定められた時間に練習や試合があり、持ち物などさまざま準備が必要なスポーツは、小中学生であっても自律が求められる。遅刻や忘れ物した選手を試合に出すかは悩ましいところだ。
1月21日には巨人軍の人気選手が二度遅刻をし、阿部慎之助監督は「三軍スタート」を示唆したが結局は一軍スタートにしたとスポーツ報知が報じた。監督からすれば、自己管理ができた状態でプロ入りして欲しいのが本音だろうし、プロだからこそ自己管理をきちんとする必要があると考えているのだろう。
とはいえ自律を養わず大人になるアスリートは少なくない。何が問題なのか、異色の女子サッカークラブを例に、ジャーナリストの島沢優子さんが伝えてくれた。
全国大会をかけた関東予選大会で起きたこと
娘がお世話になった女子サッカーのジュニアユースクラブの20周年記念パーティーが昨年12月、都内で開かれた。オランダで働きながらコーチ修行中の娘は参加できなかったが、彼女の同級生や先輩たち、コーチにママ友ら懐かしい人たちとの再会を楽しんだ。
初めて全国大会出場を果たしたОGのスピーチが終わると、ひとりのお父さんが私に話しかけてきた。
「信じられますか? 全国大会出場を賭けた関東予選ですよ! うちの監督、すげえなって思いました」
そう言って誇らしげに胸を張った。
こころに沁みるすごくいい話だった。
全国大会出場が決まる関東予選の試合に、ひとりの選手がサブユニフォームを忘れた。その日はメインユニを着用する予定だったのが急遽対戦相手の都合でサブになった。他の選手は持ってきていたが、先発のひとりが持参していなかった。すぐに保護者に連絡したため試合開始にその選手のサブユニフォームは届いた。
とはいえ、このチームにはひとつの不文律があった。選手が試合に遅刻したり、何か忘れ物をしたときは、当日の試合は先発から外れてもらう。エースだろうが、キャプテンだろうが同じだ。
監督やチームの決断は…
「勝利への追求と同等に、人としての成長を追求する」
このようなチームのイデオロギー(理念)である。単なる個人への罰やペナルティではない。
このことは、選手に対する「試合以前にやるべきがなされていなかった。それではチームの代表としてピッチには立てないでしょ?」という無言の問いかけになる。そのようにして、サッカーでいうオフ・ザ・ピッチ(ピッチ外)における「自立と自律」の重要性を選手にたたき込んでいくのだ。
頬を紅潮させて感動していたお父さんによると、監督は試合前に問いかけたという。
「(忘れ物をした選手を先発させるか否か)自分たちで話し合ってください」
選手たちはウオーミングアップを終えると円陣を作って話し始めた。結論はすぐに出た。クラブ設立10年の年に、イデオロギーは浸透していた。彼女たちは忘れ物をした選手に「今日は準備が足りなかった。あとは私たちに任せてほしい」と言い残してピッチに出ていった選手たちは格上相手に勝利を挙げ、クラブ初の全国大会出場を決めた。
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ジャーナリスト
島沢 優子
ジャーナリスト。筑波大卒。著書に『不登校から人生を拓く 4000組の親子に寄り添った相談員・池添素の「信じ抜く力」』 (講談社+α新書)『叱らない時代の指導術 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践』(NHK出版新書)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『部活があぶない』(講談社現代新書)など。子育てやスポーツ指導に関する講演やセミナーも多い。