「性的不調和」は離婚申し立て事由として少なくない
「性交渉がないことで調査を依頼する人は多くいます。その背景に浮気があることもあれば、DVなど別の問題が明らかになることもあります」
こう語るのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さん。彼女は、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。
「司法統計」によると、令和6年度に家庭裁判所に申し立てのあった離婚事由において、申し立ての理由は以下のような順位になっている。
夫からの申し立ての1万5396件のうち、1位は「性格が合わない(9233)」、2位が「異性関係(1820)」、3位が「浪費する(1764)」、4位が「性的不調和(1622)、5位が「暴力をふるう(1441)」。
では妻からの申し立てはどうか。内訳をみると、4万3033件のうち、1位は同じく「性格が合わない(1万6503)」、2位が「暴力をふるう(7690)」、3位が「異性関係(5743)」、4位が「浪費する(3662)」、5位が「性的不調和(2862)」と続く。「性的不調和」は夫婦関係の中でも重要なことだということがわかる。
その「性的不調和」の内訳はそれぞれだろうが、セックスレスもあるだろうし、同意なき性交や、暴力的な性交もあるだろう。身体の健康にもかかわってくるだけに
山村さんが心のケアをどのようにしていったのかも含め、さまざまな事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく連載「探偵はカウンセラー」は、個人が特定されないように配慮をしながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
29回でご紹介する依頼者は38歳の専業主婦・明子さん(仮名)。結婚10年の夫は12歳年上の50歳で歯科医だ。浮気をして離婚したがっているという。その背景には、夫の暴力や明子さんの生き別れになった父の孤独死ゆえに、明子さんが心を病み、2年間性行為ができなかったことにあった。ハラスメントと心の病と性行為とが絡んだ問題についてクリアにするために、まずは現実を調査する必要がある。
家庭内レイプと父の孤独死
明子さんと夫の出会いを振り返ります。ふたりは10年前に金持ち男性と美女が出会うパーティで知り合い結婚。夫は子供を、明子さんは生活の安定を求めていたので利害が一致します。美貌の明子さんを妻にすることは、夫にとってメリットがあったのでしょう。月20万円の生活費を渡すことで合意します。ただ、暴力的な行動や発言が気になり、明子さんは密かに避妊リングを入れます。夫は妊娠しないことを受け入れながらも、生活はしていました。
ところが2年前、明子さんが生き別れた父が58歳で孤独死をします。明子さんの両親は、明子さんが2歳のころに離婚しています。ただ、父の記憶はうっすらと残っており「辛いことがあると父が助けてくれる」と心の頼りにしていました。その存在がなくなったことと、夫に家庭内レイプをされている現実が重なり、明子さんはうつのような状態になり、セルフネグレクト生活に入ってしまったのです。
しかし体調がすぐれない明子さんに、夫は「黙って股だけ開け」という。乱暴もされるので、寄せ付けないように、風呂にも入らず、ゴミをバリケードのようにしていました。夫はしばらく放置していましたが、あまりの汚さに、明子さんの母に連絡。母は業者を呼んで片付けて、明子さんは実家で静養します。
夫から生活費が振り込まれていないことに気づいた明子さんは、連絡するとい「別の人と一緒になりたい」と言ったそうなのです。明子さんの心のケアも重要で、精神科医への李朝を勧め、並行して調査をすることになりました。
歯科医として信頼を集める夫
調査は明子さんから「必ず遅くなる」という金曜日の夜に行うことにしました。夫が経営するクリニックの前で夕方から待機していると、19時に夫が出てきました。夫は背が低く、どっぷりとした体格です。顔が大きく口ひげを生やしており、威厳がある温厚な紳士という印象。着ている服は帽子から靴まで全て同じハイブランド。さりげなくロゴが入っているので目立ちません。
夫が豊かな生活をしているのは、歯科医師として腕がよく、スタッフにも後輩にも優しくて寛大なため、クリニックが繁盛しているからでしょう。夫は臨床の経験を積んでいるので、学会などにも積極的に登壇・出席し、研究を怠らないとか。そもそも裕福な家に生まれ育っていることも、豊かさの源泉になっているはずです。
夫の経営するクリニックのHPを見ると、社会貢献活動もしっかりと行なっています。ボランティアの講演会、小学校の検診医などの仕事も積極的に受け、地域でも信頼されているとのこと。この仕事をしていると、外では立派な人物と言われている人が、家族にひどい仕打ちをしていることを何度も見ています。外のストレスを、明子さんにぶつけていたのではないかと感じました。