『枯れた花に涙を』 (C)Gae/LINE Digital Frontier
“人生再生ロマンス”は「勧善懲悪」、令和の現実感覚に合わせて組み替えた“舞台装置”
こうした作品群が支持される背景には、先行きの見えない現代社会を生きる人々の、蓄積された疲労感がある。努力しても報われない。理不尽な出来事に涙する。そうした感情は、時代を問わず多くの人が抱えてきたものだ。しかし現代において顕著なのは、「正解ルート」が信じにくくなったことだ。
こうした時代の変化によって、「不真面目な悪役が罰を受ける話」よりも、「真面目だった人が壊される話」のほうが、現実味を帯びるようになった。その結果、単なる「成功物語」や「成り上がりロマンス」だけでは、もはやリアリティを感じにくい。物語として成立させるためには、その背景に「一度壊れた人が、そこから立ち上がる」という前提が必要になったのではないだろうか。“人生再生ロマンス”とは、悪を成敗し、報われるべき者が報われるという、日本人に根強い「勧善懲悪」嗜好を、令和の現実感覚に合わせて組み替えた“舞台装置”の一つだと言える。
「現実が厳しすぎて、成功幻想は嘘っぽくなった」「ロマンスは“癒やし”ではなく、“一途な愛を受け取ることで心が回復する物語”へと役割を変えた」「再生は、上を目指す話ではなく、壊れた人生を引き受け直す話になった」「そして何より、読者自身が、やり直しのきかない現実の中で“やり直し”を望んでいる」──そうした切実な感情への応答として、“人生再生ロマンス”は、令和という時代の救済装置として機能しているのではないだろうか。
“やり直し”のかたちは一つじゃない ランキング上位作に見る再生のバリエーション
●ランキング1位:『枯れた花に涙を』
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『枯れた花に涙を』 (C)Gae/LINE Digital Frontier
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『枯れた花に涙を』 (C)Gae/LINE Digital Frontier
身勝手な夫の態度には、コメント欄で「ゆるせない!」「お前が働け!」などストレス発散(?)をする読者が多数。だがそこに現れる容姿端麗で樹里に一途な蓮には「メロい」など、皆がデレデレに。健気に、見返りを求めず生きてきた樹里は、本来なら誰よりも報われていいはずの女性だ。しかし、長い不遇のなかで自分を「おばさん」と卑下し、自身の魅力を正しく見られなくなっている樹里は、ある意味で“壊れてしまった”存在として描かれる。だが蓮は、そうした彼女の過去も含めて受け止め、向き合い続ける。
年齢や立場を理由に「もうやり直せない」と思い込んでいた樹里の心が、蓮との関係を通して少しずつほどけていく。その過程で生まれる静かなカタルシスこそが、本作の大きな読みどころだ。周囲からのストレスが強く描かれる分、癒やしがより際立つ一作と言えるだろう。
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●ランキング2位:『よくある令嬢転生だと思ったのに』
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『よくある令嬢転生だと思ったのに』 (C)lemonfrog・DOYOSAY・A-Jin/LINE Digital Frontier (C)MSTORYHUB
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『よくある令嬢転生だと思ったのに』 (C)lemonfrog・DOYOSAY・A-Jin/LINE Digital Frontier (C)MSTORYHUB
Web小説では描かれなかった裏設定や、人物なども登場し、ヒロインはそれでも、自身の破滅する未来を回避するために、生まれ持った素直さで、破滅フラグをへし折っていく。そんな彼女の望みは、現世で報われなかった分、伯爵の子息に嫁いだ身として、優雅な生活を送ること。お約束通りの展開かと想いきや、主人公の知らなかった派閥抗争が裏で展開されていき、それらがじわりじわりと、牙を向きながらヒロインへとにじり寄っていく…その見せ方が見事だ。
百合子が転生したエディット嬢は周囲から“悪女”的に誤解されているため、その誤解を解いていくさまも楽しいのだが、それを邪魔するように背後で動くさまざまな陰謀で、百合子の素直さが浮き彫りになるとともに、テンプレなのに展開が読めないという構造がなんとも憎い。読者コメントにも「何周もしている」といった声が相当数上がるほどに伏線も多く、転生ファンタジーものの「非現実感に浸れる」という楽しみ以外に、サスペンスとしても秀逸な作品だ。
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●ランキング10位『再婚承認を要求します』
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『再婚承認を要求します』 (C)SUMPUL・HereLee・Alphatart/LINE Digital Frontier (C)MSTORYHUB
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『再婚承認を要求します』 (C)SUMPUL・HereLee・Alphatart/LINE Digital Frontier (C)MSTORYHUB
皇帝とナビエは政略結婚ながら、幼なじみとして気心の知れた関係にあり、周囲からもお似合いの夫婦と見られていた。穏やかな日々が続いていたなか、突如現れたのがラスタだ。一見すると無邪気で素直な少女だが、その振る舞いには計算された“あざとさ”が感じられる。
コメント欄には、ラスタの言動や彼女に肩入れする皇帝の対応に戸惑いや違和感を覚える声が相次ぎ、その対比として、理性的に立ち振る舞い続けるナビエへの共感が次第に集まっていく。こうした感情の流れは、のちの“ざまあ”展開を際立たせるための巧みな構成であり、物語が進むにつれて、ナビエの評価は高まっていく。
そして、ナビエとハインリとのなれそめがなんともロマンティックなことにも注目だ。それは鳥を使った手紙での文通。遊び人で有名なハインリの思わぬ古典的で一途なアプローチのギャップ、さらには、ラスタのあざとさの裏を見抜く頭の回転の速さも相まり、読者は否応なくこの二人の恋の行方を見守らざるを得ない。だが賢く気高いナビエは、なかなかなびかず、その辺りのやり取りでも魅せてくれる逸品だ。同作品は、韓国ドラマとして実写化され、2026年にDisney+で独占配信予定でもある。
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そこでは、華やかな成功や劇的な逆転よりも、「壊れてしまっても、人の価値は失われない」という感覚が静かに、しかし確かに共有される。やり直しのきかない現実を生きる読者にとって、この感覚こそが強い共感を呼び、“人生再生ロマンス”というジャンルが、今の時代に深く根を下ろしている理由なのだろう。
(文/衣輪晋一)
1位『枯れた花に涙を』(Gae/LINEマンガ)
2位『よくある令嬢転生だと思ったのに』(原作:lemonfrog 脚色:DOYOSAY 絵:A-Jin (C)MSTORYHUB/LINEマンガ)
3位『入学傭兵』(原作:YC 作画:rakhyun/LINEマンガ)
4位『俺だけレベルアップな件』(漫画:DUBU(REDICE STUDIO) 原作:Chugong 脚色:h-goon (C)DUBU(REDICE STUDIO), Chugong, h-goon 2018/D&C MEDIA)
5位『ナノ魔神』(画:GGBG 脚色:Great H 原作:HANJUNG WOLYA (C)RIVERSE/LINEマンガ)
6位『神血の救世主〜0.00000001%を引き当て最強へ〜』(原作:江藤俊司 線画:疾狼 背景:3rd Ie 着色・制作:Studio No.9/Studio No.9)
7位『アカデミーの天才剣士』(文・絵:C.H 原作:SeoGwando (C)BLUEPIC/LINEマンガ)
8位『俺だけレベルMAXなビギナー』(脚色:WAN.Z(redice studio) 原作:Maslow 作画:swingbat (C)RIVERSE/LINEマンガ)
9位『問題な王子様』(原作:Solche 漫画:CACTUS (C)SEOUL MEDIA COMICS/LINEマンガ)
10位『再婚承認を要求します』(Alphatart, SUMPUL, HereLee (C)MSTORYHUB/LINEマンガ)
11位『コードネーム:バッドロー』(ストーリー:金正賢 作画:Lim lina/LINEマンガ)
12位『転生したらバーバリアンになった』(作画:MIDNIGHT STUDIO 脚色:Team the JICK 原作:Jung Yoon-kang (C)C&C Revolution Inc./LINEマンガ)
13位『余命僅かだと思ってました!』(漫画:エシー 脚色:hyeyong 原作:Ari Choi/LINEマンガ)
14位『泣いてみろ、乞うてもいい』(漫画:VAN JI 原作:Solche/LINEマンガ)
15位『星剣のソードマスター』(作画:juno 脚色:Hong Dae Ui 原作:Q10/LINEマンガ)
16位『部長K』(脚色:Man's story 作画:jongteak Jung 制作:PTJ COMICS/LINEマンガ)
17位『私の愛する圧制者』(脚色・作画:LICO 原作:Cersei (C)STUDIO LICO/LINEマンガ)
18位『放っておけない関係』(原作:FLADA 脚色:VODAUVEU 作画:クォンクォン/LINEマンガ)
19位『傲慢の時代』(脚色:SOY MEDIA 作画:Hansol 原作:Lemonfrog (C)SOY MEDIA/LINEマンガ)
20位『俺だけ最強超越者〜全世界のチート師匠に認められた〜』(原作:江藤俊司 ネーム:フウワイ 線画:土田健太 背景:3rd Ie 着色:maruco 制作:Studio No.9/Studio No.9)