発覚せず、再犯率も高い小児性犯罪
コロナ禍で始まった夏休み。子どもたちだけで行動する機会も増えるため、子どもを狙った性犯罪には十分警戒が必要だ。
警察庁の平成30年の統計によると、13 歳未満の子どもが被害にあった強制性交等、公然わいせつ・強制わいせつ等の認知件数は年間995件発生。実に1日に2件以上起きている計算だが、子どもの性被害は、統計上に表れない暗数が想像以上に多いと言われている。強制性交等罪とは、口腔、肛門、膣へ陰茎を挿入する/挿入させられる被害のことを指す。ズボンを脱がせて写真を撮ること、下着に手を入れること、すれ違いざまに触ること、露出することは、公然わいせつ、強制わいせつ、児童ポルノ法違反に分類され、電車内で起きたそれらは条例違反などに問われる。
子どもたちを性被害から守るために何ができるのか──。
実際に起きた事件から、そして小児性犯罪に詳しい専門家、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さん、臨床心理士・公認心理師の齋藤梓さんへの取材を通して、有効な対策を考えてみたい。
小学生低学年のおぞましい記憶
神奈川県に住むA子さん(40代)は、小学生低学年だったある日、遊びに出かけた友人宅で性被害に遭った。
「叔父と名乗る人に、居間のこたつの中で膝の上に乗るよう命じられました。嫌でしたが、子ども好きな人なのかな、と思って言われた通りにしました。すると、下着の中に手を入れられ、性器を触ってきたのです。逃げ出したいのに、恐怖で体が固まってしまい動けませんでした。
今起きていることは何? 混乱して答えが出ない中で、同級生が心配そうに私の顔を見つめていたことは覚えています。平気なふりをしていないと友人が困るような気がして、助けてと言えませんでした。こたつの中で、触られ続けました。途方もなく長い時間に思えました」
その後、拘束を解かれ、呆然とした状態のまま帰宅したAさんは、母親や祖母に起きたことを告げた。しかし「あとは任せなさい」と言われた。その日以来、家族の誰もそのことに触れようとしなかったという。
あの日、帰ろうとしたA子さんを友人は追いかけてきてこういった。
「ごめんね、私もお姉ちゃんも、同じことをされているの……」
「彼女が謝ってきたことで、やっぱり悪い人だったんだと納得できました。でも犯罪だと理解したのは、大人になってから。友人も苦しかったはず。あの男が『友達を連れてこい』と友人に命じたのではないか。私のほかにも、犠牲になった同級生がいたかもしれない。振り返るととても苦しくて、悔しいです」と、A子さんは明かしてくれた。
このように子どものごく身近な人間関係の中で、性犯罪が起こるケースもある。法務省の調査では、過去に二回以上児童への性犯罪歴のある者の再犯率は、84.6%と極めて高いこともわかっている。
最近では、大手仲介サイトに登録し、保育士の資格も持っていたシッターの男性2人が、子どもの下半身を触るなどのわいせつ行為をした疑いで相次いで警視庁に逮捕された。男たちは、過去にも子どもへの性犯罪を繰り返していたと伝えられた。コロナ禍で、親がリモートワークに従事する中、壁一枚隔てた距離で性犯罪が行われたことに、世の中は騒然となった。
「大人に認められたい気持ち」を利用
こうしている間も、子どもが狙われている。
どうしたら防げるのか。
「小児性犯罪者には、彼ら独特の行動特性や認知の歪みがあると認識しましょう。子どもを守るには、加害者の見ている景色を想像しながら、対策を考えるべきです。予備知識があるだけでも対処行動が取りやすくなります」
そう語るのは、大船榎本クリニック精神保健福祉部長で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんだ。斉藤さんは、これまでにクリニックをはじめ刑務所や拘置所、警察署で150人以上の小児性犯罪者の治療に携わってきた。著書に『「小児性愛」という病 ―それは愛ではない 』(ブックマン社)がある。
「大人と子どもには、身体的、精神的、経済的に圧倒的な力の差があります。子どもは自分が何をされているかわからなかったり、抵抗できないようにコントロールされていたりして、被害を訴え出られないケースも多い。言い替えれば、加害者がそう巧妙に仕向けているのです。警戒心が薄い男の子に興味を示す性犯罪者もいます。男の子だからといって大丈夫とは決して言えません」
斉藤さんによれば、加害者からの声かけがよく起きているのは、路上、公園、大型ショッピングモール(トイレ)など。ただし、人が大勢いる場所で堂々と行為に及ぶ加害者は少ない。
「彼らは子どもの行動パターンをよく観察しています。公園の帰り道(友達と別れて一人になるタイミング)、公衆トイレ、集合住宅の階段のかげも狙われやすい場所。大型ショッピングモールのような人が大勢いるところでも、特にトイレでは子どもを一人にしないことです」
声かけのパターンも巧妙化している。
「スマホのアプリやゲームを利用した誘い方も増えています。コロナ禍で、子どもは保護者からゲームをする時間を制限されていることも多い。そこで、子どものゲームをやりたい気持ち、熱中しやすい性質を利用するのです。
加害者は公園などでスマホやゲーム機で遊びながら機会を待ちます。興味を示してきた子に『ゲームやらない?』 『貸してあげようか?』などと誘う。そして、ゲームをしている途中でたまたま画面が消えたりしたら、壊れたと嘘をついて、子どもに罪悪感を抱かせるのです。ここで加害者側がキレると、子どもは混乱して正常な判断ができなくなります。そこで『お母さんにいわれたくなかったらズボンを脱いで下半身の写真を撮らせて、触らせて』と懇願するように絶妙なタイミングで迫る。加害者の常套手段です」
そのほか、物をなくした、怪我をした、困っているからいますぐ助けてほしいとSOSを出すパターンもある。緊急事態と言って、子どもが親に連絡する隙を与えないような状況に持ち込むのだ。
近年は、SNSや交流サイトを通じて子どもを誘い出すパターンも増えている。子どもの信頼を得ながら徐々に関係性を深めていくことを『グルーミング』という。巧妙に近づいて写真を撮らせ、それをネタに脅迫し、更なる犯行を重ねる場合もある。
「誘い出され、子どもが簡単についていってしまう背景には、大人に認められたいという承認欲求があります。言い方を変えれば、自分の親には認められず、家に居場所がない子どもがいちばん誘い出しやすい。一緒にゲームをしてくれたり話を聞いてくれたりする大人はいい人、優しい人に映ってしまうのです」
「されたらいけない」を知らない子が狙われる
こうした実態を知れば知るほど、どう対処すべきか悩む保護者も多いだろう。
「こう考えましょう。犯罪に遭いやすいシチュエーションをできるだけ避けることはもちろんですが、加害者にとって都合がいいのは、何をされたかわからなくなり被害を訴え出ない子どもです。よって有効な対策は、子ども自身が何をされたかがわかり、それを言語化できる環境づくりや関係性づくりをすること。家庭内でのコミュニケーションやルール設定がカギになります」と斉藤さんはアドバイスする。
具体的には
●帰宅時間を決めた上で遊びにいかせる
●遊びに行っている間も、子どもとこまめに連絡を取る(スマホを持たせて)
●日ごろからプライベートゾーンについて話し合いをしておくこと
●スマホのフィルタリングは必ず設定し、有害な情報を見たらすぐに報告する
●なんでも話せる関係づくりをしておくこと
などが挙げられる。
「水着で隠れるようなところを、『プライベートゾーン』と言います。それは誰であっても見たり、脱がしたり、触れたりしてはいけない大切な場所だと、親子で話し合い、共有しておきましょう。その上で、してはいけないことをされたら、『それはおかしい』『やめてください』と助けを求めたり声をあげていいのだと伝えておきましょう」
また、「お母さんが交通事故にあったから、一緒に病院へ行こう」と誘うというのも、よくある声かけパターン。このような場合には……
「騙されて連れ去られるのを防ぐため、親との間であらかじめ合言葉を決めておくといいですね。緊急事態の時は『うちのペットの名前わかる?』と聞いてみて、答えられる大人なら信じていいなど、ルールを決めておくのです。警戒していることがわかれば、加害者側がたじろぐ可能性が高くなります。このような対処行動をコーピングといいます。コーピングをいくつも用意しておき、普段から子どもと何度も確認し合うことが大切です。これ自体が密なコミュニケーションをとることにつながります」
信じられない気持ちが子供を傷つけることも
しかし、十分備えていても、被害に遭う可能性はある。その際にはどんな対応をしたらいいのか。
性暴力被害者の心理に詳しい、目白大学心理学部心理カウンセリング学科専任講師の齋藤梓さんは、次のように話す。
「性犯罪が起きた時には、親も衝撃を受けます。まさかそんなと、最初は信じられず子どもの話を否定してしまったり、あるいは子ども以上に泣いてしまったりする。自分が目を離したから・言い聞かせていなかったから(被害に遭った)と自分を責めるなど、動揺がとても大きいのです」
また、子ども自身が、そもそも親に被害を言い出しにくいという。
その理由として、「加害者に脅されている、話すと親は怒ると思っている、そもそも何をされたか理解できていない、なども多いですが、『親に心配や負担をかけたくないために』黙っている子どももたくさんいます。
しかし勇気をもって親に相談した子どもが、親から『あまり人に言ってはダメだよ』と言われて、『これは話してはいけないことなんだ』と思ってしまい、それ以上人に相談できなくなるということも、よく生じます」
親は親で、『友達にも自分の親にも相談できない』と思い、抱え込んで悩んでしまうことも多いという。
齋藤 梓さんは、臨床心理士として、長年公益社団法人被害者支援都民センターにて殺人や性暴力被害等の犯罪被害者、遺族の精神的ケア、およびトラウマ焦点化認知行動療法に取り組んできた。著書に『性暴力被害の実際―被害はどのように起き,どう回復するのか』(金剛出版)がある。
「被害にあった子どもたちは、体的不調や精神的不調をきたすことが知られています。不眠、食欲不振、特に精神的影響は深刻で、被害直後はもちろん、被害から何年も経った後に影響があらわれる場合もあります。リストカットを始めたり、学習に集中できなくなる子もいて、不登校になったり、進学をあきらめざるを得ない子もいます」
被害後、周囲の反応で子どもを傷つけないために
齋藤さんによれば、そうした心や体への悪影響は、加害者、被害者の性別に関わらず生じるという。
「男性から男の子への性犯罪では、被害の後に『自分は同性愛者なのだろうか?』などセクシュアリティの混乱が見られることもありますし、遊びの延長として周りの大人に被害が軽視されやすい傾向にあります。男児でも、女児でも、心理ケアが必要なことには変わりはありません」
性犯罪は自尊感情がひどく傷つけられる犯罪。そう周囲が理解して対応できない場合、子どもをさらに傷つけてしまうことになる。
「保護者の側にも、動揺や葛藤が生じて『どうしてあんな場所に行ったの』『なぜ言わないの』と言ってしまいがちですが、どうか責めないでほしいです。子どもは十分傷ついて、自分を責めています。信じて話をよく聞くように心がけましょう。あなたの変化に気づいているし、あなたは悪くない。あなたを心配しているし、あなたが何かを話したいときには話してほしいと思っているということを絶えず伝え続けることが大切です」
子どもが性被害を訴えた場合の相談先も知っておくといい。
被害後、速やかに相談機関につながることで、回復が早くなったり、回復までの道のりがより穏やかに過ごせたりすることがあるからだ。
「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(1)や、全国被害者支援ネットワーク加盟の被害者支援センターで、電話相談を受け付けています。どこにどのように相談していいか分からないときに、相談先の紹介をしたり、いま行うべきことを一緒に考えたりします。
警察に向かう場合には、弁護士に同行してもらうと手続き等がよりスムーズになる場合もあります。レイプの場合は、証拠の保全も重要になります。被害直後に、まずはワンストップ支援センターに連絡すると、証拠の保全について相談できます。警察に届け出た場合、(産婦人科や泌尿器科での)検査費用の補償も受けられます」
日本には、性的コミュニケーションが軽く捉えられる傾向があり、それが性犯罪を告発することを妨げている。防衛は必要だけれど、それだけでは子どもを守れないこともある。
「無理やり性的な行為をすることは悪いことだ」という共通認識を、社会全体で持つことが不可欠だ。
少しでも嫌だと思ったら、声をあげていい、恥ずかしいことじゃない。
被害者の気持ちになって、一緒に戦う人が増えてほしいと思う。
卑劣な性犯罪をなくす責任は、私たち一人ひとりにある。
被害直後から、相談や医療、心理的支援、捜査支援、法的支援などの総合的な支援を一か所で提供。
各都道府県のワンストップ支援センター 一覧
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/index.html
2)警視庁性犯罪被害相談電話 全国共通番号 #8103