、実際に通電したときの検出電流が正常か、電動PKBのモータが正常に回転しているか等を判定し、故障個所の特定を行う。なお、故障が発見された場合には、ブレーキ装置2の各部で異常動作などを行なったりしないように、故障診断の後、制御の禁止、特定の代替制御への切替え、警告灯の点灯などの処置ができるようシステム構成されている。
ステップ11では、各車輪速度センサ5の検出値より、各輪4FL〜4RRの車輪速度および従動輪(前輪駆動車では左右後輪)の車輪速度を求めると共に、この車輪速度に基づいて車体速度を演算する。
ステップ12で、車両Vlの走行状況に応じたブレーキ制御が実行される。具体的には、ブレーキアシスト制御、ABS制御、トラクション制御、横滑り防止制御が実行される。ブレーキアシスト制御は、ブレーキペダルの踏み込みが大きい場合にM/C圧を増加させる。ABS制御は、車両停止時に車輪速度が車体速度より大きくなってスリップ量が所定値以上となった場合に、車輪スリップを回避し、適正な制動力が得られるようにする。トラクション制御は、車輪速度が車体速度より大きくなってスリップ量が所定値以上の場合にエンジン出力および制動力を制御してスリップ量を小さくする。横滑り防止制御は、車両の横加速度やヨーレートに基づき車体の安定性を確保できるよう各輪の制動力を制御する。
ステップ13で、ブレーキホルダ制御を行う。この処理では、停止保持モードとして車両の停止保持が行われる。具体的には、第1ブレーキ手段である油圧ブレーキ装置2または第2ブレーキ手段である電動PKB3によって制動力を発生させ、車両の停止状態を維持する。このブレーキホルダ制御は、次の条件のときに開始される。
(1)車速=0、かつ、ブレーキペダルが所定時間以上連続して踏み込まれている場合。
(2)車速=0、かつ、運転席周辺に設置されたブレーキホルダ開始スイッチが押された場合。
(3)車速=0、かつ、変速機のシフト位置が車両移動可能な、すなわち駆動力を発生するD、2、L、Rの各レンジから、車両移動ができない、すなわち駆動力を発生しないP、Nのいずれかに変更された場合。
上記条件のいずれかを満たすと、車両の停止保持可能な目標制動力が設定される。このとき、目標制動力は、例えば、各ブレーキ装置のアクチュエータが発生できる最大制動力、または、ブレーキホルダ動作開始前にブレーキペダルで車速=0に停止保持できているときの制動力に設定される。
ステップ14で、発進補助制御を行う。例えば、車両停止後にドライバによりアクセルペダル操作がなされた場合に、ブレーキホルダ制御にて設定された目標制動力を調整し、発進補助制御に応じた各ブレーキ装置の目標制動力の設定を行う。このステップの処理内容は後述する。
ステップ15では、上記ステップ12で設定された目標制動力、ステップ14で設定された発進補助制御における目標制動力および、図示しない他の制動要求システムからの制動要求に基づく目標制動力に基づく、各ブレーキ制御システム間の調停が行われる。例えば、これら各目標制動力の中から、最も大きい目標制動力が選択される。なお、ここでいう他の制動要求システムとは、例えば、前方車両との車間距離を一定に保つ車間距離制御ECUや緊急時に車両を停止させる緊急車両停止ECU等が該当する。
ステップ16で、イグニッションオン中のフェールセーフチェックを行う。すなわち、ブレーキ制御ECU1、油圧ブレーキ装置2、電動PKB3、およびその他各センサの状態を常時診断する。故障が検出されると、車両VLが危険な状態にならないよう所定の処置が行われる。
ステップ17では、ステップ15で選択された目標制動力が油圧ブレーキ装置2に対するものであった場合に、ブレーキ制御ECU1から第1作動信号を出力させる。これにより、油圧ブレーキ装置2が発生させる第1の制動力が目標制動力となるよう制御される。
ステップ18では、ステップ15で選択された目標制動力が電動PKB3に対するものであった場合に、ブレーキ制御ECU1から第2作動信号を出力させる。これにより、PKB3が発生させる第2の制動力が目標制動力となるよう制御される。
ステップ19では、TRC制御におけるエンジン出力制御など、アクセル操作と直接関連しないエンジン出力制御のためのエンジン出力指令値が出力される。
次に、ブレーキ制御ECU1が実行する発進補助制御のフローチャートについて、図4および図5に基づき説明する。なお、本制御フローは、図3に示すメインフローチャートのステップ14において実行される。したがって、この発進補助制御フローも所定の制御周期で繰り返し実行される。
なお、ここでは、例えば、上記ステップ13でのブレーキホルダ制御において、油圧ブレーキ装置2により各車輪に停止保持のための制動力が発生させられている状態を想定している。この状態からアクセル操作がなされたか否かに応じて、発進補助制御が実行される。
ステップ100では、ドライバによりアクセル操作がなされたか、すなわちアクセル操作量センサ7によりドライバの発進意志が検出されたか否かが判定される。ステップ100での判定の結果NOであれば、ドライバに発進意志がないものとして、ステップ110へ移行する。これにより、現時点の制動力が保持されるよう、すなわち制動力を変化させないよう目標制動力が設定され、ステップ190へ移行する。
なお、ステップ100では、ノイズ対策のため、検出されたアクセル操作量が予め設定されているオフセット量以上となる場合を、アクセル操作ありと判定している。
ステップ100での判定の結果YESであれば、ステップ122に進む。ステップ122では、初期減圧モードが完了しているか否かを判定する。ここで、初期減圧モードとは、車両移動方向検出モードとして車両が実際に移動する方向(以下、実移動方向という)を検出するためにW/C圧の減圧を実行するモードであり、車両が移動開始する際に実行されるW/C圧の減圧の初期に実行される。この初期減圧が行われることにより、車両の制動力が小さくなり、車両が移動するため、その移動方向を検出する。
このステップにおける初期減圧が完了したか否かは、例えば初期減圧完了時に立てられる初期減圧完了フラグの状態に基づいて判定される。初期減圧完了フラグがONであれば、初期減圧が完了しているものとしてステップ130へ移行し、OFFであれば、初期減圧を行うためにステップ123へ移行する。
ステップ123では、初期減圧量γを数式1の演算により決定する。
(数1)
γ=A1×アクセル開度+A2×経過時間
ここで、アクセル開度はアクセル操作量センサ7による検出値、経過時間は本ステップ123の繰り返し回数に比例する経過時間を表している。また、A1およびA2は、それぞれアクセル開度および経過時間に対する比例定数である。
数式1において、初期減圧量γは、アクセル開度(ドライバの発進したいと思う速度)が大きいほど、かつ、初期減圧処理の処理時間が長いほど、大きく設定するものである。
次に、ステップ124で、目標制動力として、現在付与されている制動力より上記設定された初期減圧量γに相当する制動力分減少させた制動力を、新たな目標制動力として設定する。この処理により、初期減圧の際には、メインフローの制御周期毎に初期減圧量γの減少勾配で、目標制動力を減少させることができる。
この目標制動力の減少により、車両VLが移動する。このときの移動は、ドライバのアクセル操作および路面の勾配の関係に応じたものとなるため、シフト位置センサ8で検出される自動変速機のシフト位置が示す車両移動方向(前進または後退)と一致する場合もあるが、シフト位置が示す車両移動方向と逆になる場合もある。
ステップ125で、車輪速度センサ5の出力である車輪速度センサパルスが、予め設定されたN個を超えたか否かを判定する。判定の結果がYESであれば、ステップ126で、車輪速度センサ5が検出した車輪の回転方向より、車両の実移動方向が検出できる。従って、本初期減圧処理を完了し、初期減圧完了フラグをONにし、ステップ130へ移行する。判定の結果がNOであれば、このルーチンを終了し、前述したステップ17において、上記ステップ124で設定された目標制動力を実際に発生させ、上記初期減圧処理を繰り返す。
このように、初期減圧モードを実行することにより、坂路勾配とシフト位置に基づく移動意志方向およびアクセル操作量に基づく移動意志の大きさとの三者によって定まる実移動方向を検出することができる。このため、坂路勾配を計測する特別な装置を用いることなく、実移動方向を検出することができる。
次に、初期減圧処理(初期減圧モード)が終了すると、補助ブレーキモードに移行し、ステップ130で、検出された車両の実移動方向がシフト位置センサ8の検出したシフト位置と一致するか否かを判定する。
判定の結果、YESすなわち同方向または停止状態(車速=0)ならば同方向モードが選択され、ステップ140へ移行する。また、NOならば逆方向モードが選択され、ステップ180へ移行する。
なお、ステップ130は、初期減圧モードが完了した後にも繰り返し実行されるため、車両の実移動方向とドライバの移動意志方向とが常に比較され、これらが同方向か逆方向か、又は車両が停止状態であるか否かが判定される。
同方向モードでは、ステップ140において、目標制動力を所定の減少勾配で減少させるために、それに相当するW/C圧の減圧量αを演算する。具体的には、減圧量αは以下のように演算される。
まず、図6に示すマップAを予め設定しておく。このマップAは、アクセル開度および車速、またはアクセル開度および加速度の2次元マップである。減圧量αの算出に用いられる係数Aが、車速(または加速度)に応じて小さくなり、かつ、アクセル開度に応じて大きくなるよう設定されている。また、アクセル開度が小さいにも関わらず車速、加速度が非常に大きくなるような急な下り坂においては、係数Aが小さくされ、W/C圧が緩やかに減少させられることで車両が急加速されないような設定となっている。
この2次元マップより、車速(または加速度)とアクセル開度とに応じた係数Aを読み出す。そして、この係数Aを減圧量αの初期値K1に対する比例係数として、α=K1×Aの数式より、W/C圧の減圧量αを算出する。これが1サイクル当りのW/C圧の減圧量αであり、減少勾配となる。
これにより設定される目標制動力は、車両の実移動方向とドライバの移動意志方向とが同方向である場合において速やかに車両を発進加速するために、制動力を減少させるものであり、アクセル開度に応じた減圧量とされる。これにより、アクセル開度が大きいような急加速を要する場合には、より早く制動力を減少させることようになっている。
なお、車速は車輪速度センサの検出値より算出され、加速度は車速の微分値として算出される。また、加速度は前後加速度センサ9の検出値を用いても算出される。
そして、ステップ150で、現在の目標制動力より上記算出された減少勾配である減圧量αを差し引いた制動力を新たな目標制動力として設定し、ステップ190での発進補助制御の継続判定を行なう。すなわち、発進補助制御を継続すべきか否かを判定する。
具体的には、ステップ190では、ドライバの移動意志方向と車両の実移動方向とが同方向のときの車速が所定値(例えば、15km/hまたはアクセル開度に応じた車速)を超えたか否かを判定する。車速が所定値より大きくなれば、発進動作は一応完了したものとして、本発進補助制御を終了する(ステップ192)。
また、このステップで同方向の車速が所定値を超えていない場合は、停止時(車速=0)および逆方向への移動時も含めて、発進補助制御を完了としない。この場合、次の制御周期ではステップ100から処理が繰り返されることになる。
これにより発進補助制御のフローが終わるため、メインフローチャートにおけるステップ17において、この処理で設定された目標制動力が発生するよう、油圧ブレーキ装置2に対して第1作動信号を与える。
一方、逆方向モードでは、以下の処理が実行される。なお、ここでいう逆方向モードとは、本発明における第1の逆方向モードに相当するものであり、車速と目標速度との偏差に応じた制動力制御を行う。以下、本実施形態における逆方向モードを第1の逆方向モードという。
まず、ステップ180で、現在の車速が予め設定されている目標速度Vlimitより大きいか否かを判定する。ここでいう目標車速Vlimitとは、車両の逆方向に移動してしまわないようにするための基準値である。ここでYESならば、ステップ184に進み、目標の制動力を所定の増加勾配で増加させるための1サイクル当りのW/C圧の増圧量βを数式2により演算する。
(数2)
β=K2×(車速−Vlimit)
ここで、K2は、車速と目標車速Vlimitとの差に相当する速度偏差量の増加制動力への換算係数であり、予め設定されている。
次に、ステップ186で、現在の目標制動力に、上記算出された増加勾配である増圧量βを加えた制動力を新たな目標制動力として設定する。そして、ステップ190での発進補助制御の継続判定の後、ステップ17で、この目標制動力が発生するよう、制動力付与手段としての油圧ブレーキ装置2に対して第1作動信号を与える。
ステップ180での判定の結果、NO、すなわち車速≦Vlimitであれば、車速が目標速度に達していないものとして、ステップ182で目標制動力を変化させないよう設定して、ステップ17で、ブレーキホルダ制御の際に設定された目標制動力を発生させる。
この第1の逆方向モードにおけるステップ180→S184→S186(→S17)の処理は、車速と目標速度Vlimitとの偏差を0に近づけるよう制動力を制御するものであり、フィードバック制御に相当する。
以上のように、第1実施形態では、車輪に制動力を付与した状態で停車している状態で、ドライバが発進意志の表れであるアクセル操作を行うと、まず、初期減圧モードで、停車中の制動力より所定周期毎に減圧量γで減圧することにより、車両を緩やかに走行させ、この初期減圧により車両の移動する方向を実移動方向として検出する。
この実移動方向と、ドライバの移動したい方向である意志方向として検出したシフト位置とを比較し、両者が同方向である場合には、同方向モードでの動作として、制動力を所定の減少勾配(減圧量α)で更に減少させることにより、速やかに発進させる。
一方、実移動方向と移動意志方向とが逆方向である場合には、第1の逆方向モードでの動作として、逆方向への車速が目標速度以下に減少するまで制動力を所定の増加勾配(増圧量β)で増加させ、車速が目標速度以下となったら制動力を変更しないように制御する。すなわち、ドライバの意志に反した逆方向への車両走行速度を抑制するようにブレーキをかけることができるので、ドライバに不安を与えないようにできる。
この第1の逆方向モードでの動作により、移動意志方向とは逆方向において車速が目標速度以下に減少する。さらに、ドライバの移動意志方向と車両の実移動方向とが同方向である場合の車速をプラスとすると、一定の制動力の保持およびアクセル操作の継続により、車速がマイナス→0→プラスへと変化する。このため、車速がプラスに転じてからは同方向モードでの動作が開始し、最終的に車両を円滑に発進させることができる。
以上のような処理を実行する本実施形態の自動ブレーキ装置の動作例について説明する。図7に、制動力付与手段となる油圧ブレーキ装置2およびPKB3にて発生させる制動力、ドライバのアクセル操作量であるアクセル開度および制御の結果移動する車両VLの車速のそれぞれのタイムチャートを示す。この図は、車両VLが下り坂路で停止保持されている状態から、ドライバの移動意志方向が前進に設定されているときの発進補助制御の様子を示している。なお、この図において、アクセル操作量の変化は、通常の発進時にドライバによって行われるアクセル操作の状況を示している。
t=ta0の時点でドライバによりアクセル操作がなされると、アクセル操作量がオフセット値を超えた時点t=ta1で(S100)、初期減圧モードに移行し(S122)、所定の減少勾配である初期減圧量γで制動力が減少する(S123、S124、S125)。
この初期減圧モードでの車輪速度センサ5のパルス数が所定値Nを超えると、すなわち車両の移動量が所定量を超えると(S125)、車両の実移動方向が検出される。この場合、下り坂路であることから、車両の実移動方向が前進方向となっていることが検出される。従って、車両の実移動方向とドライバの移動意志方向である前進方向とが一致していることから(S130)、補助ブレーキモードとして同方向モードでの動作が行われる。
同方向モードでの減少勾配を決める減圧量αが、アクセル開度および車両速度に応じてマップAより求められた係数により算出され(S140)、この減圧値αにより目標の制動力を減少させて(S150)、この目標制動力となるよう制動力付与手段である油圧ブレーキ装置2にて制動力を発生させる。
この動作(S130、S140、S150)は、初期減圧が終了しているので、目標制動力が0になるまで繰り返し実行される。その結果、t=ta2〜ta3の期間で、制動力が減少勾配αにより減少していき、そのときのアクセル操作量(この場合、アクセル開度)の増加に応じて、車速が増大する。
t>ta3の期間では、制動力が0になるため、アクセル操作量に応じた車速となっている。
図8は、車両VLが水平路で停止保持されている状態から、ドライバの移動意志方向が前進に設定されているときの発進補助制御の様子を示したものである。
図7の例と同様に、アクセル操作の開始後、アクセル操作量がオフセット値を超えた時点t=tb1で初期減圧モードに移行し(S122)、t=tb2までの間に、初期減圧量γによる初期減圧(S124)、および車輪速度センサの回転パルス検出による実移動方向の検出(S125)の結果、補助ブレーキモードとして同方向モード(S140)が選択される。
t=tb2で同方向モードに移行すると、減圧量αで制動力が減少する(S150)。なお、上記図7の下り坂での前進の場合と比較して、制動力の減少は急激であり、短時間に制動力が0になる。これは、下り坂の場合、重力によって車両が急発進することを防止するためにW/C圧が緩やかに減少させられるためであり、重力による急発進が想定されない水平路の場合にはW/C圧を速やかに減少させられるようになっている。
制動力が0になったら、それ以降は上記図7の例と同様、アクセル操作量に応じた車速となる。
次に、車両VLが上り坂路で停止保持されている状態から、ドライバの移動意志方向が前進に設定されているときの発進補助制御の動作状況について、図9の時間線図に基づき説明する。
上述の図7の例と同様に、アクセル操作の開始後、アクセル操作量がオフセット値を超えた時点t=tc1で初期減圧モードに移行し(S122)、t=tc2までの間に、初期減圧量γによる初期減圧(S124)、および車輪速度センサ5の回転パルス検出による実移動方向の検出(S125)が行われる。
ただし、図9の例では、上り坂路であるため制動力の初期減圧により、アクセル開度が十分でないため車両が後退方向、すなわち、実移動方向(後退方向)が移動意志方向(前進方向)と逆の方向へ動き出す状況を示している。
したがって、補助ブレーキモードにおいて方向の比較の結果(S130)、第1の逆方向モードへ移行し、車速と予め設定されている目標速度Vlimitとが比較される(S180)。逆方向の車速がVlimitより小さい段階(tc2<t<tc3)では、制動力の増圧量βは0であるので(S182)、制動力は変化しない。
逆方向の車速がさらに増加してVlimitを超えると(t=tc3)、増圧量βが速度偏差量に応じた値として数式2により算出され(S184)、この増圧量βを増加勾配として目標制動力を増加設定し(S186)、この目標制動力となるよう制動力が各車輪に付与される。
車速が目標速度を超えている期間(tc3<t<tc4)、上記動作(S180、S184、S186)が繰り返され、制動力の増加により逆方向の車速が増加→減少→目標速度以下へと変化する。
t=tc4で車速が目標速度まで減少したら、制動力の増加量β=0すなわち、制動力を変化させず一定値が保たれる。この間、図9の例では、一定のアクセル開度および制動力に対して、上り坂で一定速度(目標速度)で後退している。
t=tc5でドライバによりアクセルが更に踏み込まれると、制動力に対して駆動トルクが上回り、車両の後退移動速度が減少し、さらにt=tc6で後退から前進方向へと変わる。この時点で、同方向モード(S130、S140、S150)に移行し、減圧量αに応じた制動力の減少が始まり、最終的に制動力が0となって車両がアクセル操作量に応じた車速で、移動意志方向である前進方向へ走行する。
以上、ドライバの発進したい方向である移動意志方向はすべて前進方向の場合で説明したが、後退方向であっても、移動意志方向と車両の実移動方向との関係に基づき上記と同様の動作を行う。
本実施形態によれば、所定の制動力が付与されて停止保持状態にあるとき(停止保持モード)、ドライバがシフト位置の設定により発進させたいと意図する移動意志方向に対して、発進意志の表れであるアクセル操作に応じて車輪に駆動力を作用させた状態で、制動力を徐々に減少させる(初期減圧モード)。これにより、車両を移動させて、その移動の方向により車両の実移動方向を検出している(車両移動方向検出モード)。
このときの車両の実移動方向は、ドライバの発進したいと意図する方向そのものになっているとは限らず、車両が停止状態で受ける路面勾配に応じた重力とドライバの発進意志の大きさに相当するアクセル開度(さらには、停止保持時の制動力の大きさ)に応じて異なる。
この初期減圧モードにおける車両の実移動方向とドライバの移動意志方向とが同じ向きであれば、付与されている制動力をアクセル操作量と車速(または車速の加速度)とに応じた減圧量で徐々に減少して、最終的に0に解除する。これにより(補助ブレーキモード)、車両をアクセル操作量としてのアクセル開度に応じた速度で発進させることができる。
また、坂道での発進時のように、初期減圧モードにおける車両の実移動方向がドライバの意志方向と異なる場合、すなわち逆向きの場合には、逆向きの車速が所定の目標速度を超えたら両者の速度偏差に応じた増圧量で制動力を徐々に増加させて目標速度以下になるよう制御している。また、逆向きの車速が目標速度以下の場合は、制動力を一定に保持する制御を行うことで、ドライバの移動意志方向とは逆向きに移動する際の車速を減らし、さらには停止から同方向へ移動させる(第1の逆方向モード)ことができる。そして、最終的には同方向モードでの動作により、車両をドライバの移動意志方向に発進させることができる。
したがって、車両の向きおよび坂路の勾配方向と、ドライバの意図する移動意志方向および発進意志の大きさとしてのアクセル開度とに応じて、制動力を制御することにより、坂路勾配の大きさを検出または推定することなく、ドライバの意図に応じた車両の発進動作を円滑に行うことができる。
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態の自動ブレーキ装置について説明する。本第2実施形態では、上述した図1の全体構成および図2の油圧ブレーキ装置2の構成と、図3のメインフローチャートの処理内容は、前記第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。
本第2実施形態は、上記第1実施形態とは、ブレーキ制御ECU1が実行する発進補助制御フローが異なるため、以下では、異なる部分について説明する。
図10および図11は、本第2実施形態の発進補助制御の制御フローを示している。なお、上記第1実施形態の制御フロー(図4および図5)と同じ処理を行うステップには同一符号を付して説明を省略する。
本第2実施形態の制御フロー(図10および図11)は上記第1実施形態の制御フローと同様に、一定の制御周期(5〜10ms)で繰り返し処理される。
本第2実施形態では、次の点で第1実施形態と異なっている。
ステップ127において上記第1実施形態と同様の初期減圧モードが完了する時点で、初期減圧により徐々に制動力を減少している過程で車両VLが実移動方向へ移動し始めたときの制動力を、移動開始制動力として記憶しておく。
そして、ステップ130において逆方向モードが選択されると、ステップ170の処理が実行される。ここでいう逆方向モードが本発明における第2の逆方向モードに相当するものである。
ステップ170では、目標制動力が設定される。具体的には、目標制動力として、ステップ127で記憶された移動開始制動力に所定値δを加えた制動力が設定され、その後、ステップ190へ移行する。
ここでの所定値δは、移動開始制動力をわずかに上回る値に目標制動力を設定するものであり、ステップ170の目標制動力の設定により、逆方向に移動していた車両は停止することになる。
また、このステップ170で、初期減圧完了フラグをOFFとしておくことにより、車両停止後、再度、発進のためアクセル操作がなされたとき初期減圧モードに移行することができる。
このように、本第2実施形態における自動ブレーキ装置においては、同方向モードでは、第1実施形態と同様の動作を行い、第2の逆方向モードでは、逆方向への車速の大きさに拘わらず初期減圧モードでの車両が移動を開始するときの制動力を少し上回る制動力を付与するという動作を行う。つまり、第2の逆方向モードでは、第1実施形態のように車速と目標速度との偏差を判定することなく、車両を停止させられる制動力を発生させる。これにより、第2の逆方向モードの際に、確実に車両を停止させることができる。
なお、この車両停止状態が継続中にアクセル開度が増加すると、繰り返し処理によるステップ130でドライバの移動意志方向と車両の実移動方向とが同方向であると判定されるため、同方向モードでの動作がはじまり、減圧量αにより制動力が減少させられる。しかしながら、アクセル開度が増加していない、もしくは増加が十分でない場合には、再び第2の逆方向モードが選択され、制動力が移動開始制動力+δに設定されて車両が停止状態とされる。このような動作が繰り返し返されることになる。
ただし、通常、このような場合には、ドライバはアクセルの踏み増しを行って、移動意志方向(本例の場合は前進方向)へ車両を発進させようとする。このため、ステップ130で同方向モードに移行し、減圧量αによる制動力の減少(S140、S150)がなされ、アクセル操作量に応じた車速で車両をドライバの移動意志方向と同方向、すなわち前進方向へ発進させることができる。
また、上記第2の逆方向モードにおける停止→同方向モードでの制動力減少→逆方向への移動→第2の逆方向モードにおける制動力増加(移動開始制動力+δ)→停止→・・・の繰り返し時に、ドライバがアクセル操作の解除(さらには、ブレーキペダルの踏込み)を行うと、図10のフローにおいてステップ100およびS110の処理により、停止時の制動力が保持されて車両を停止状態に保つことができる。
本第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様、初期減圧モードにおいて、車両の実移動方向を検出し、この実移動方向とドライバの意図する方向である移動意志方向とが同じ向きであれば、付与されている制動力をアクセル操作量と車速(または車速の加速度)とに応じた減圧量で徐々に減少して、最終的に0に解除することにより(補助ブレーキモード)、車両はアクセル操作量としてのアクセル開度に応じた速度で発進することができる。
また、本第2実施形態では、実移動方向が移動意志方向と異なる場合には、移動中の制動力を、初期減圧モードにおける車両の移動開始時点の制動力である移動開始制動力まで増加させる(第2の逆方向モード)ことにより、逆方向への車両移動を確実に停止させ、その後、同方向モードでの動作を行って、車両を発進させることができる。
したがって、本第2実施形態にあっても、車両の向きおよび坂路の勾配方向と、ドライバの意図する移動方向および発進意志の大きさとしてのアクセル開度とに応じて、制動力を制御することにより、どのような停止状態においても、坂路勾配の大きさを検出または推定することなく、ドライバの意図に応じた車両の発進動作を、円滑に行うことができる。
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態の自動ブレーキ装置について説明する。本第3実施形態では、上述した図1の全体構成および図2の油圧ブレーキ装置2の構成と、図3のメインフローチャートの処理内容は、前記第1および第2実施形態と同じであるため、説明を省略する。
本第3実施形態は、上記第1および第2実施形態とは、ブレーキ制御ECU1が実行する発進補助制御フローが異なるため、以下では、異なる部分について説明する。
図10および図12は、本第3実施形態の発進補助制御の制御フローを示している。すなわち、本実施形態は、第2実施形態で示した図11の処理に代えて図12の処理を実行するものである。なお、上記第1および第2実施形態の制御フロー(図4、図5、図10および図11)と同じ処理を行うステップには同一符号を付して説明を省略する。
本第3実施形態の制御フロー(図10および図12)は上記各実施形態の制御フローと同様に、一定の制御周期(5〜10ms)で繰り返し処理される。
初期減圧モードが終了するステップ127までは、図10に示す上記第2実施形態と同じ処理を行う。
本第3実施形態では、次の点で第1および第2実施形態と異なっている。
ステップ130の判定の結果、逆方向モードへ移行すると、ステップ160で、逆方向モードに移行し始めてからの逆方向への移動量(トータル逆方向移動量)が予め設定された閾値Mを超えたか否かを判定する。
そして、トータル逆方向移動量がM以下の場合には、上記第1実施形態における第1の逆方向モードと同様、ステップ180〜S186の処理により車速と目標速度との偏差量に基づき増圧量βを算出し、この増圧量βに応じて制動力を増加させて、あるいは制動力を一定に保って、逆方向への移動を抑制する。
一方、トータル逆方向移動量がMを超えた場合には、ステップ170により、上記第2実施形態における第2の逆方向モードと同様、初期減圧モードにおける移動開始制動力+δを目標制動力として制動力を増加させ(S170)、逆方向への移動を阻止し、車両を停止させる。
以上のように、本第3実施形態では、上記第1および第2実施形態と同様、初期減圧モードで車両の実移動方向を検出し、この実移動方向がドライバの移動したい方向である移動意志方向としての変速機のシフト位置と同じである場合には同方向モードが選択され、逆向きである場合には逆方向モードが選択される。
また、同方向モードでは、第1および第2実施形態と同様、車速およびアクセル開度に応じた減圧量αで定まる減少勾配で制動力を減少させることにより、アクセル開度に応じた速度で、同方向、すなわちドライバが発進したいと意図する方向へ車両を発進させることができる。
一方、逆方向モードでは、本第3実施形態においては、逆方向への移動量が所定値Mを超えるまでは、第1の逆方向モードが選択され、逆方向の車速と目標速度との偏差量に応じた増加勾配βに基づき制動力を増加して車両を減速させ、移動量がMを超えたら第2の逆方向モードが選択され、移動開始制動力を上回る制動力で車両を確実に停止させることができる。したがって、逆方向への移動に対して、その移動量に応じて制動力を制御することにより、ドライバに過度な違和感や不安感を与えることなく円滑な制動を行うことができる。
このように、本第3実施形態においても、上記第1および第2実施形態と同様、車両の向きおよび坂路の勾配方向と、ドライバの意図する移動方向および発進意志の大きさとしてのアクセル開度とに応じて、制動力を制御することにより、どのような停止状態においても、坂路勾配の大きさを検出または推定することなく、ドライバの意図に応じた車両の発進動作を、円滑に行うことができる。
(第4実施形態)
次に本発明の第4実施形態の自動ブレーキ装置について説明する。本第4実施形態では、上述した図1の全体構成および図2の油圧ブレーキ装置2の構成と、図3のメインフローチャートの処理内容は、前記第1ないし第3実施形態と同じであるため、説明を省略する。
本第4実施形態は、上記第1ないし第3実施形態とは、ブレーキ制御ECU1が実行する発進補助制御フローが異なるため、以下では、異なる部分について説明する。
図13および図14は、本第4実施形態の発進補助制御の制御フローを示している。なお、上記第1ないし第3実施形態の制御フロー(図4、図5、図10、図11および図12)と同じ処理を行うステップには同一符号を付して説明を省略する。
本第4実施形態の制御フロー(図13および図14)は上記各実施形態の制御フローと同様に、一定の制御周期(5〜10ms)で繰り返し処理される。
初期減圧モードが終了するステップ127までは、図10に示す上記第2および第3実施形態と同じ処理を行う。
本第4実施形態では、次の点で第1ないし第3実施形態と異なっている。
初期減圧モードの終了時、ステップ127での移動開始制動力を記憶すると共に、ステップ128で、同方向移動経験フラグをクリアしてOFFとしておく。
ステップ130での実移動方向と移動意志方向との比較の結果、同方向モードに移行すると、ステップ132で、まず、同方向移動経験フラグをONとした上で、上記第1〜第3実施形態と同様、ステップ140〜S150で所定の減少勾配を決める減圧量αを演算し、この減圧量αによる目標制動力の設定を行う。
一方。ステップ130での判定の結果、逆方向モードへ移行すると、ステップ162で、同方向移動の経験があるか否かを同方向移動経験フラグの状態に基づき判定し、同方向移動の経験がない場合は、上述したステップ180〜S186の第1の逆方向モードでの動作が実行され、同方向移動の経験がある場合は、上述したステップ170の第2の逆方向モードでの動作が実行される。
この、ステップ162の判定は、同方向移動経験の有無に基づくため、経験回数が0であれば第1の逆方向モード、経験回数が1であれば第2の逆方向モードがそれぞれ選択される。
なお、ステップ162の判定を、同方向経験回数がn回未満のとき第1の逆方向モード、n回以上のとき第2の逆方向モードをそれぞれ選択するようにしてもよい。この場合には、ステップ132で、同方向移動経験フラグを累積回数値として設定しておく。
以上のような第4実施形態の発進補助制御における、各条件下での車両の移動例について、典型的な場合を例に説明をする。
(a)上り坂で前進したい(移動意志方向=前進)場合、または、下り坂で後退したい(移動意志方向=後退)場合:
アクセルが踏まれていない間は、ステップ100→S110で、制動力は保持され、車両の停止状態は維持される。アクセルが踏み込まれると、初期減圧モードへ移行する(S100→S122)。
初期減圧モードにおいてアクセル開度不足のため移動意志方向とは逆方向へ移動した場合、初期減圧モード終了時点(S128)で同方向移動経験フラグOFFのため、ステップ180でその逆方向の車速が目標速度Vlimitより大きければ、制動力が増加され(S184)、やがては逆方向車速が目標速度より小さくなり、ステップ182で制動力が維持される。
その後、アクセルの踏み増し操作により逆方向車速が徐々に小さくなり、やがては同方向への移動となり、同方向モードへ移行する(同方向移動経験フラグがONとなる)。同方向モードで制動力は(減圧量αで)徐々に低下し、やがて完全に解除(制動力=0)され、それに伴い同方向車速が更に増加する。
なお、この発進補助制御の終了は、制動力が完全に解除された時点ではなく、車速が所定値(例えば、15km/h、またはアクセル開度に比例した車速)を超えた時点としている。
また、同方向モードが終了していないときに、ドライバによりアクセルが緩められると、車両の実移動方向は、同方向→停止→逆方向となるため、ステップ130→ステップ162で、同方向移動経験フラグがONであるためステップ170へ進み、目標制動力を移動開始制動力+δとされて、逆方向に移動していた車両は停止され、同時に初期減圧完了フラグがOFFにされて、次のアクセル操作時の初期減圧処理に備える。
(b)上り坂で後退したい(移動意志方向=後退)場合、または、下り坂で前進したい(移動意志方向=前進)場合:
停止状態からアクセルが踏込まれると、アクセル開度に拘わらず初期減圧モードで車両は確実に移動意志方向へ移動する。したがって、同方向モードに移行し、制動力は完全に解除され発進補助制御は終了するとともに、車両はアクセル開度と坂路勾配に応じた速度で移動意志方向へ移動する。
なお、同方向モードでの動作中、すなわち制動力が完全に解除されていないうちにアクセルが離されると、その時点での制動力が維持される(S100→S110)が、エンジン出力はアイドル回転時の最小値であるため、制動力およびエンジン出力と路面勾配との関係に応じて停止または同方向への移動が継続される。
以上のように、本第4実施形態においては、上記第1ないし第3実施形態と同様、初期減圧モードで車両の実移動方向を検出し、この実移動方向がドライバの移動したい方向である移動意志方向としての変速機のシフト位置と同じである場合には同方向モードが選択され、逆向きである場合には逆方向モードが選択される。
また、同方向モードでは、第1ないし第3実施形態と同様、車速およびアクセル開度に応じた減圧量αで定まる減少勾配で制動力を減少させることにより、アクセル開度に応じた速度で、同方向、すなわちドライバが発進したいと意図する方向へ車両を発進させることができる。
一方、逆方向モードでは、本第4実施形態においては、逆方向への移動時に、それまでの同方向への移動の経験がない時、又は経験回数がn回(n=1)未満のときには、第1の逆方向モードが選択され、逆方向の車速と目標速度との偏差量に応じた増加勾配βに基づき制動力を増加して車両を減速させ、同方向への移動経験がある場合、又は経験がn回以上の場合には第2の逆方向モードが選択され、移動開始制動力を上回る制動力で車両を確実に停止させることができる。したがって、同方向移動→逆方向移動→同方向移動を繰り返している状況で確実に車両を停止させることができ、ドライバに過度な違和感や不安感を与えることなく円滑な制動を行うことができる。
このように、本第4実施形態においても、上記第1および第2実施形態と同様、車両の向きおよび坂路の勾配方向と、ドライバの意図する移動方向および発進意志の大きさとしてのアクセル開度とに応じて、制動力を制御することにより、どのような停止状態においても、坂路勾配の大きさを検出または推定することなく、ドライバの意図に応じた車両の発進動作を、円滑に行うことができる。
(第5実施形態)
次に本発明の第5実施形態の自動ブレーキ装置について説明する。本第5実施形態では、上述した図1の全体構成および図2の油圧ブレーキ装置2の構成と、図3のメインフローチャートの処理内容は、前記第1ないし第4実施形態と同じであるため、説明を省略する。
本第5実施形態は、上記第1ないし第4実施形態とは、ブレーキ制御ECU1が実行する発進補助制御フローが異なるため、以下では、異なる部分について説明する。
図15および図5は、本第5実施形態の発進補助制御の制御フローを示している。なお、上記第1ないし第4実施形態の制御フロー(図4、図5、図10、図11、図12、図13および図14)と同じ処理を行うステップには同一符号を付して説明を省略する。
本第5実施形態の制御フロー(図15および図5)は上記各実施形態の制御フローと同様に、一定の制御周期(5〜10ms)で繰り返し処理される。
本第5実施形態では、車両の移動方向を検出する移動方向検出モードにおいて、上記第1ないし第4実施形態のような初期減圧によって車両移動方向を検出するのではなく、付与された制動力および車両停止路面の勾配とアクセル開度とに応じて生ずる車速そのもので車両の移動方向を検出するものである。
なお、本第5実施形態において、車速Vs0は、車輪速度センサ5からの信号に基づきブレーキ制御ECU1により演算され、車両の前進方向では正の値、後退方向では負の値として示される。
まずステップ100でアクセル操作がありと判定されると、次にステップ200で、車速Vs0が正の値か否かを判定し、YESであれば、ステップ210で車両の実移動方向を前進方向とし、NOであれば、ステップ220へ移行する。
ステップ220で、車速Vs0が負の値か否かを判定し、YESであれば、ステップ260で車両の実移動方向を後退方向とする。NOであれば、ステップ230へ移行する。この場合、車速Vso=0となる。
このように、本第5実施形態における上記処理は、ドライバの発進意志としてのアクセル操作により移動する車両の車輪速度信号に基づき実移動方向を検出する移動方向検出手段に相当する。
ステップ230では、車速Vs0=0であるので、まず坂路抵抗RGを数式3に基づき算出する。
(数3)
RG=W×gx0
ここで、Wは予め設定されている車両VLの重量である。また、gx0は前後加速度センサ9により検出された車両前後方向の加速度であり、車両後方の向きを正とする。
すなわち、坂路上での停車時において、前後加速度センサ9の検出値は、車両に作用する重力加速度の坂路傾斜方向成分に相当し、上り坂停止時にはgx0>0、平坦路での停止時にはgx0=0、下り坂停止時にはgx0<0をそれぞれ示す。したがって、数式3により、停止車両に作用する坂路傾斜方向の力、すなわち坂路抵抗を算出できる。
次に、ステップ240で、ドライバが行ったアクセル操作により発生するエンジン出力に基づき、駆動輪に作用する駆動トルクTDを数式4により算出する。
(数4)
TD=Te×tAT×rAT×rf
ここで、Teはエンジントルク、tATは自動変速機(AT)のトルク比、rATはATのギア比、rfはデフギア比である。なお、ATギア比rATは、変速機のシフト位置が前進方向(D、2、Lレンジ)にあるときはrAT>0、シフト位置が停止状態(P、Nレンジ)にあるときはrAT=0、シフト位置が後退方向(Rレンジ)にあるときはrAT<0としている。
したがって、車両が前進方向に駆動力を発生しているときの駆動トルクTDは正の値(TD>0)を示し、後退方向への駆動トルクTDは負の値(TD<0)を示す。
ステップ250で、上記算出された坂路抵抗RGとが駆動トルクTDとを比較し、RG>TDならばステップ260で実移動方向を後退方向とし、RG≦TDならばステップ210で実移動方向を前進方向とする。
このステップ250における判定条件は、次の各状況に対応している。
(i)上り坂路での停止時に、シフト位置が後退(Rレンジ)で駆動トルクが発生しているときは、車両は常に後退しようとする。一方、RG、TDそれぞれの大きさに拘わらず常にRG>0、TD<0、すなわち、RG>0>TDの関係となる。従って、実移動方向を後退方向とみなすことができる。
(ii)下り坂路での停止時に、シフト位置が前進(D、2、Lレンジ)で駆動トルクが発生しているときは、車両は常に前進しようとする。一方、RG、TDそれぞれの大きさに拘わらず常にRG<0、TD>0、すなわち、RG<0<TDの関係となる。従って、実移動方向を前進方向とみなすことができる。
(iii)上り坂路での停止時に、シフト位置が前進方向で駆動トルクが発生しているときは、RG>0、TD>0であるので、RG、TD両者の値の大きさに応じて、車両は、RG>TD(>0)ならば後退しようとし、(0≦)<RG<TDならば前進しようとする。
(iv)下り坂路での停止時に、シフト位置が後退(Rレンジ)で駆動トルクが発生しているときは、RG<0、TD<0であるので、両者の値の大きさに応じて、車両は、(0>)RG>TDすなわち|RG|<|TD|ならば後退しようとし、RG<TD(<0)、すなわち|RG|>|TD|ならば前進しようとする。
以上、ステップ200〜260の処理(移動方向検出モード)は、車両が実際に移動中、すなわち車速Vs0が正または負の値であるときはそれぞれ、車両の実移動方向を前進方向または後退方向と判定するとともに、車両が停止中、すなわち車速Vs0が0であるときは、坂路抵抗RGと駆動トルクTDとの正負符号も含めた大小比較により、前進方向または後退方向とみなすものである。
ステップ210またはステップ260の後、次に、上記各実施形態と同様、ステップ130で、判定された車両の実移動方向とシフト位置で表される移動意志方向とが比較され、比較の結果YESならば、ステップ140以降の同方向モードへ移行し、NOならば、ステップ180以降の第1の逆方向モードへ移行する。これらの処理内容は、上述の第1実施形態と同じであるので説明を省略する。
上述のように、本第5実施形態は、移動方向検出モードにおいて、実際の車両移動によって検出される車速の大きさにより前進しているかまたは後退しているか、すなわち車両の実移動方向を決定することができる。
さらに、車速が0であっても、車輪に駆動トルクに基づき、坂路抵抗RGと駆動トルクTDとをそれぞれ演算、比較することにより車両が前進しようとするか、後退しようとするかを判定して、実移動方向とすることができる。発進補助制御モードでの動作中には、常にこの移動方向検出モードでの動作が行われ、車両の実移動方向が検出、判定される。
そして、このように判定された車両の実移動方向と移動意志方向との関係に基づき、上記第1実施形態と同様、両者が同方向であれば制動力を減少勾配αで徐々に減少して、車両をアクセル操作に応じた車速で発進させる(同方向モード)ことができる。
また、両者が逆方向であれば、車速が目標速度より大きいときには所定の増加勾配βで制動力を徐々に増加して車速を目標速度へ一致させ、車速が目標速度より小さいときには制動力を変化させずに、一定値に保持することにより車両を減速→停止状態に至らせる(第1の逆方向モード)。
第1の逆方向モードで車両が停止状態になると、移動方向検出モードでの動作により再び実移動方向を判定し、この結果に基づき同方向モードまたは第1の逆方向モードが選択される。そして、ドライバのアクセル操作量(アクセル開度)と、自動ブレーキ装置が付与する制動力および坂路抵抗に応じた車速で移動する。
したがって、本第5実施形態にあっても、車両の向きおよび坂路の勾配方向と、ドライバの意図する移動方向および発進意志の大きさとしてのアクセル開度とに応じて、制動力を制御することにより、どのような停止状態においても、ドライバの意図に応じた車両の発進動作を、円滑に行うことができる。
(第6実施形態)
次に本発明の第6実施形態の自動ブレーキ装置について説明する。本第6実施形態では、上述した図1の全体構成および図2の油圧ブレーキ装置2の構成と、図3のメインフローチャートの処理内容は、前記第1ないし第5実施形態と同じであるため、説明を省略する。
上記第1ないし第5実施形態では、車両の発進前の停止保持状態を第1ブレーキ手段である油圧ブレーキ装置2による制動力によって行われていた例を示したが、本第6実施形態では、停止保持モードにおいて、発進直前に第2ブレーキ手段としての電動PKB3による停止保持から、第1ブレーキ手段としての油圧ブレーキ装置2による停止保持へと切替えるものである。
したがって、メインフロー(図3)において、ステップ13のブレーキホルダ制御の開始時には、車両VLは電動PKB3による第2制動力によって停止保持される。
図16および図4、図5は、本第6実施形態のブレーキ制御ECU1が実行する発進補助制御の制御フローを示している。なお、上記第1ないし第5実施形態の制御フロー(図4、図5、図10、図11、図12、図13および図14)と同じ処理を行うステップには同一符号を付して説明を省略する。
本第6実施形態の制御フロー(図16、図4および図5)は上記各実施形態の制御フローと同様に、一定の制御周期(5〜10ms)で繰り返し処理される。
まず、ステップ90で、ドライバにより変速機のシフト位置の切替え操作が行われたか否かが判定される。このシフト位置の切替え操作はシフト位置センサ8により検出される。
シフト位置の切替わりがなし、詳しくは車輪に駆動力が作用しないシフト位置(PまたはNレンジ)のまま変更がない場合は、ステップ110(図4)へ移行し、現在の制動力が保持される。
シフト位置の切替わりなし、詳しくは車輪に駆動力が作用するシフト位置(D、2、LまたはR)のまま変更がない場合は、ステップ97へ移行する。
さらに、シフト位置の切替わりあり、詳しくは車輪に駆動力が作用しないシフト位置から駆動力が作用するシフト位置への変更があった場合は、ステップ91へ移行する。
なお、本ステップ90における判定条件を、ブレーキペダル操作に応じて点灯するブレーキランプ(図示せず)のスイッチ信号が、ON(点灯状態)のままであれば未だ発進意志がないためステップ110へ、OFF(消灯状態)のままであれば発進意志に基づくアクセル操作がなされているものとしてステップ97へ、さらに、ONからOFFへ変化した場合には発進意志が出された直後であるものとしてステップ91へ移行するようにしてもよい。
また、本ステップ90における判定条件として、例えば、運転席近傍のインストルメントパネル等に配置された停止保持解除準備スイッチ(図示せず)がドライバにより操作されたかにより判定する、すなわち、停止保持解除準備スイッチがOFFのままであればステップ110へ、ONのままであればステップ97へ、さらに、OFFからONへ変化した場合にはステップ91へ移行するようにしてもよい。
したがって、シフト位置センサ8、あるいは、ブレーキランプのスイッチもしくは停止保持解除準備スイッチは本発明の発進準備意志検出手段に相当する。
ステップ91では、電動PKB3の制動力を減少させ、油圧ブレーキ装置2の制動力を増圧させるための設定を行う。すなわち、電動PKBのモータを100%のデューティー比(最大回転数)で逆転させると共に、増圧量Zを所定値Zinitとする。
次にステップ92で、上記設定された増圧量Zを加えた値を油圧ブレーキ装置2の制動力(第1制動力)の目標値として設定する。
ステップ93では、油圧センサ19a、19b、29a、29bにより検出された油圧ブレーキ装置2の発生している制動力が、電動PKB3が当初発生していた制動力に相当する値Yを超えたか否かを判定する。その結果YESならば増圧は不要になるので、ステップ94で目標制動力Zを0とし、NOならばステップ95へ進む。
ステップ95では、電動PKB3が完全に解除されたか否かを判定する。具体的には、電動PKB3のモータがロック位置(最大制動力相当)から所定量X戻った位置を制動力解除位置とし、モータの移動量が所定量Xを超えた場合に制動力が解除されたものとしている。そして、電動PKB3が解除されていれば、ステップ96へ進み電動PKB3の停止設定、すなわちデューティー比0%の正転、を行い、本制御フローの処理を継続する。
ステップ95で、電動PKB3が完全に解除されていない場合は、そのまま処理を継続する。
一方、ステップ97では、電動PKB3から油圧ブレーキ装置2へ制動力が完全に切替えられたか否かを判定する。すなわち、油圧ブレーキ装置2による第1制動力が電動PKB3のもとの制動力(第2制動力)相当の制動力に達し、かつ、電動PKB3の発生する第2制動力が完全に解除された場合を、YES、すなわち切替え完了したものとして、図4のステップ100へ移行する。
また、ステップ97での判定の結果、NO、すなわち切替えが未完了である場合は、ステップ92へ進み、油圧ブレーキ装置2の増圧設定を行う。なお、このとき、電動PKB3の制動力解除は、ステップ91にて一度設定されれば、電動PKB3の制動力が完全に解除されるまで、継続してモータの逆回転動作が行われる。
以上、第2ブレーキ手段である電動PKB3から第1ブレーキ手段である油圧ブレーキ装置2への制動力の切替え状況を、図17のタイムチャートを用いて説明する。
時間軸上、「切替え開始」時点で、シフト位置が変更されると、それまで発生していた電動PKB3による第2制動力は、ステップ91での設定により、所定の時間勾配で減少する。
一方、油圧ブレーキ装置2による第1制動力は、「切替え開始」時点より、ステップ92での増圧量Zに応じて、当初、すなわち切替え開始時点直前の電動PKB3の制動力相当Yに達するまで増加する。
油圧ブレーキ装置2による第1制動力が所定値Yに達した後も、電動PKB3による第2制動力はその機構上、比較的緩やかに減少し、最終的に第2制動力が0になった時点で「切替え完了」とされる。
切替え完了になった後に、ステップ100(図4)以降の処理が開始され、発進補助制御が行われる。
なお、発進補助制御において、実移動方向が移動意志方向と異なるときは、上記第1実施形態と同様に、第1の逆方向モードでの動作により、車速が目標速度Vlimitを超える場合には、切替えられた第1ブレーキ手段である油圧ブレーキ装置による第1制動力を増加させて車速を目標速度以下に低下させる制御が行われる。
以上のように、本第6実施形態では、発進前の車両停止保持状態を、エネルギー消費の少ない第2ブレーキ手段である電動PKB3により行いながら、ドライバの発進準備意志としてのシフト位置の切替え操作に応じて、電動PKB3から第1ブレーキ手段2へ制動力を切替えて停止保持状態を維持する。
その後、発進補助制御が行われ、ドライバの発進意志としてのアクセル操作に応じて、初期減圧による車両の実移動方向の検出、ドライバの意図を表す移動意志方向と実移動方向との比較ののち、同方向モードまたは第1の逆方向モードでの動作により、車両を円滑に発進させる、または逆方向への移動を緩やかに減少させ最終的に移動意志方向へ発進させることが可能になる。この発進補助制御中は、油圧ブレーキ装置2により制動力が調整されるので、迅速な制動力制御が可能になり、ドライバの意図どおりの発進動作を円滑に行うことができる。
(第7実施形態)
次に本発明の第7実施形態の自動ブレーキ装置について説明する。本第7実施形態では、上述した図1の全体構成および図2の油圧ブレーキ装置2の構成と、図3のメインフローチャートの処理内容は、前記第1ないし第6実施形態と同じであるため、説明を省略する。
上記第1ないし第5実施形態では、車両の発進前の停止保持状態を第1ブレーキ手段である油圧ブレーキ装置2による制動力によって行われていた例を示したが、本第7実施形態では、停止保持モードにおける停止保持状態を第2ブレーキ手段としての電動PKB3による第2制動力によって行い、発進操作があったら直ちに第2制動力を減少させて車両の移動を開始させる点に特徴がある。
したがって、メインフロー(図3)において、ステップ13のブレーキホルダ制御の開始時には、車両は電動PKB3による第2制動力によって停止保持される。
図18および図5は、本第7実施形態のブレーキ制御ECU1が実行する発進補助制御の制御フローを示している。なお、上記第1ないし第6実施形態の制御フロー(図4、図10、図11、図12、図13、図14、図15および図16)と同じ処理を行うステップには同一符号を付して説明を省略する。
本第7実施形態の制御フロー(図18、図5)は上記各実施形態の制御フローと同様に、一定の制御周期(5〜10ms)で繰り返し処理される。
ステップ100で、ドライバによる発進意志としてのアクセル操作があるか否かを判定する。NOの場合はステップ110へ移行し、現在の制動力(第1制動力または第2制動力)を変更せず、維持させる。また、YESの場合は、ステップ101へ進む。
ステップ101では、電動PKB3の制動力解除設定を行う。具体的には、電動PKB3のモータの作動信号(第2作動信号)であるデューティー比DUTYを、アクセル開度および電動PKB解除の指令継続時間に比例した値として、数式5により決定する。
(数5)
DUTY=B1×アクセル開度+B2×指令継続時間
ここで、B1、B2は比例定数である。
次に、ステップ102で、電動PKB3のモータのロック位置(最大制動力)からのモータの回転量が所定値Lとなったら、電動PKB3による第2制動力は完全に解除されたと判定する。すなわち、判定結果がYESならば、ステップ103へ進む。判定結果がNOならば、処理を継続する。
ステップ103では、解除判定の結果、電動PKB3の解除動作を、DUTY=0、および、モータの回転方向を正転側に設定することにより完了させる。
このステップ103での処理により、電動PKB3の第2制動力は完全に解除される。
なお、アクセル操作があった直後の時点では、このステップ103の処理により、油圧ブレーキ装置2は第1制動力を発生していないので、車輪には制動力が生じておらず、車両は、アクセル操作量(アクセル開度)と坂路抵抗との関係に応じた速度で移動を開始することになる。
このステップ101、S102、S103の処理は、移動方向検出モードに相当する。
そして、ステップ130以降の発進補助制御の処理は、上記第1実施形態と同様に、同方向モードまたは第1の逆方向モードでの動作により、車両は円滑に移動意志方向へ発進できる。
なお、同方向モードでの制動力の減圧処理は、当初の油圧ブレーキ装置2の制動力が0であるときは、制動力を発生させる程度にW/C圧が発生していない状態であるため、実質的に制動力=0のまま行われない。
また、第1の逆方向モードでの制動力の増加処理は、当初の油圧ブレーキ装置の制動力が0である場合は、0から増圧量βで徐々に増圧されて、車両の逆方向への移動が抑制される。
このように、本第7実施形態では、停止保持モードで第2ブレーキ手段としての電動PKB3による第2制動力によって、車両を停止保持している状態で、ドライバが移動意志方向への発進を意図してアクセル操作を行うと、電動PKB3の第2制動力は直ちに解除設定され、この第2制動力の解除過程でアクセル開度に応じて移動する方向が、実移動方向として検出される。
そして、検出された実移動方向とシフト位置より検出される移動意志方向との関係に応じて、上記第1実施形態と同様、同方向モードおよび第1の逆方向モードでの動作により、車両を移動意志方向へ発進させることができる。
したがって、本第7実施形態においても、車両の向きおよび坂路の勾配方向と、ドライバの意図する移動方向および発進意志の大きさとしてのアクセル開度とに応じて、制動力を制御することにより、坂路勾配の大きさを検出または推定することなく、ドライバの意図に応じた車両の発進動作を、円滑に行うことができる。
(他の実施形態)
(1)上記各実施形態において、制動力付与手段としての第1ブレーキ手段は、図2に示す油圧ブレーキ装置2を用いる例を示したが、これ以外にも、通常のブレーキペダルの踏力によってマスタシリンダを加圧するともに、他の油圧機構によってペダル踏力とは独立にマスタシリンダを加圧できるブレーキ装置、すなわちブレーキペダル操作がないときにもマスタシリンダの加圧が可能な、いわゆるハイドロ・ブースタを用いてもよい。
さらに、第1ブレーキ手段として、油圧によらず、各輪毎に電動モータを備え、この電動モータの駆動により直接ブレーキキャリパをブレーキディスクへ押し付けて制動力を発生させる電動ブレーキ装置を用いてもよい。
これらいずれの場合も、作動信号に基づいて第1の制動力を発生させ、この作動信号が解除されると制動力も解除(制動力=0)される第1ブレーキ手段として機能し、制動力を高応答で発生させることができる。
なお、これら第1ブレーキ手段は、熱エネルギーの観点から第1ブレーキ手段に備えられる電磁弁等の連続動作を避ける必要があり、その意味で長時間の制動力発生にはふさわしくない。一方、第2ブレーキ手段としての電動PKB3は、モータをロック位置まで駆動して制動力を発生させたのち、モータの作動信号を解除してモータを停止させても発生した制動力は維持されるので、応答性は低いが、長時間使用しても熱エネルギーの問題は発生しないし、エネルギー効率も高いという利点がある。
(2)上記第1ないし第4実施形態、および第6実施形態において、初期減圧モードでの初期減圧量γを、数式1、3のアクセル開度および初期減圧処理の経過時間によって決める例を示したが、数式6に示すように、アクセル操作量として、アクセル操作速度およびアクセル操作加速度も考慮して決めてもよい。
(数6)
γ=K×停止保持制動力×(A1×アクセル開度+A2×経過時間+A3×アクセル操作速度+A4×アクセル操作加速度)
ここで、停止保持制動力は停止保持モードにおいて車両を停止保持しているときの制動力である。また、KおよびA1〜A4は、いずれも比例定数であり、予め設定されている。
これにより、初期減圧量γを、停止保持制動力が大きいほど、アクセル操作量(アクセル開度、操作速度、操作加速度)が大きいほど、さらには初期減圧の経過時間が長いほど、大きくする。すなわち、制動力を素早く減少させて車両の実移動方向を迅速に検出することができる。
(3)上記第1ないし第5実施形態では、車両の発進前の停止保持状態を第1ブレーキ手段である油圧ブレーキ装置2による第1制動力によって行われる例を示したが、これに限らず、第2ブレーキ手段である電動PKB3による第2制動力で停止保持しても、発進補助制御の開始以降の制御は、上記各実施形態と同様に行うことができる。