氷河
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/06/18 19:23 UTC 版)
氷河(ひょうが、英: glacier)は、地球表面にあって重力などの力によって継続的に流動する氷体。狭義には山岳地域の氷河を指す山岳氷河のことであり、広義には氷帽や氷床を含めた概念である[1](後述)。
概要
モレーン(黒い線)が氷上にみられる
氷河は様々な学者によって定義が試みられてきた。国際的に参照されることの多い定義としては、Flint(1971年)の「積雪が自然に堆積して形成した大きな雪氷体で、大部分が陸上に存在し、現在流動しているかあるいは過去に流動したことのあるもの」(『Glacial and Quaternary Geology』)という定義である[1]。
国際雪氷学会では氷河の定義について直接決議したことはない[1]。一方、国際氷河学会では気候変動に関する国際枠組み条約の活動規則(Operational Rule)の「氷河とは停滞あるいは流動している多年性の氷体」との定義と、アルゼンチン国内氷河目録作成方針が示した「表面積0.01㎢以下の雪氷体は氷河国際目録に入れない」という基準に賛同を表明している[1]。
地球の気温と氷河は密接な関係があり、海進、海退の原因となる。現在陸上に見られる氷河は、南極氷床、グリーンランド氷床を最大級として、総計1,633万 km2に及び、陸地面積の約11%を覆う。
近年は人為的な地球温暖化の影響でその面積や質量の減少が激しく、問題となっている[2]。
氷河の分類
氷河には大きな氷体が斜面や谷を時間をかけて流下する山岳氷河、緩い陸地の氷体で流れがみられる氷床や氷帽がある[1]。氷河の基本的分類は雪氷学上は温度条件によって行われる[1]。しかし、気候条件が同じ地域では地形上の分類が必要となる[1]。
国際雪氷委員会
国際雪氷委員会(ICSI)の氷河の分類表(UNESCO-IASH)では氷河を大陸氷床、氷原、氷帽、溢流氷河、谷氷河、山腹氷河、小氷河・雪原、棚氷、岩石氷河の9種類に分類している[1]。
- 基本分類
- 形態による分類
- 末端部形状による分類
- 1.山麓型、2.末端拡張型、3.ローブ型、4.浮遊分離型、5.癒着型に分類[1]。
- 縦断面形状による分類
- 1.平坦、2.懸垂、3.階段状、4.断裂に分類[1]。
- 涵養源による分類
- 末端部活動による分類
- 1.著しい後退、2.やや後退、3.停滞、4.やや前進、5.著しい前進、6.波状変動の可能性、7.明瞭な波状変動、8.繰返し進退に分類[1]。
以上を番号化して表現し(それぞれ分類に当てはまらない場合には0を当て)、急な山腹(基本分類)の小谷(形態)に雪崩で涵養された雪氷体でほぼ停滞している場合には650123となる[1]。
国際分類表等の谷氷河、山腹氷河、小氷河については、区別が必ずしも明確ではないとされる[1]。
カービング氷河
カービング氷河(calving glacier)は、末端が海または湖に流れ込んでいる氷河である。海/湖に到達した氷河では、崩れ落ちるか、あるいは分離して氷山を形成する。この過程を氷山分離(カービング)という。アラスカで最も長いカービング氷河であるハバード氷河は、10kmもの距離に渡って海に面している。ヤクタット湾と氷河湾には、高さ30mもの氷河が崩れ落ちる光景を見ることができるために、観光スポットとして活用されている。このタイプの氷河は、気候変動に加え、海/湖の環境変化に影響を受けるため、ほかのタイプの氷河よりも複雑な変動を示す。
氷河の形成
比較的温度の高い氷河は、融解と凍結を繰り返してざらざらしたネヴェ(névé)と呼ばれる雪を主成分とする。この雪はざらめ雪と呼ばれる。この氷河の氷は、氷と雪の層の下で圧力を受け融解し、フィルンという氷の粒に変化する。フィルンの層は一定の年月を経ると、さらに圧縮されて氷河の氷(glacial ice)となる。また、雪は温度変化のあるところにあると、数時間でそれぞれの表面に凹凸のある結晶に変性し始める(蒸気圧による現象とは異なる)。
世界の氷河
氷床は南極大陸とグリーンランドだけに存在する。
氷原はアイスランド、北極海の島々、ブリティッシュコロンビア州南部の北太平洋山脈からアラスカにかけての地域などに存在している。
日本
かつて日本に氷河は存在しないとされていたが、1999年に立山内蔵助カール内に永久凍土が発見された事が報告され[3]、数年間の調査を経て流動と[4]維持継続が確認された[5]事で、2012年4月に日本雪氷学会が剱岳の三ノ窓雪渓と小窓雪渓、立山の御前沢雪渓に氷河が現存している可能性を報告した[6]。その後、2012年6月にそれぞれ「三ノ窓氷河」「小窓氷河」「御前沢氷河」を呼称とすることで同意した[7]。これにより、カムチャツカ半島とされていた極東の氷河の南限は日本の富山県・立山連峰となった。
2018年1月には、長野県と富山県にまたがる北アルプス(飛騨山脈)の一部である鹿島槍ヶ岳のカクネ里雪渓(長野県大町市)が氷河であることが、現地調査結果をまとめた論文が複数の研究者の審査の後に学会誌『地理学評論』(2018年1月号)[8]に掲載されたことで確定。カクネ里雪渓が日本では4例目となる氷河となった[9]。この論文をまとめた調査団は、富山県上市町に位置する剱岳の池ノ谷(いけのたん)雪渓と、立山町にある立山内蔵助(くらのすけ)雪渓も氷河と判断しており[10]、2019年に氷河と確認された唐松岳の唐松沢雪渓(長野県白馬村)も合わせると、2019年時点で日本国内の氷河は最大7カ所となる[11]。
2025年1月6日に、白馬村に位置する杓子沢雪渓、不帰沢雪渓、白馬沢雪渓(白馬大雪渓ではない)の調査結果によると、杓子沢雪渓と不帰沢雪渓が氷河であることが確認され、日本国内の氷河数は9カ所に増えた[12]。
脚注
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 吉田 勝「日本の氷河と世界の氷河―飛騨山脈カクネ里氷河見学会から(前編)」『地学教育と科学運動』第83巻、地学団体研究会、2019年、56-62頁。
- ↑ 榎本浩之 (2020年1月). “「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書」を読み解く”. 国立環境研究所. 2025年6月27日閲覧。
- ↑ 福井幸太郎、岩田修二 ,「立山,内蔵助カールでの永久凍土の発見」『雪氷』 62巻 1号 2000年1月 p.23-28, 日本雪氷学会, doi:10.5331/seppyo.62.23, NAID 10004644350。
- ↑ 福井幸太郎,「立山,内蔵助カールのプロテーラスランパートでの永久凍土調査と地表面移動量の観測」『地学雑誌』 2002年 111巻 4号 p.564-573, 東京地学協会, doi:10.5026/jgeography.111.4_564, NAID 10009483171。
- ↑ 福井幸太郎, 「立山での山岳永久凍土の形成維持機構」『雪氷』 2004年 66巻 2号 p.187-195, 日本雪氷学会, doi:10.5331/seppyo.66.187, NAID 10012918958。
- ↑ 福井幸太郎・飯田肇「飛騨山脈, 立山・剱山域の3つの多年性雪渓の氷厚と流動 : 日本に現存する氷河の可能性について」『雪氷』第74巻第3号、2012年、213-222頁、 NAID 10030743175、2020年4月23日閲覧。。
- ↑ 白岩孝行、内藤望、飯田肇、福井幸太郎: 氷河情報センター公開シンポジウム報告「日本の多年性雪渓と氷河─これまでの研究と今後の展望─」 『雪氷』 Vol.74 (2012) No.5 p.353-357, NAID 10031060255。
- ↑ 福井幸太郎、飯田肇、小坂共栄「飛騨山脈で新たに見出された現存氷河とその特性」『地理学評論』第91巻第1号、2018年、43-61頁、 doi:10.4157/grj.91.43。
- ↑ 北ア・カクネ里雪渓は「氷河」県内初確認 国内4例目 信毎web 2018年1月17日。
- ↑ 北アの氷河、6カ所に=富山・長野で確認-信大など時事通信(2018年1月18日)2018年1月19日閲覧。
- ↑ 「国内7カ所目の氷河確認 北アルプス、唐松沢雪渓」『産経新聞』2019年10月4日。オリジナルの2019年10月6日時点におけるアーカイブ。2022年9月5日閲覧。
- ↑ “白馬連山の氷河調査(杓子沢・不帰沢・白馬沢)|白馬村”. www.vill.hakuba.lg.jp. 2026年3月24日閲覧。
参考文献
- 「小野有五:日本における1960−2010年の氷河地形研究 - 一研究者の回顧と展望-」『地学雑誌』 Vol.121 (2012) No.2 p.187-214, 東京地学協会, doi:10.5026/jgeography.121.187
関連項目
外部リンク
- 氷河情報センター
- Glacier - Encyclopedia of Earth「氷河」の項目。
- 山岳氷河のページへのリンク