#2 レクセル、告白される
「ボク……レクシーのこと、好きなんだ」
夕食後。
ティーカップを置いて、ぽつりと言ったボーイッシュな親友へ、レクセルは怪訝そうな顔を向けた。
「……どうした? 唐突に」
プラチナの髪がさらりと揺れる。青の瞳が細められた。
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、その眼差しに棘はない。
目つきが悪いのは元からである……。
「――――酔った? 紅茶で?」
「違うよ!」
「じゃあ、からかってる? 照れさせドッキリ的な」
「からかってない――――けど……間違ってもない……」
「どっちだよ」
もじもじし始めたハレーの奇行にため息をついて、レクセルはソファにもたれかかる。
横目で見たハレーは、緊張気味に手元を見ていた。
普段の活発な性格とは真逆で、どことなく頬も赤い。
ところで、レクセルは鈍感である。
あぁ、と察した――――これ、嘘告ってやつだな。
私からも告る流れか、なんてぽんと手を叩く。
もちろん違う。
「……はいはい。私もハレーが好きだよ」
「……それって、親友としての『好き』?」
「そりゃそうだろ。ハレーは違うの?」
「ボクは――――違うよ」
ぎゅ、と拳を握りしめて、ハレーはレクセルを真っ直ぐに見つめた。
緑色の瞳が潤んで、きらきらと輝く。
ボーイッシュな親友の、初めて見る乙女な表情に、レクセルは首を傾げて――――。
「――――『違う』……?」
レクセルは鈍感である。
青ざめながら呟いた。
「え、親友って思ってるの、実は私のほうだけなのか……?」
「それも違うよ!?」
あわててツッコむハレー。
ぎゅっと両手でレクセルの手を包んだ。
「ボクだって、レクシーは親友だと思ってるよ!」
「なんだよぉ……じゃあどういう?」
「……うん。親友の、次の関係にもなりたいなって」
「親友の次って――――大親友?」
「……レクシー、それ親友となにが違うの?」
「肩書とか? あれ、あんま違わないか」
「…………」
レクセルは、鈍感である。
ため息をついてから、あからさまに頬を染めて、ハレーはすぅっと息を吸った。
鈍感な親友には、はっきり言わないと伝わらないと、覚悟を決めて――――。
「ボクの好きは、恋愛的な好きだよっ! ボク、レクシーと恋人になりたいの!」
――――一息に言ってのけた。
それは熱と心のこもった、大胆な告白であった。
戦争で互いに両親を亡くし、幼なじみの2人は支え合って生きてきた。
ろくに学校も行かず働いて、食い扶持を稼ぐ毎日だった。
けれど互いの存在があれば、辛さも困難も半分こ。
気付けば10年もの間、2人は共に暮らしてきたのだ。
いつもそばにいて、ぶっきらぼうでも優しくて。
やさぐれた目つきも口調も、なんだか頼りになって。
そんな親友に、ハレーはいつの間にか恋をした。
――――でも、女の子同士だし。
変な目で見られるかもだし、レクシーに迷惑かけられないし。
そう思って、ハレーは好意を隠してきたものの。
女性は下心に敏感な生き物である。
ハレーも、自分の気持ちがレクセルに隠し通せているとは思わなかった。
しかし恋心を自覚してからも、レクセルの距離感は変わらなかった。
バレたら引かれると思っていたハレーにとって、それは舞い上がるほど嬉しかった。
少なくとも嫌がられてはいない、と仮定して、少しだけアピールもしてみた。
軽いスキンシップも、あからさまに好きバレしそうなスキンシップもした。
お風呂では、ええいままよ! と真っ赤になりながら抱きしめてみたりもした。
レクセルは嫌がらなかった。
いつもと同じ呆れたような目つきのまま、ぎゅっとしてくれた。思わず昇天しそうだった。
両想いなのかな、と思った。
こうなったらもう告白するしかない。
それも、先に好きになったボクが言うべきだ。
ボーイッシュなハレーは、見た目通りの男まさりな考えで、冒頭の会話へ至ったのである。
……しかし。
レクセルは、鈍感であった。
この女は。
ハレーの想像を超えた鈍感であった。
「はぁ…………?」
親友の大胆な告白に、レクセルは。
混乱のままに思わず聞き返した。
ちょっと待って、と手を突き出す。
ぱっと離されたもう片方の手で目元を覆った。
「な、なんだ。やっぱりからかってるのか」
「からかってないよ、本気だよ」
「えぇ……」
レクセルは手を下ろして、ハレーに向き合った。
はらはらと、白銀の髪が肩を流れる。
思わず目で追ってしまったハレーは頭をぶるっと振って、ごくりと喉を鳴らした。
レクセルもなぜか、ひく、と喉を鳴らして――――。
「……ハレー、実は男だったりするわけ?」
すすす――――。
「女だよ! ねぇ少しずつ離れていかないで!?」
「ハレーあのさ、女同士じゃ子供は作れないんだよ?」
「ボクそこまで無知じゃない……っていきなりそっちの話!? 破廉恥だよ!」
子供に言い聞かせるような声音に、ハレーは呆れたように返しかけ――――思わず赤面して叫ぶ。
けれど、レクセルは動揺することなく。
単純に理解できないと首を振るのだった。
「……じゃあなんで女の私と恋人になりたいの」
「えと、レクシーに惚れちゃったから……」
「ふうん……まぁ確かに、私もハレーのこと、ちょっといいなって思ったことある」
「えっ!?」
「でもそれは近くに男子がいないからだよ。身近なところで手を打とうとするから親友をそういう目で見ちゃうわけ。要するに恋愛に憧れているんだよ」
はは、と自嘲気味に言ってのけるレクセル。
ハレーは俯いて、そうじゃないよ……と呟いた。
「私なんかにうつつを抜かしてちゃ駄目だよ」
「ちがうよ……」
「いやいや。ハレーは可愛いし、恋がしたいなら街で逆ナンすれば――――」
「ちがうっていってる!」
がたん! とテーブルが揺れた。
震える拳を握りしめて、ハレーは立ち上がる。
緑の瞳が涙をたたえて、レクセルを睨みつけた。
「……え、なに」
「ボクは誰彼かまわず恋がしたいんじゃない!」
「でも女の私で妥協するのはよくないからさ、」
「こんの……わからずやっ! 妥協とかじゃない! 男の子なんて興味ない! ボクはレクシーと恋がしたいの!」
なにもわかってない、と言葉を叩きつけるハレー。
対してレクセルは……本当になにもわかっていなかった。
「落ち着いて、ハレー。その感情は深夜テンションだよ。聞かなかったことにするから――――」
「…………は?」
「生物は子孫を残すために番になるものだし。女同士なんておかしいって」
「おかしい……?」
ハレーの表情が凍りついた。
さすがにレクセルも気が付いて、んんっと咳払いをする。ちょっと言い過ぎた。
……でも、ハレーがこうなってる原因は私だ。
このまま放っておくと、ハレーが異性に恋できなくなるかもしれない。
旦那さんもいないまま、死ぬまでひとりぼっち。
そんな寂しい人生を、大切な親友に送らせるわけには。
「……ねぇレクシー。ボクは本気でレクシーが好きなんだよ。この気持ちもおかしいっていうの?」
「……親友としてなら、おかしくない。私も嬉しい」
でもさ。
「女の私に恋をするのは、違うよ」
……ちく、と小さく心が痛んだ。
それはハレーが、見たこともないほど悲しい顔をしていたからか。
唇を噛んで、ハレーは震えていた。
レクセルは思わず手を伸ばし――――。
パシン、とはたかれた。
「ハレー……?」
「いくらレクシーにだって。この想いがおかしいなんて言われたくない」
ゆらり、ハレーが背を向ける。
「ボクの気持ちを勝手に否定しないでよ。告白を断るならいいけれど、間違ってるなんて言わないでよ。ボクの心が読めるわけでもないくせに!」
「でも生物として……」
「レクシーは気持ちより常識が大事なんだ。そうだよね、だって女のくせに女心とかまったくわかってないもんね! 信じられない!」
緑の目を真っ赤に腫らし、振り返って。
ハレーは絞り出すように言った。
「…………もうボクに話しかけないで」
「え」
「しばらく顔も見たくない!」
バタン! とドアが閉まり。
鈍感女が1人、リビングに残された。
「女心がわかってないって……交際経験なんてないし……」
自分も女性であることを棚に上げ、レクセルは悩む。
「女の子ナンパすればいいの……?」
違うだろ。
いつもならツッコむはずのハレーは、不貞腐れてベッドの中である。
読んでいただき、ありがとうございます!
次は19:00更新!
面白いと思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします。
励みになりますので、★評価や感想もお待ちしております!