北海道・石狩湾を見渡す岬に立つ鰊(にしん)御殿の宿とはどんなところなのか? しかも絶景の温泉があると知って、小樽の「料亭湯宿 銀鱗(ぎんりん)荘」に泊まってみたいと憧れていました。
10年ほど前に初めて滞在し、それから数回訪れていますが、ずっと変わらない落ち着けるたたずまい、宿の方々の笑顔、湯のぬくもりに癒やされて、いつも「また来ます」と宿を後にします。
2023年には国の登録有形文化財となり、丁寧に磨かれた本館も一層輝いているように感じられます。
【動画】シャチホコののれんがゆれる宿の玄関(無音です)
■連載「楽しいひとり温泉」は、国内外の温泉をめぐり、温泉・自然・食で美しくなる旅を研究する筆者が、テーマごとにひとり温泉にぴったりなお宿を紹介します。
鰊御殿の面影残す登録有形文化財の宿
かつてニシン漁が盛んだったころ、余市町の大網元・猪俣安之丞(いのまた やすのじょう)氏が明治時代に建てた鰊御殿を移築して料亭旅館となった銀鱗荘は、当時の繁栄を表すような風格ある建築です。
石狩湾や小樽の街や港を見渡す平磯岬の高台に建ち、大屋根の中央には立派なシャチホコが守る天守閣のような望楼があって今も登ることができます。かつてはここから海を見渡し、ニシンが産卵のために大群で押し寄せて海が乳白色に染まるという群来(くき)を追ったそうで、その高揚感が残っているような気持ちになります。
到着すると、番頭さんが駆け寄ってきて荷物を運んでくれました。入(い)り母屋(もや)造りの玄関を入ると太い梁(はり)の吹き抜け空間に圧倒されます。大広間には大網元の時代を感じさせる神棚や囲炉裏があり、にぎわいが聞こえてくるようです。
レトロな内湯と絶景露天風呂
数寄屋建築の中に、北海道や海を感じさせる意匠や小樽らしい色ガラスで描いたモチーフが随所にあってロマンチックな雰囲気。
大浴場もタイや貝などのステンドグラスがすてき。さらに、内湯の真ん中に鎮座する古代ローマ風の湯口に目が釘付けです。雄羊の口から温泉が流れ、下の柱にはメドゥーサの顔。活力や富を象徴する雄羊と、魔よけや守護をつかさどるメドゥーサのパワーが注がれる温泉なんて、精神と肉体に大きな力をもらえそうです。
岬の突端ならではの開放的な露天風呂は、石狩湾の潮風を浴びて入るのが爽快。泉質は、ナトリウム-塩化物泉、成分総計16.99g/kgある塩の濃い高張性の温泉です。体の芯までしっかりと温まって発汗、塩の成分が塩被膜となって肌の上をベールのようにおおい、ぽかぽかと温まりが持続します。
天空から石狩湾を見渡すような客室
今回は鰊御殿の世界にひたりたくて、本館2階の和室「花月」へ。今回は2人旅でしたが、ひとり宿泊ができる部屋があるほか、この部屋でひとり宿泊ができる日もあります。
岬の高台にあるので、まるで天空に浮かんでいるような感覚です。広縁の窓からは小樽の街と港の風景、ベッド側の窓からは石狩湾の海岸線が見えました。お茶菓子は余市にあるニトリ観光果樹園のアップルパイ、さっそくコーヒーをいれておやつタイムです。
窓を開けて景色を眺めていたら、列車の汽笛が聞こえてきました。海岸線のカーブに沿って走るJR函館線の列車が近づくカタンコトンという音まで間近に聞こえてきてビックリ。宿が立つ岬の下を通って小樽の街へと入っていきます。

















